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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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八日目4

「龍華さーん」


「ん? どうしたフローシュ?」


 丁度森の入口に居た龍華を見付け、フロシュエルは手を振りながら近づいた。

 今回は入口を常に背中にしていたので直ぐに元に戻れた。

 龍華のもとへやって来たフロシュエルはふぅっと息を吐いて顔を起こす。


「あのですね、森の中に……」


 先程見て来た事を龍華に告げる。

 少し考えた龍華は、ふむ。と頷いた。


「ここから真っ直ぐだったな。今日中に潰しておくか。フローシュは今日は帰ると良い」


「あ、はい」


 ちょっと気になるフロシュエルだったが、龍華がでてくるならむしろあの男の人の方が可哀想かもしれない。

 少し不安に思ったフロシュエルだったが、本日は帰ることにした。

 時間も空いたので昨日行こうかと思ったコンビニに向う事にした。


 コンビニを見付けたフロシュエルは思わず大口開けて見上げてしまった。

 四角いフォルムの家には、電飾が施され、赤茶けた夕日を遮る遮光カーテンがガラス面に降ろされている。


 駐車場には絶えず車の出入りがあり、コンビニに入って少しすると出て来る者と、長々と本を読む物が遮光カーテンの隙間から時折見える。

 フロシュエルはお金を確認した。


 小影から貰った小遣いである。大切に使わなければならない。

 恐る恐る入口のドアを開いて入る。丁度雨避けになっていた入口はガラスで仕切られゴミ捨て場がある。

 自動ドアの手前にガラスの個室が作られ、左右から客が入ってくる施設だ。

 フロシュエルも右側から入り、自動ドアを開けようと近づいた瞬間、ガァーっと勝手にドアが開いた。


 びくんっと驚くフロシュエルは、少しして恐る恐る室内へと入って行く。

 目の前にカウンターがあり、右側にアイス用ショーケース。

 フロシュエルはとまどいながらもそちらを歩く。ショーケースの対面には健康用ドリンク剤、その後左は化粧品で右が傘など日用品。さらに本が並んでいる。


 まさに未知の世界だった。

 フロシュエルは戸惑いながらも周囲を観察する。

 本棚の前では本を読んでいる男が二人。

 一人は週刊雑誌を読み、もう一人は端っこの方にある妖しい本を読んでいる。


 そんな二人を観察しながら入口から対面に位置するボトル飲料の前にやってくる。

 どうすればいいんだろうと観察していると、本を読んでいた一人が本を棚に返してフロシュエルの隣にやって来た。

 ガラスケースを開いてボトルジュースを取り出すと、コーヒーとソレを持ってレジカウンターへと向って行く。

 そして会計。


 なるほど。とフロシュエルは頷いた。

 龍華に周囲を観察する癖を付けろと言われたことがようやく理解出来た気がする。

 こうやって観察することで、初めての場所でも何をすればいいのか分かるのだ。

 ショーケースの中身を観察する。

 気になった缶飲料を取る。そしてレジへと持っていく。

 初めての買い物、恐る恐るレジに置く。


「これ、下さい」


「はい、106円になります。身分証の確認をさせていただいてよろしいですか?」


「身分証!?」


 フロシュエルは混乱した。

 会計には身分証が必要なのだろうか? 混乱しながらも必死に考える。自分には今、身分を証明する物が何も無い。


「身分証が無ければ年齢の御確認ができませんのでお売りする事は……」


「あれー、フローシュちゃん、なにしてるの?」


 泣きそうなフローシュに、運命の女神はほほ笑んだ。

 やって来たのは椎名ののかだ。

 思わず泣き顔が笑みに変わったのは仕方無いことだった。


「あ、あの、ののかさん。商品が買えなくて……」


「そりゃそうだよ。それお酒だし」


「……さけ?」


 根本的に、お酒は20歳から。そんな常識に気付いてないフロシュエルだった。

 その後、ののかの助けでなんとか商品を買う事に成功する。

 情報収集の中途半端さを嘆きながらも、なんとか覚えられたコンビニ利用法に、フロシュエルは少し大人に成れた気がした。


 カルピスジュースを買ったフローシュは、ののかと共に椎名家へと辿りつく。

 このまま源蔵に挨拶していってもよかったのだが、初めて買ったものを飲んでみたかったフロシュエルは丁重に断って小影の家へと戻るのだった。


「おりょ? 早かったねフローシュ。お、早速買って来たのか」


「はい。カルピス水っていうらしいんです。これを……どうやって飲むのでしょう?」


 はて? と戸惑うフロシュエル。

 溜息吐きながら小影が教えてくれたのでペットボトルの飲み方までマスターしてしまった。

 この世界を少しずつ理解できている気がしてくるフロシュエル。

 その報酬として味わう初めての味は、とても癖になる美味しい味だった。


「ふふ、ののかさんの見立ては素晴らしいです。また色々教えてもらいましょう」


 ぐびりとカルピス水を飲みながら一人ごちる。呆れた顔の小影が視界に入ったが、この幸福感を持続させたかったので無視しておいた。

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