八日目1
「はい? 夜中に光ってる家?」
「はい。昨日この家のえーっとなんていえば良いんでしょう、出てこちら側を真っ直ぐ行った先におおきな御屋敷がありまして車が沢山止まってて」
「ああ。コンビニか」
フロシュエルの拙いジェスチャーをなんとか読み取った小影は、朝食をかっくらいながら何の気なしに答えを告げた。
「コンビニ……ですか?」
「ええ。折角だし行ってみたら? ほい、お小遣い」
「あ、ありがとうございます。えーっと?」
お金を貰ったのはいいのだが、これをどうすればいいのか分からずフロシュエルは首を捻った。
人間界の基本は学んだフロシュエルだが、お金の単位は分かってもどう使えばいいのかは分からない。
売買するという知識はあるが、実際に売買を行ったことが無いのでやり方がわからないのだ。
「やり方は、そうね。店員さんにでも聞けばいいわ。商品持ったまま外にでなきゃ大丈夫だから」
「わ、分かりました。夜にでも行ってみます」
食事を終えた小影が先に出かけてしまう。
学校に興味を覚えないでもないフロシュエルだったが、自分に課せられた使命は試験の試験を突破すること。
今は龍華の修行を受けるのが先決なのだ。
と、言う訳で、フロシュエルは早速公園へと足を向けた。
本日も龍華とピクシニーが教師として待っていた。
ピクシニーが両手を腰に当てながらおっそーい。と叫んでいるが、フロシュエルとしてはこれでも急いで来た方なのである。
ぶちぶちと文句垂れたいと思いながらも、ごめんなさいと謝るフロシュエル。
龍華は気にすることなく準備運動を始めていたのでフロシュエルもそれに習う。
まずは軽く龍華と実践だ。死の恐怖が身近にある真剣勝負なだけに絶対に手は抜けない。
とにかく今は龍華への反撃など考えることなくひたすらに避けるに徹し、龍華に指定された動きを直して行くに留める。
龍華の言う狂戦士兵法とやらがどれほどフロシュエルを強化できるのかは不明だが、フロシュエルはただただ愚直に彼女に従った。
「ふむ。そろそろ次の段階に向うのもありか。明日は新しい先生を呼んでおく」
「へう!? ま、まだ先生が増えるのですか!?」
「ああ。彼女は私の知り合いの中でも肉体関連はトップクラスだ。必ずお前の糧になる」
ソレはいいのですが、厳しくない人をお願いしたいです。
そんな言葉をフロシュエルは飲み込む。下手にそんな事を言って龍華を怒らせるのは自殺行為だ。
彼女がフロシュエルのためを思って連れて来る人物なのだから、鬼教官と見ていいだろうし、フロシュエルを鍛えるための人材なのだ。こちらから願い下げるのは筋違いだ。
「ではでは、つぎはまほうのおじかんですな」
ピクシニーの時間がやってきた。
当然、フロシュエルもやる気満々だ。
昨日はあのお方に習って土魔法が使えるようになったのだから。
得意げに土魔法で地面の土を集めて塊を作る。
龍華はソレを見てほほぅと顎を差すって感心を示すが、ピクシニーは納得いかない顔になる。
むすっとした顔を見て、フロシュエルは何か拙かっただろうかと不安になった。
「ちょっと、きのうとまったくちがうじゃん。なにかしてたでしょ!」
「え、えーっと、自主練習を」
「ふーん。わたしがみたかんじ、じしゅれんていどでいちにちでつかえるじょうたいじゃなかったんだけど……」
疑うような眼差しにうぐっと呻いたフロシュエルは思わず視線を逸らす。
あまりにも分かりやすい態度に何か別の要因があったことは龍華もピクシニーも普通に察する事が出来た。
しかし、フロシュエルの成長に貢献できているので深く追求はせず疑いの眼差しだけを送ることにした。
「まぁいいや。ほうしゅつができるならつぎはせいけいだね」
フロシュエルと同じように地面に降りたピクシニーは地面の土を操る。フロシュエルが作った土塊のようなモノを作ったので、フロシュエルはその魔力の流れに注視してみた。
ブエルに言われたことをさっそく実践して人真似をするのだ。
ピクシニーが土を魔力でこねくり回す。そして、ピクシニーの像が彼女の横に出現した。
土で作ったながら、よくできている若干可愛らしくデフォルメされた土の像だ。
ふふん。と胸を張るピクシニーがどうよ? と鼻高々と自慢する。
フロシュエルもピクシニーの魔力の移動方法を行いながら、まずは彼女と同じ方法で土像を作り上げる。
多少不格好だがピクシニー像が二体に増えた。
ソレを見た龍華が思わずくっと笑いを漏らす。
不気味な像にピクシニーもまたイラッとした顔をしていた。
「ちょっとー、それわたしのつもり!? えごころがなーいっ!」
初めて作ったのだ、それは無茶ぶりだと思う。
フロシュエルは半泣きになりながら、龍華に助けを求める。当然差し伸べられることのない手に一人涙にくれるのだった。




