十三日目2
「おー、フローシュじゃん、どしたー?」
ロストに案内された教室に向うと、窓際に居た小影がやってくる。
「あ。お弁当、忘れてたから持って行けと言われました」
「あー、なるなる。ごめんねフローシュ。ほい、コレお駄賃」
弁当を受け取った小影が五百円玉を渡して来た。
臨時収入である。
教室内が小影がお金を渡した瞬間ざわついた気がしがた、フロシュエルはどうでもよかった。
お使いを成功させたので、これから大急ぎで塔に向わないといけないのだ。
小影に別れを告げて踵を返す。
目の前にロストが居て思わず声をあげそうになった。
「そ、そう言えば着いて来てましたね」
「そりゃそうでしょ。聞いたよブエルから。いろいろ教わってるんだって?」
「え? は、はい。まぁ、色々と」
「なんなら僕も手伝ってあげようか?」
「ふぇっ!?」
「もしも教えてほしいことがあるのなら放課後にでもコンビニに来ると良いよブエルと一緒に本呼んでるから」
魔王と魔統王が並んでコンビニで雑誌を読むという意味不明な光景が一瞬フロシュエルの脳裏に浮かんだ。
「じゃ、また」
手を振りながら去っていくロスト、彼の背中が見えなくなるまで、フロシュエルはその場から動けなかった。
とりあえず、魔族がコンビニに居る姿だけは絶対におかしい。でもソレを指摘できるじょうたいではない。
フロシュエルは溜息を吐いて学校から出ることにした。
塔では既に全員が待っていた。
二日目の遅刻となれば流石に下田も呆れた顔をしている。
謝りながら塔の一階に入って来たフロシュエルを見て、はぁっとピクシニーが溜息を吐いた。
「同じ道すら迷うのか……龍華より重症なのがいるとはな」
「一緒にするな。私は方向音痴ではないと言っているだろう」
「ふろーしゅはほうこうおんちなんじゃないよ。なーんにもかんがえてないだけだよ。ねー?」
「それに同意すると思ってますかピクシニーさん。違います。今日は小影さんがお弁当忘れたので持っていったせいで遅れたんです」
ちゃんと正直に言ったはずだった。
「あーはいはい。そういうのいいから。ちゃんとわかってるって」
何を分かっているのだろうか? ピクシニーはしょうがない娘だねぇ。と可哀想なモノを見る目でフローシュを見て来る。心外である。
「と、とにかく、やりましょう。今日こそ師匠に一撃入れて見せます!」
「ほぅ、よかろう。では早速」
龍華とピクシニーが距離を取り、完全が腰を落として構える。
濃密な殺気が周囲に迸った。
思わずのけぞりそうになったフロシュエルは、しかし気力を振り絞る。
圧倒的強者と闘う場合、その闘気に気圧されただけで勝敗など即行で決まってしまう。
魔力を練り上げ身体強化。さらに自分の周囲に物理障壁と魔法障壁を展開し耐性を上げる。
次の瞬間走り寄って来た完全の掌底をぎりぎり受け止める。
かなり吹っ飛ばされたがなんとか受け切った。
「ほぅ、今のを受けられるようになったか」
「ここからです。行きます!」
魔力を溜めこむようにして一気に放出。地面を蹴る瞬間足元を身体強化で蹴り飛ばす。
「むっ、速……」
羽をはばたかせ一瞬で直角に曲がる。
攻撃に反応した完全が驚きを露わにする。
風魔法で壁を作り、そこを足場に再加速。弾丸のように側面から完全の脇腹に拳を叩き込む。
……と見せかけて雷撃を付与した拳でカウンターとして放たれた一撃を受け止める。
「なんっ!?」
「とぉっ」
一瞬だけ、完全の身体が止まる。雷に打たれた条件反射で身体がこわばったのだ。
その一瞬があれば、今のフロシュエルには充分だった。
カウンターの拳を基点に回り、蹴りを叩き込む。
脇腹に喰らった完全は、しかし直撃寸前に身体を引いてダメージを殺していた。
手ごたえの無い一撃にむぅっと唸りつつも距離を取るフロシュエル。
一応合格ではあるのだが、少し悔しい。
「やるじゃないか。次は少し上げていくか」
「ふっふっふ。そう言いつつも次も今日でクリアしちゃいますよ!」
再び構える完全に突撃するフロシュエル。
自分に自信が出て来たことで、彼女は慢心も出始めていた。
自分はやれる。自分はできる。この程度、造作も無いのだと。
調子に乗った瞬間だった。
蹴り込んだ足が掴まれる。
あれ?
思った時には地面に後頭部を打ちつけ意識が飛んでいた。
やはり自分はまだまだでした……フロシュエルは慢心する暇もなく潰されたのだった。
「うぅ、今一瞬記憶が飛びました……」
「いや、十分以上気絶してたからな」
「慢心したな阿呆。自信は必要だが過度の自信は身を滅ぼす。新しく敵に挑む時は必ず相手の特性を考えて動け」
龍華に呆れられて項垂れるフロシュエル。
次の完全からの課題は対投げ技になるそうで、近づいた瞬間身体を掴まれ撃墜されるようだった。
まだまだ完全の全力が発揮されるには至っていなかったと気付かされ、フロシュエルは再び項垂れるのだった。




