十二日目4
3階へとやってきた。
階段を上った瞬間から蒸し暑い。
部屋自体が灼熱になっているようなじっとりとした空気がフロシュエルを焼いて行く。
「うぅ、なんか凄い熱くないですか?」
「あはは。ふろーしゅ、じぶんのほごしなきゃだめだよー」
自分の保護?
そう思いピクシニーをじぃっと見てみると、なるほど、ピクシニーの周りに魔力が流れている。
どうやら冷気系魔法のようで、身体と外気を遮断して涼しくしているようだ。
魔力の流れを解析して、自分なりに使ってみる。
基本は自分のすぐ外側を流動する断層のイメージだ。
コツは分かっているので直ぐにできた。
やった! と思った次の瞬間、何故か息苦しさを覚える。
驚いたピクシニーが何かを言っているが、声が聞こえて来ない。
視界がぼやける。
あれ? これヤバくない? 思った瞬間、ほぼ反射的に魔法を解除した。
焼けた空気が肺へと入り込み、息苦しくも、なんとか酸素が取り込まれる。
今、普通に死にかけた?
荒く息を吐きながら、死にかけた恐怖に愕然としていると、ピクシニーから呆れた声が掛かった。
「ばっかだねぇふろーしゅ。くうきぜんぶしゃだんしたらちっそくするにきまってるじゃん」
「はぅっ!?」
目から鱗が落ちた。
どうやらただ魔力を流動させて自分と外気を遮断するだけでは意味が無いようだ。
「いいかねふろーしゅくん。せいぶつってのは……」
生物というのは絶えず呼吸をするモノだよ。つまり外気から完全に遮断させてはいけないのです。
使うならばフィルターの役割を持つ魔力障壁にすべし。一定の許可されたモノだけを通して熱気だけを遮断したり、フィルター内で冷却するシステムを構築する。これが効率的な障壁作成なのだよ。
なんてことを上から目線で告げるピクシニー。
ちょっとした失敗だったが、ソレの御蔭で見学するだけのつもりだったピクシニーが勝手に喋り出したので、フロシュエルは黙って聞いておく。
やり方を教えてもらいながら新しい魔法を覚えていくフロシュエル。
ピクシニーが手伝ってしまったことに気付いた時には、既にフロシュエルが障壁魔法を覚えきった後だった。
「ぐぬぬ。も、もうわたしはおしえたりしないんだからね。このとうのあいだはみまもるだけなんだからっ」
「はーい」
クスリと笑いながらフロシュエルは答える。この分なら世話焼きなピクシニーはきっとまた教えてくれるのだろう。
せっかくだから利用させて貰う事にする。
なのでここは素直に頷いておく。
改めて、障壁魔法で外気を遮断したフロシュエル。
清浄な空気だけを自分の周囲に取り寄せ、快適な状態で歩き出す。
周囲は灼熱化しており空気が揺らいですらいるのだが、ピクシニーもフロシュエルも気にした様子も無く歩き出せていた。
この階層は土で出来た2階とは違い、白いブロックを積み上げたような壁と床でダンジョンのように入り組んだ作りになっているようだ。
石畳を踏みしめながら、きっと魔法障壁が切れたら床が熱過ぎてのたうち回るんだろうなぁ。とどうでもいいことを考える。
しばらくダンジョン内を捜索していると、広めの部屋へと辿りついた。
目の前には火蜥蜴のような存在が丸まっている。
フロシュエル達に気付いて、そいつは黄色い目を開いてギョロリと視線を向けて来た。
「来たか。この階層を任されたサラマンダーだ! よろしくッ!!」
鼓膜を破らんばかりの大声に思わず耳を塞ぐ二人。
熱いシャウトのようにサラマンダーの耳障りな声が響く。
なんだかいろいろと喋って来たが、要約すれば先へ進みたければ俺の屍を越えて行け。とまぁ、そんな感じらしい。
四足で動きだしたサラマンダー。フロシュエルも対応するように羽を広げて空へと羽ばたく。
ファイアーブレスに火炎大車輪。
サラマンダーの容赦ない攻撃を悉く避けながら、的確に氷結魔法を打ち込んでいく。
少しズルい気もしたが、相手の弱点がわかっているのならばそこを攻めるのが常道だろう。
だが、選んだ魔法が相手の弱点かどうかは別問題である。
本来ならば炎の弱点は氷か水。それが常識的になっているが、このサラマンダーは違うらしい。
何度も氷が当っているのに気にした風も無く突撃して来るし、氷の弾丸をファイアーブレスで消し飛ばしたりして来る。
何度も繰り返せば、流石にフロシュエルだって気付く。
サラマンダーには大したダメージを与えられていない。
避け損ねた攻撃のダメージでフロシュエルが傷付いているのに、相手は全くノ―ダメージのような動きをしてくるのだから、気のせいではないだろう。サラマンダーの弱点は氷じゃない。
フロシュエルは考える。他の属性で炎に対応できる存在はあるだろうか?
先程のノームの言葉を思い出しながら土の弾丸を打ち込んでみる。
なるほど、ソレとなく効いている気がしなくもない。けど、これも違う気がする。
ならば。
「シェ・ズルガッ!」
フロシュエルの魔力で生み出された動きが風を動かす。
誘導された風がサラマンダーを吹き飛ばした。
これだ! 思わずガッツポーズするフロシュエル。
弱点属性が違うということに少し驚きながらも、そういう事もあるのだと、また一つ賢くなるフロシュエルだった。




