十一日目1
「では、参ります!」
空中機動戦。
フロシュエルは昨日とは打って変わった動きをしていた。
風の流れを身近に感じながら、相手の動きの流れを見る。
空気が動き、風が生まれ、世界が鳴動する。
水の流れを理解した時から、世界の流れが見え始めていた。
自分が動けば空気中にある何かが動き、それが連続して他の物質を押す事で風が生まれる。
この世界の風は世界のどこかでわずかに動いた誰か、あるいは何かの動きが自分に伝わる振動なのだ。
ソレが重なり打ち消し風になる。
ならば、完全といえども動けばそこに風が生まれる。
風の動きを感じるだけで、相手の初動が理解でき、回避率が格段にあがる。
フロシュエルの動きを見て完全も目を見張る。
正直嬉しい誤算。あまりにも一日の飛躍量が高過ぎる。
まるで今まで成長を止められていた麻が水を得て芽をだし、天高く成長するように。
フロシュエルは今、確実に成長期に入っていた。
突き出された拳の風圧を旋回しながら回避して、光の矢を撃ってくる。
拳で打ち払った時にはもうフロシュエルは背後に回り込んでいた。
右足による側面を狙う攻撃。
身体を逸らして回避する。が、次の瞬間ゾクリと背中を何かが這った。
「くっ!?」
見えない弾丸が前方から通り過ぎて行く。
慌てて飛び退いた完全は、唇を舐めてニヤリと笑みを浮かべた。
「やるじゃないか。自分を囮に風魔法を本命か」
「背後に来たと思わせて実は前方から動きの遅い風の弾丸を撃ってみました。時間が経つごとに速度が上がります」
気付いても避けるのが容易ではない一撃だ。
かなり強烈な罠のはずだったのだが、残念ながら完全には防がれてしまった。
といっても、なんとかその場から動かせたのだから大金星とも言えるだろう。
「いや、素晴らしい。では、次にステップアップしましょうか」
「え? 合格じゃないんですか?」
「私が動かずでの相対は合格。次は、動きまわる私に一撃入れなさい」
難易度が格段に上がった気のするフロシュエル。
完全に攻撃など入れられる気がしなかった。
でも、それでも次の段階に入れた以上。自分は確実に実力を付けている。
そう思って気合いを入れ直す。
魔力を自分の身体に循環させ、思い切り突撃する。
結果は……
「もう、ムリです……」
さんざんに打ちのめされたフロシュエルは地面に突っ伏していた。
全身が痛い。間違いなく今まで生きていた中で一番動いている。
羽が攣っている。なんとも言い難い痛みが襲っている。
「ふむ。動きは格段によくなった。攻撃に躊躇いも無い。魔法の扱い、タイミングもよい。あとは経験。それと格上の相手への対処だな。ただやみくもに闘うだけではなく相手の弱点を探すようにしてみろ。気付いてないようだが、今回ワザと弱点を作っているわよ」
その言葉を聞いてフロシュエルは愕然とする。
全く手も足も出なかったのに、弱点を見せていたなど。つまり、自分は相手の動作を見ているつもりでまだまだ見切れていなかったことを痛感させられたのだ。
「でも、良い成長よ。そろそろ暗殺拳の継承に入ってもいいわね」
「はい?」
「ふふ、なんでもないわ」
今、物凄い不穏な事を聞いてしまった気がする。
何を教えられるのか、期待よりも不安感を覚えるフロシュエルだった。
「それじゃあ、少し休憩を挟んだら私と追いかけっこと行こうか」
「は、はい……」
身体を起こしてふぅっと息を吐く。
空を見上げると心地よい風が頬を撫でた。
しばし、静寂が訪れる。
誰も喋らない中、鳥の声、木々のざわめき。自然の音だけが耳を通り抜けて行く。
草原を駆け抜ける風の感覚、地面を歩く虫たちの足音。
少し意識するだけで何かが違って見えて来る。
世界の営みに耳を傾ける。
目を瞑り、周囲に意識を広げて行く。
少しづつ、着実に、自分の何かが広がっていく。
魔力を流し、自分を越えて周囲を侵食していく。
薄く、広く、途切れないように。
……できた。
ゆっくりと目を開く。
やりたかったこと、ずっと憧れていたもの。漫画で見てアニメを見て、映画を見て、使ってみたいと思っていたスキルが、形になって行く。
「よし、いけます」
「ふむ。自信満々だな。よかろう」
すぅっと視線を細めた龍華が鎌を構える。
「では本日二つ目の訓練だ。逃げまどいながら私に一撃当てて見ろ。行くぞ!」
突撃して来る龍華。咄嗟に羽ばたき上空へと飛翔する。
初撃は回避。続く真空波による撃墜攻撃。旋回しながら斜め下へ飛んで森へと入り込む。
追って来る龍華の連撃が前より早い。
まるで鎌が球体を作り出しているかのように激しく動き木々を裁断していく。
風の弾丸をトラップとして置いてみるも、鎌の一撃で切り裂かれた。
魔法すらも切り裂けるらしい。
ちょっと涙目になりながらもフロシュエルは先程使えると踏んだ能力を展開した。




