七日目4
「なんとっ!?」
ブエルは爆散した木を見て思わず呻く。
予想以上の威力だったようだ。
取り繕うようにコホンと咳を一つ。
「んん。なんだ。威力については申し分ないな」
「ほ、本当ですか!?」
「それで、復習とはあれを打ち込む練習か?」
「い、いえ。神聖技だけでなく魔法を使えるようにした方がいいと。大天使は使えると言われまして」
「ああ。天使共は神聖技だと言い張っているが、ケルビエルは火魔法を得意とするし、メタトロンなどは雷魔法が得意だろう? 死天使は闇魔法に特化している。四大天使長も地水火風の四元素に特化しておったはずだ」
「そ、そうなのですか!?」
初めて知った。フロシュエルは天使達のヒミツを知らされたようで、軽くショックを受けていた。
自分の信じていた常識がどんどん消えて行く気がする。
どれが本当でどれが違うのか。家に帰ったら脳内を整頓しなければいけないようだ。
「さて、魔法についてだが、原理から覚えて行った方がいいだろう」
「原理、ですか?」
「うむ。この世界でどうやって炎が生まれるのか。水は何故流れるのか。風は何故発生するのか、土は何故ここに存在するのか。そうやって原理を一つ一つ理解したまえ。そうすれば魔法は自然と身に着く」
「原理を……理解する」
それは、簡単なようで、難しい課題だった。原理とは言われてもどうすればそれがそうなると理解出来るのか分からない。
「まぁ、簡単に説明するとだ。炎は空気中の窒素により燃え、酸素を糧に燃え上がる。摩擦を与えると簡単に燃えるぞ。こうだ」
と、その場で回りだすブエル。目の前にあった木に向い、高速回転で駆け上がる。
その瞬間、ブエルの通った道筋が燃え上がった。
うそん。思わず口から漏らすフロシュエル。
燃えがる木を呆然と見つめていると、木の幹から飛んで地面に着地したブエルが直ぐ横へとやってきた。
「どうだ。今のは魔法を使っていないぞ。摩擦があれば火は生まれる。生まれた火は木という可燃物を燃焼材として酸素を取り込み燃え上がる。どうだ?」
「ど、どうっていうか、周辺に燃え移ってますよっ!!?」
「なにぃっ!?」
胸を張るように自慢げに告げていたブエル。周辺の木々に燃え移りだした炎に慌てて風魔法を使う。周辺に燃え広がった。
「なななっ、なんで風魔法使ったんですか!?」
「水魔法は得意ではないのだっ! ええい土魔法だ!」
土でも火が消せる。弱い風では豪火は飛び散る。しっかりと学べたフロシュエルだった。
しかし、学びのために失った森の一角は、しっかりと開けて日の光が降り注ぐ場所となっていた。
周囲の燃え残った木々が痛々しい。
「まずは土か風から覚えるとよい」
ブエルの反省により、彼らは火炎魔法を自己封印する事に決定した。
「では気を取り直して、まずは土だ。土を触ってみろ」
「えっと、触るんですか?」
なぜ、自分は地面を触っているんだろう?
意味不明な事を魔王の前でやっていることに気付いたフロシュエルは何故か悲しくなった。
地面は冷たくざらざらしていた。
直ぐ近くを小さなアリが歩いていたが、フロシュエルの手に気付いたのか足を速めて逃げ出した。
「アリさん可愛い」
「見習い天使?」
「ひゃいっ!?」
「ゴホン。次に土を手に取り握ってみろ」
「はぁ」
一部土を取って握る。冷たい土は掌からパラパラと落下していった。
「それが土だ。石という小さな粒が大量に降り積もってできたモノ。水分を含んでいるため握れば水分でひっつき固まる」
「ほぇぇ。言われてみればそういう事はしりませんでした」
「では、魔法を使おう」
「え? もうですか?」
「土に手を置き思う通りに固めてみよ。こうだ。目に魔力を集中させ魔力の流れもしっかりと見ておけ」
ブエルの言葉にブエルを注視していると、確かに何かの流れが見えた。
目に魔力を流すことで相手の魔力が見えるようになるらしい。これは初めて知ったな。と思いながら見ていると、ブエルの魔力が土を集め、握り、固め、ブエルの目の前に歪な人型を創りだす。
「これが土魔法の基礎だ。やってみるがよい」
「は、はい」
言われるまま、魔力溜まりから魔力を引き出す。
地面に溶けるように広がる魔力を自分の目の前で固まるように念じる。
少しづつ、魔力が指向性を持つのがわかった。
やがて、フロシュエルの目の前に、小さく突き出る土の塊。
やった。そう思った瞬間、目の前が急に滲んで見えなくなった。
「あ、あれ? 目の前が」
「涙を流しておれば見えなくなるに決まっておるだろう。阿呆か?」
指摘されてようやく気付く。
自分が魔法を使えたことが嬉しくて、思わず涙が出たようだ。
ソレに気付くと鼻からも涙が出そうになりそうで思わず啜る。
指向性を持たせていた魔力が霧散してしまったが、できたという事実があればそれだけで幸福だった。
自分は役立たずじゃなかった。まだやれることがある。伸びる能力がある。
それがわかったのが嬉しくて、皆の期待に答えることが出来ると分かったのが嬉しくて、魔王の前だというのに、フロシュエルは嬉し泣きで号泣するのだった。




