十三日目7
「ところで、ここに来たのはイイのですが、どうしたらいいんでしょう?」
「あ、そうだった。私がこの塔のボスね。じゃ、そろそろやる?」
「そ、そうだったんですか!?」
テナー・ピタが何でもないように言ってくる。驚くフロシュエルだが、テナー・ピタと闘うのは少々問題だ。何しろ天使同士なのだから。
「で、ですけどテナーさん天使ですよね?」
「ふふ。天使同士は争ってはならない。天使憲法よね?」
クスリと微笑むテナーはすっと腰元のレイピアを引き抜いた。
「これは試合。練習。争っている訳ではないわ。その辺りを天使たちは勘違いしてるのよ。本当は闘い合う事で互いの力を高めた方がいいわ。じゃなきゃ堕天使と敵対した時、何も出来ずに殺される」
ぞくり。テナーの目が細まった瞬間フロシュエルは言い知れない悪寒が駆け廻った。
慌てて横に飛び退くその瞬間、テナーが突き出したレイピアから衝撃波が放たれる。
フロシュエルがずっとその場に留まっていれば、おそらく衝撃波に吹き飛ばされていただろう。
「い、いきなりですか!?」
「仲間と思っていた天使だっていつ堕天してもおかしくないわ。先輩天使からの忠告。疑いなさいフロシュエル。全てを疑い相手の隠す本音を暴きなさい。ただ信じるだけでは人にも悪魔にも私たちは無力になる。天使であることに誇りを持つのもいい。でも相手に合わせて臨機応変に出来る心の余裕を持ちなさい」
バサリと開かれた翼がはためく。テナーが飛翔し再びレイピアが振るわれる。
武器を持たないフロシュエルではこれに反応など……
「あ、そうだ。あれなら!」
魔力を練り上げイメージ。両手に現すのは冷気の剣と火炎の剣。持ち手は熱さも冷たさも感じないように、刀身には状態異常が付くように、魔力剣を作りだす。
「凄い。魔力で剣を作りだしたのね! しかも二本も」
「ぶっつけ本番なのでかなり集中力いりますけど、これもいろいろ試してる段階です。せぇい!」
突き出されたレイピアがフロシュエルに届く次の瞬間、左の炎剣で弾き右の凍結剣で反撃。
左の翼が空を打ち錐揉み回転しながらテナーが高速回避。
回避しながら光の矢を打ちだして来る。
「ダーヂエグザイル!」
「わわっ。リフレクトシールド!」
咄嗟に火炎剣を手から離して掌を迫る光の矢に向ける。楕円形の魔力の塊を作りだした次の瞬間、光の矢が魔力盾にブチ当たり明後日の方向へと跳ね返す。
「リフレクト出来るのはいいけど跳ぶ方向は相手に向けるべきね。あとこのくらいで武器を手放すのは悪手」
魔力剣はフロシュエルの手から零れた瞬間魔力に戻り霧散してしまっている。
また作るには同じだけの魔力が必要になる。
闘いの最中何度も作り直しては手放すなどしていては早々に魔力が無くなってしまうだろう。
それではただの魔力の無駄使い。練習ならば問題無いが、実際の敵と闘う場面では魔力をどれだけ効率よく運営できるかが問題になる。この剣はその点で言えば失敗作だろう。
「奥の手としては使えるわね。何も持っていないと思わせての暗器としては申し分ない。一度見せれば警戒感も生まれるからうかつに近づけなくもなる。でも、実践で使えるのはそのくらい。実力差のない敵や格上相手にはまず通用しないわ」
「分かってますよそのくらい!」
「ホーリーアロー×30」
「ひょえぇぇぇぇっ!?」
光の矢が連続して襲いかかる。足だけでは到底逃げきれなかったためフロシュエルも羽を使って飛び退く。
二人の闘いは空中戦へと突入した。
ふと気付いたフロシュエルだが、ピクシニーはいつの間にか階段に隠れるように退避している。
そんなピクシニーの目の前に流れ弾の光の矢が着弾して悲鳴が上がっていた。
どうしようかと思ったが、助けに向う余裕などなかった。
テナーの周囲には既に次弾が装填されている。
30連続の光の矢が再び発射される。
左手にリフレクトシールドを張りつかせて所々で跳ね返しながらも羽ばたきで回避、お返しとばかりに光の矢を発射する。
単発なのでテナーは即座に避ける。
そして一撃返せば30にもなって返ってくる。まさに弾幕戦である。
遠距離戦はフロシュエルには不利だ。でも、こうしてテナーと闘ったからこそ飛べる相手との戦いも経験できたと言える。
ならばこそ、胸を借りるつもりで戦うしかない。
「っし、ならばこちらも全力です! ラ・ギ、ラ・グ、シェ・ズ、ミュ・ズ、コ・ル、グレ・ゴ……」
「全属性で攻撃? その程度じゃ……あ、あら? ちょっと、何ソレ……」
フロシュエルは地水火風雷光闇と無数の初期魔法を唱え、ミックス・マジックを発動。彼女の周囲に漂っていた属性魔法が全て混ぜ合わさる。
「行きます! マクスウェル・バスター!」
今回も、確かに単発だ。だがその内包された魔力は七色に煌めき、テナーの放った30の矢を飲み込み消滅させていく。
「ば、馬鹿! そんなモノ撃ったら壁破壊されるじゃないっ!」
フロシュエルの放った魔法を慌ててテナーが魔力をぶつけて対消滅……しかし魔力が強過ぎる。対消滅すらせずにテナーへと向かって行った。




