十二日目5
「てぇしたもんだ」
吹っ飛ばされたサラマンダーが戦意を無くしたようなので、会話が始まっていた。
フロシュエルとしてはやはり物足りなさを感じるのだが、自分が工夫して闘っていたからだと思う事にする。
まともに真正面から挑んでいれば、負けていたのはフロシュエルの方だったのだから、余裕を持って物足りないと思うのは傲慢だろう。
「さらまんだーみたいにいっけんしてじゃくてんがまるわかりにみえてちがうじゃくてんってやつもいるのだよ」
「まぁ、そういうこった。敵と闘うなら相手の弱点突くのは常道だ。だが相手の弱点に見切りをつけたことで逆に相手にダメージを与えられなくなるって事も起こりうる。ソレが俺との戦いでわかりゃ合格だ」
「なるほど」
風魔法を当てたことでサラマンダー戦が合格したってことか。納得するフロシュエルは思い返す。
ノームは相手の居場所を索敵で探す事、今回は弱点を的確に見抜く事。
つまりこの塔のボスは倒すだけではなく何かしらフロシュエルが気付かなければならないものを問うて来ているのである。
ハンコを押して貰い、フロシュエルは次の階層へと向かう。
四階層、つまりもう半分越えたのだ。
今日中に全部攻略出来そうな気さえしてきた。
「この調子なら今日中に終わりそうですね」
「それ、ふりになりそう。きをつけなよふろーしゅ」
振りじゃないですよ。やですねーっといいながら階段を上り、四階層へ。
階層に入った瞬間、豪風がフロシュエルを弄る。
「うひゃぁっ、何ですかこの風!? 凄く激しいっ」
と、隣のピクシニーに言ったフロシュエルだったが、既に隣にいたはずのピクシニーは存在していなかった。豪風に耐えきれず吹っ飛ばされたようだ。
「ぴ、ピクシニーさぁん!?」
「わ、わたしにかまわずさきにいけー」
虫のように小さなか細い声が耳に届いた。
猛威を振るう風に翻弄されながらも小さな妖精は無事だったようだ。
この風を止めるためにもさっさとここのボス的存在に出会わなければ。
フロシュエルは決意を新たに歩き出す。
羽は使えない。出した瞬間、風を受けて吹っ飛ばされるだけだ。
地面から引き離されないように前傾姿勢で一歩一歩確実に歩く。
ぎりぎり歩ける風圧だからこそまだなんとか前進できているが、少しでも気を抜けば大惨事に発展しかねない。
今フロシュエルがふっ飛ばされれば、その先に居るのは先に吹っ飛ばされて、おそらく壁面にへばりついたままのピクシニーだろう。彼女に重量物であるフロシュエルの身体が襲いかかることになるのだ。
想像して思わずぶるっと震えたフロシュエルは絶対に飛ばされるわけにはいかないと必死に歩く。
途中から風圧が強くなり四つん這いにならなければ歩行すら困難になったモノの、魔力を使い自分の身体を土で地面に固定しながら進むことでなんとか進めるようになった。
「お、来た来た。おっはー。あちしがここの大ボスシルフィード様だーっ」
ピクシニーみたいな妖精がいた。
風で出来た存在なのだろう。薄緑の身体は透き通っていて、フロシュエルが気付いた瞬間霧散。別の場所に現れる。
これと闘うのか? フロシュエルは相手の特性を察して顔を青くする。
現れては消えを繰り返すピクシニーの親戚は、きゃははと笑いながらフロシュエルの周囲を飛び回る。
攻撃されるかと思ったがそんなことはないようで、おそらく彼女を捕まえるか何かする事がここの合格なのだろう。
必死に考えるフロシュエルだが、現状、風の眷族であるシルフィードを捕まえる術は思い浮かばない。となれば、問われているのは彼女を捕まえる術ではないのかもしれない。
風自体が彼女の能力。フロシュエルにとっては風は流動体。魔力も流動体だ。つまり、シルフィードは魔力の塊のようなモノである。ならば……
周囲に薄く魔力を放出する。
「やっぱり、そこです!」
「おおぅっ!?」
出現したシルフィードに土弾をブチ当てる。
驚いた顔のシルフィードが再び霧散、魔力の中に集まる風を察知して土弾をブチ込む。
「なんと!?」
再び当る瞬間霧散したシルフィード。しかし、出現と同時にまたも目の前に土弾。
「おおふっ。位置を見付けるのはいいけどそれだけじゃまだまだ。シルフィード様を止めることはできんですばいっ」
「では、シールド!」
次にシルフィードが現れた周囲を箱に見立てたシールドで取り囲む。
サラマンダーの部屋での失敗がここで生きた。
空気すらも閉じ込めたシールドに阻まれ、シルフィードの現界とともに捕獲完了。
「あ、結局捕獲できちゃいました」
結界を思い切り叩きながらだせーっと叫んでいるらしいシルフィード。音すらも遮断された結界のため彼女の声が聞こえる事も無い。
豪風も彼女を閉じ込めた御蔭で吹きやんだようで、ピクシニーがよろよろとやってきた。




