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試験の試験2

本日三話目。

「あ、小影さんいらっしゃい」


 中庭には犬小屋が一つ。ぽつんとあった。

 その前側で自分の犬にブラッシングをしている一人の少女が小影に気付いてにこやかに微笑む。


「清水さんお久。まぁさっきも話したけど」


「その子が今回の犠牲……んっん。可愛い子ですね」


 フロシュエルは何か言いかけたなぁ。と思いつつも、ブラッシングを掛けられていた犬を見る。

 それは普通の大型犬よりも一回り巨大だった。黒い身体はドーベルマンと呼ぶべき姿。

 しかし、それは犬だけど、犬じゃなかった。

 フロシュエルの気配感知にもビンビンとその存在を主張する瘴気の存在。


 これは、魔物だ。

 というか、三つも首がある生物をただの飼い犬とは呼ばない。

 そいつは、むしろ魔獣ケルベロスと呼ぶべき生物だろう。

 今のフローシュには逆立ちしたって勝てるはずのない生物だった。


 ギロリ。三つ首に同時に見つめられて全身を震わせるフロシュエル。

 その時感じたのはたった一つ。私、死ぬんですかぁ!? だけだった。

 身を強張らせプルプル震えだしたフロシュエルに苦笑して、小影はケルベロスに歩み寄る。


「ちょ、こ、こここ、小影さんっ!?」


 小影は三つ首の真ん中の頭を撫でる。するともっとしろとばかりに他の二つの頭も自分から頭を差し出してきた。


「えっと、この子は健太って名前の私の飼い犬なの。ちょっとやんちゃだから猛犬注意って張り紙してるけど、人懐っこい良い子なのよ」


 現実見て言いましょうよ!? フロシュエルは口から出そうになった言葉を思わず飲み込む。

 一度目を擦ってもう一度健太を見る。姿は全く変わらない。どう見ても大型犬すら喰らい殺す地獄の番犬だ。


「ふふ、驚いた? 清水さんとこの健太、ちょっと前の闘いで瘴気浴びちゃってね。魔物化しちゃったのよ。姿変わったけど健太は健太みたいだからさ、ハニエルに一応報告だけしといて放置してもらってんの」


「それでいいんですか!?」


「あら? 健太だって魔物に成りたくて成った訳じゃないんだもの。ちょっと大きく成っただけで甘えん坊なところは変わらないし。ねぇ健太ぁ♪」


 三つの首が同時に咆える。そして少女に甘える姿にフロシュエルは何も言えなくなった。

 さて。と小影は清水さんたちから離れフロシュエルに向き直る。


「この清水さんの家を通って貰う事になるから、間違えて他の家の敷地に入らないようにね」


「はえ?」


「で、ここの健太の犬小屋横を通ってそこの塀をよじ登る。その後はあの向こうに見える丘の上の洋館に向うルートを歩くのよ」


「はぁ……?」


 良く分かっていないフロシュエルを放置して壁を乗り越えようとする小影。一度振り返って清水さんに手を振った。


「んじゃ、明日からよろしくね健太」


 ワンッと元気よく答えた健太の姿が見る見る成犬のドーベルマン姿になると犬小屋に入って行った。

 どう見ても犬小屋の方が小さかった気がしたのはこういう理由らしい。

 本来の姿を隠し、いつもはそこいらの犬のようにふるまっているようだ。


 危険はないんだと自分に言い聞かせ、フロシュエルは犬小屋の横を通って行く。

 何故かその姿をじぃっと健太に見られていたが、フロシュエルは視線を無視するように小影の後を追った。

 壁をよじ登り、手を振る清水さんに別れを告げてから壁の向こうへと落下する。

 ふぅと息を吐いたフロシュエルの背中は、冷や汗でびっしょりと濡れていた。


 丘を登り洋館へとやってくる小影。

 蔦が生え趣深くなっている洋館は、どこか不気味な静謐を保っていた。

 洋館を見上げるフロシュエル。気のせいだろうか? 洋館の二階に白いワンピースを着た少女がフロシュエルを見つめ返してきている気がする。

 一瞬目を逸らすとその姿は消えていた。


「ここまでの道、覚えた?」


「え? えーっと、多分?」


「一応明日はファニキエルが影から付いて来てくれるそうだから、道を覚えるつもりでいなさい。地図も明日に渡すから」


「は、はい!」


 洋館を回り込み、洋館裏の貯め池横にあるフェンスの穴から這い出る小影。

 フロシュエルもそこから脱出すると、丁度小影の家の近くに出て来ていた。

 ここからならフロシュエルでも小影の家に辿りつけそうである。

 なにせ、目と鼻の先にあるのだから。


「さ。今日は家に帰りましょっか。一応明日の説明はするけど、今日はゆっくりすると良いよ」


「あ、はいっ。人間界は料理が美味しいって聞いてます。楽しみです」


「いや、あんたがここに来たのそういう理由じゃないからね……」


 こりゃ相当頭の中お花畑だ。

 小影は額に手をやりつつ天を仰いだ。

 空はすでに夕闇が迫ろうとしていた。


「とりあえず、成功報酬は上乗せ交渉するしかないかぁ……」


 小影の呟きは、風に乗って流れて消えた。

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