十日目2
「車輪炎!」
炎で出来た円が完全を襲う。
回転する炎は完全に当る瞬間弾け飛ぶ。
やはり払いのけられる。ただ単発だと簡単に防がれるようだ。
フロシュエルは考える。今まで読んだ漫画の中でこういう時はどうすればいい。
小影と見たアニメを、映画を思い出しながら対戦する。
飛行しながら攻撃を繰り返し、その全てを撃墜させられ、時に寸止めの拳を顔面に受ける。
ダメージは無いモノの、既に何度相手が本気なら殺されている事か。
「ラ・ギ、グレ・ゴ、シャイニーアロー!」
単発がダメなら連続攻撃。
火炎に地弾に光の矢。ホーリーアローと違い、弓を引く動作のいらない閃光の矢が炎と土を追い越し時間差で突撃する。
全てを軽々受け流す完全の背後に回り蹴りを叩き込む。
後ろに目でも付いているのか、しゃがんで回避された。
起き上がり際のアッパーカットが寸止めで入る。
「ふむ。とりあえず今日はここまでだな」
「あ、ありがとうございます」
「さて、今回の闘いに関してだが、丁寧な攻撃はダメージを与える上で一番必要なことだ。しかし、型に嵌った攻撃程避けやすいモノもない。降りてきてここに立ちなさい」
「あ、ハイ」
言われるままに地上に降り立ち完全の目の前にやってくる。
次の瞬間、突然真横から蹴りを叩き込んで来る完全。
咄嗟に腕が動いてガードしようと思ったフロシュエルだったが、実際に寸止めで彼女の元に来た攻撃は、上段蹴りだった。
「今の、えっと……」
「途中で蹴りの軌道を変えたのよ。膝から下は稼働可能だから、この辺りまでなら軌道変更可能なのこんなふうに」
足を振って途中まで蹴りのモーションをする完全は、途中で膝から先の足を上に下にと軌道変更して見せる。
「腕も一緒。肘関節を固定してストレート打つだけが攻撃じゃない。攻撃モーション中に軌道を変えるだけでも攻撃を当てることは可能よ。ダメージこそ劣るけど、闘いは連続した攻撃を当ててダメージを蓄積させることが目的だもの、綺麗に型に嵌った攻撃など実践じゃ殆ど役に立たないわ」
そう言いながら色々な攻撃モーションを見せる完全。
為になるなぁと思いながらフロシュエルはただただ呆然と説明を聞いていた。
「魔法も一緒だ。ただ放つだけじゃなく放った先で誘導させてみたり、破裂させたり工夫をすればそれだけ相手の意表を付ける。一度ソレを見せれば通常魔法と混ぜることで攻撃の幅は格段に広がるわ」
ただ剣で斬り合う、ただ殴り合うではない本当の意味での闘い。
それを教えられた気がしたフロシュエル。
後は応用だと言われ、必死に考える。
残り時間はひたすらに思考に使われた。下田完全を一歩でも動かすにはどうすればいいかを考え、その作戦を練り、技術と魔法を磨くのだ。
田辺さんの差し入れをお昼に食べて、ピクシニーの魔法授業。
いつもの日課で龍華との模擬戦を行う。
逃走しながら龍華の連撃を避けるだけだった今までと少し違った。
考えながら逃げていると、龍華の攻撃が散発的なことに気付いたのだ。
明らかに手を抜いた攻撃をしている。
まるでそこに気付いて反撃して来いとでもいうように、ワザと緩急を付けた攻撃をしているのだ。
今まではただただ必死に逃げるだけだったので気付かなかった。だが、気付いてしまえば逃げるのも少し楽になる。
パターンの決まった攻撃なので、避けるのが容易いのだ。
右左真ん中一拍一閃。これの繰り返し。
たった一拍の隙ではあるが、確かに反撃の隙が作られている。
ならばソレに答えるためには何をすればいい?
フロシュエルは逃げながら必死に考える。
龍華は走りながらフロシュエルを追っている。
逃げるフロシュエルを一定の攻撃手段でただただ左右に避ける事もなく直進して来ているだけなのだ。
つまり、自分の逃げた場所を通ってくる事が初めから分かっていることになる。
「風の弾丸っ」
気付いた瞬間、一拍の隙を付いてシェ・ズを発動。
見えない弾丸を発射することなく、その場に放置して逃げる。
追って来る龍華、次の瞬間……
「ッ!」
ばしゅっと音がした。
咄嗟に鎌の柄で受けた龍華が初めてパターンを崩した。
ふぅっと息を吐いた龍華が体勢を整える。
鎌を地面に降ろし戦闘態勢を解いたので、フロシュエルも立ち止まって龍華のもとへ向う。
「やるじゃないかフローシュ。合格だ」
「や、やっぱりワザと作ってた隙ですか」
「うむ。次は第二段階だ。行くぞ」
「ほえ?」
再び突撃して来た龍華。
密かな喜びのせいで完全に油断していたフロシュエルは突撃して来た龍華のタックルを避ける事も受ける事も出来なかった。
直撃した小柄な弾丸の衝撃に吹っ飛ぶ。
そして、フロシュエルの意識は闇に飲まれた。




