九日目2
「おっはろ~」
午後になってようやくピクシニーが現れた。
どうやら召喚主の知り合いが突然幼女に斬りつけられ重傷を負ったらしい。
酷い辻斬りもあったものだ。
その知り合いの見舞いに主人と一緒に行っていたせいで遅れたらしい。
召喚主の親友だったせいもあり、こんな事をした相手を許せないとか、捜索するとかでこの時間まで掛かったのだとピクシニーが溜息吐いていた。
聞いた話では森で魔王様召喚を行っていたら突然現れた幼女が鎌を振りまわして来て切り裂かれたのだという。
……あれ? とフロシュエルは思わず龍華を見た。
気のせいだろうか? 気のせいだと言ってほしい。
魔王召喚を行っていた人物。龍華が斬った人物。ピクシニーの知り合い。ついでに事の起こりが自分が龍華に報告したこと。
あれあれあれっ?
フロシュエルは何かに気付いてしまった。
しかし誰も気付いてないようだった。
フロシュエルは記憶に蓋をした。
「さって、きょうもがんばってこうかふろーしゅ」
「は、はいっ。そうですね!」
フロシュエルは秘密を守ることを覚えた!
フロシュエルは小さな罪悪感を覚えた!
そしてピクシニーの訓練の面倒さで全て忘れるフロシュエルだった。
土の人形を動かす作業や風、水魔法の作り方。
火魔法ではブエルの車輪を思い出し、思わず車輪型火炎弾を作りだし森を焼いたりしたのだが、少しづつ着実にフロシュエルの実力が上がっているのは誰の目にも明らかった。
「まだまだだねぇ。でもきほんはすこしづつできるようになったかなぁ」
荒削りだがフロシュエル自身も自分の実力が上がっているのはなんとなく理解できた。
もっと強くなりたい。もっと賢くなりたい。
自分に何かが身に付くごとに次を知りたいと思えて来る。
はやる気持ちを押さえ、教わったことを確実に出来るように動きを魔法を、繰り返す。
反復練習ほど面倒臭くて怠惰に負けそうなものはない。
それでもフロシュエルはくじけなかった。
目標があるのだ。そこへ至る道の入り口付近で疲れたと休んでいる暇など彼女には無い。
だから必死に理想の自分だけを見つめて少しづつ着実に前へと進んでいく。
龍華の御蔭で身体の動きを経験を身につけて、完全の御蔭で基礎体力と攻撃方法を身につけて、ピクシニーの御蔭で魔法を身に付ける。
進んだ距離は殆ど無いだろう。それでも、フロシュエルはちゃんと自分が進めていることを確認できていた。
もっとだ。もっと頑張ればもっと皆の期待に答えられる。
だから、修行が終わった後も、反復練習をしないといけないと思う。
選択肢C4:
→ 森の中で復習しよう。
今日は帰って源蔵さんのところに行く。
本日も森へと向かう。
龍華には森へは入るなと言われたものの、やはりあのブエルには一言伝えておくべきだと思うのだ。
龍華と闘うにしても、せめて教わった恩として狙われるかもしれない事くらいは教えておくべきだろう。
しばらく森を彷徨う。
何度か魔物とエンカウントした。
コボルトやスライムだったのでフロシュエルでもなんとか倒せた。
一度倒したせいだろう。コボルトに対する恐れはなく、魔物と遭遇してもちゃんと対処できたのだ。
基礎体力が少し上がった御蔭もある。
相手の攻撃を見て避けれたのだ。龍華の一撃より全くもって遅かったのでむしろこの程度だっけ? と驚いたほどである。
「それにしても、広いなぁ」
森の中はかなり広い。
正直入った方向を覚えておかないと確実に迷う広さである。
なぜ都会にこれ程の森があるのか意味不明だ。
「ぬ? 動くな!」
「ほえっ!?」
突然聞こえた声にびくりと立ち止まり、両手をチョップにして顔の前で構えてしまう。
「あ、あの、ブエルさん、ですか?」
「……ああ、いつぞやの天使モドキか」
「モドキじゃありません! 見習いです!」
ガサリと叢を揺らしてブエルが現れた。
見知った顔を見付けてフロシュエルも警戒を解く。
「ふん。天使見習いならば魔王を見て警戒を解くな阿呆」
「はぅっ!? そうでした!」
「で、まだこの森に居るのか。魔物も多いのだ、殺されぬうちに帰るがいい」
それだけ告げるとさっさと森の奥に消えようとするブエル。
「ま、待ってください。今この森は龍華さんが魔物討伐をしてます。このまま森に留まってると危険ですよ!」
「龍華? まさか放浪の不死者か。チッ面倒な。なぜそのようなことに? まさか我がいることに感づかれたか?」
「あ、いえ、その……」
自分が切っ掛けだとは言いづらいフロシュエルは両手の人差し指をつんつんとしながら押し黙る。
ソレを見た魔王は直ぐに察した。
「貴様何かしたな」
「魔王召喚とか言ってた魔法使いっぽい人がいたので龍華さんに伝えました」
「余計な事を。しかし、確かに面倒だな。あれと闘うとなると少々無理があるか」
「あの、龍華さんとはお知り合いで?」
「いや、顔を合わせたことはない。しかし部下がかなりやられているらしくてな魔王達にとっても危険な存在としてよく話題に上っていた」
意外なところで龍華の話を聞いたフロシュエルはただただ自分が凄い人を師匠に持ったのだと感動せずにはいられなかった。




