十日目3
修行が終わると、街中を散策して地図を作製する作業に入る。
龍華に言われた街の公園周辺から調べて行くことにした。
まだ公園しかない地図を片手にてくてくを公園の周辺を歩く。
街の地図でもあれば楽なのだが、ソレを見るとズルになるので、書き方だけを教わって、公園周辺の道から埋めて行くことにする。
公園周辺の道を棒線で引き、外側へ繋がる道の部分だけ線を書かずに残していく。
すると、不思議なことに気付いた。
森だ。公園の南側というべきか、生い茂っている森なのだが、実際に歩いた感覚より森の大きさが小さ過ぎる気がする。というよりも、森ではない。雑木林と言った方が正しい程度の大きさなのだ。
公園周辺を一周し、入口に戻ってきたフロシュエルは首を捻りながら龍華のもとへと戻る。
「あの、龍華さん、地図と森の大きさ合ってない気がします」
「ふむ? ああ、ここの森はおそらく異界化しているんだろう。ゲームのように言うのならばダンジョンという奴だな。魔素が多い場所で偶に空間が歪んでしまう現象だ。大方魔王クラスが生まれたのだろう。討伐しておくからそのうち元に戻る」
なんでもないように言うが大問題なのでは?
唖然とするフロシュエルは次の瞬間気付いた。
その出現した魔王クラスが誰なのか。そして今、何処に居るのか。
どうやら魔王種がいなくなってしばらくすれば魔素が霧散し元の森に戻るそうだ。
ということは、現在魔王が存在する場所では魔素やら邪気が充満し異界化する可能性が……
さぁっと青くなるフロシュエル。だが龍華はフロシュエルを見ておらず、彼女の変化には気付いてないようだった。
「うむ。やはり森にはしばらく入らない方がいいな。管理者に子供が入らないよう徹底して貰う事にしよう。下田、悪いが説明を頼む。私の容姿ではあまりこういう提案は受け入れられんからな」
「私もまだ学生だからあまり相手にされないわ」
「では田辺の御仁に頼むとするか」
と、フロシュエルを放置して二人は田辺さんの座るベンチに向って行く。
フロシュエルはちょっと切ない気持になりながら地図作成に戻ることにした。
そのまま少しずつ、地図を埋めて行く。
見知った場所をさっさと埋めてしまいたい気もするが、公園から徐々に広げる形で地図に書き込んでいく、すると……公園から少し離れた場所に、不思議な塔を見付けた。
廃墟といえば廃墟なのだが、周囲の家々からすると違和感の拭えない場所である。
そもそもこんな塔があるのに今まで気付かなかったこと自体が不自然だ。
まるで人間には気付かれないように結界でも張っているような、しかしフロシュエルが発見できたという事はそこまで強い結界はないのだろう。
地図に塔の絵を描き込んでさらに広げて行く。
井手口さんの家に来たところで暗くなって来たので小影の家に帰ることにした。
自分の足で歩いたからだろうか? 公園周辺はなんとなく迷わず歩ける気がする。
「そうだ、せっかくですからコンビニに行きましょう」
コンビニによって今日こそ自力で商品を買う。
フロシュエルは自分で課した課題を行うべく、ふんすと力を入れ直し、コンビニへと進路を取った。
自動ドアをくぐり、店員さんの挨拶を聞きながら化粧品などが並んだラインを通りすぎ、本棚を素通り……あ、ブエルさんが立ち読みしてる。
…………?
「へぁっ!?」
「む? 小娘か。そろそろ帰宅時間か、魔法の教えだったな」
器用に足と足で本を開いて立ち読みしていたのは、魔王ブエル。普通に立ち読みしていたのでスルーしそうになったものの、どう見ても違和感しかない存在だった。
「な、ななな、なんでここに!?」
「ふむ? 小影に教えて貰ってな。ここならば人間の情報が手に入りやすいらしいし、時間も潰せるということで本日はずっと立ち読みをしていた」
「ずっと!?」
「うむ。小影曰く出るときにコーヒーの一本でも買えばイイらしい。ふむ。そろそろ帰るか」
本を戻して転がるブエル。缶コーヒーを足に取ると、器用に持ったままレジへと向かう。
店員はその姿にぎょっとした様子もなく、バーコードを読み取り普通に会計を終えてありがとうございました。と送り出す。
フロシュエルにとってカオスな光景がそこにあった。
ただただ呆然とブエルを見送り、自分の頬を抓ってみる。痛かった。
今の光景を見なかったことにして買い物に意識を向ける。
本日は前の失敗をしないためにパンを買う事にする。
選んだのは田辺さんに貰ったアンパンだった。
レジに並んで会計。
お金を取り出しお釣りを貰う。
ちゃんと自分で出来たことに感動しながら、店員さんにブエルの事を聞いてみる。
「だって、小影さんのお友達でしょ。なら大丈夫」
という言葉が返ってきた。
小影は一体どういう存在として認識されているのか。謎の多い人物のようだ。




