七日目1
「あ……あぁ……」
本日も修行だ。
フロシュエルは気合いを入れて家を出た。
今日は神聖技のレパートリー増やすことを教えてくれるらしい新しい師匠が来る日でもあった。
だから、フロシュエルのテンションはとても高かった。
龍華の待つ公園に辿りつくまでは。
目の前に、新たな師匠がいた。
龍華の直ぐ横でふよふよと浮遊する一体の悪魔。
トンボを思わせる四枚羽の羽を羽ばたかせ、宙を舞いながら腰に手を当て仁王立ちする小型の少女は、フロシュエルが来たのを見て「おそいっ!」と叫ぶ。
その容姿はピンクの髪、手のひらサイズの容姿はどう見ても妖精。
そして、つい先日フロシュエルをバカにして去って行った妖精その人であった。
「きゅうま、ぴくしにーだよ。よろしく~」
ニヤニヤと笑みを浮かべる吸魔ピクシニー。
そう、フロシュエルは吸魔ピクシニーを捕まえる方法を吸魔ピクシニーに習うという謎の状況に陥っていたのである。
「な、なんでこうなるのですかぁっ」
「んん? なんでこいつはおちこんだのかな?」
「知らん。フロシュエルの思考回路を理解しようとする方が無謀だからな」
二人揃って慈悲はない。
フロシュエルは己の身に振りかかる不幸を呪ったが、もはやどうにもならない状況だった。
午前中は龍華に昨日の復習を行われ、後はひたすらに龍華から逃げるというサバイバル。
昼は龍華が用意していた食事、握り飯を食べる。
聞けば田辺さんから貰ったモノらしい。
聞かなければよかったと思いながら食べたおにぎりは、塩味が効いてとてもおいしかった。
ピクシニーが自分以上の大きさがあるおにぎりを抱えて食べる姿に驚いたものだが、結局彼女は三分の一も食べきれずにギブアップ。
残りをひょいと取り上げた龍華が腹に収めていた。
午後からは魔法の授業。
今回から参戦するピクシニーによる魔法講座が始まった。
「はい、先生」
「なにかねふろーしゅくん」
「私が扱うのは神聖技です。魔法ではないのですが」
「ふふん。ばっかだなぁふろーしゅくんは」
得意げに鼻を鳴らすピクシニー。やはり握りつぶしてやりたい。とムッとするフロシュエルだったが、どうせ暴れてもピクシニーにやり込められるだけなのでぐっと堪える。
「いいかねふろーしゅくん。てんしどもはしんせいぎ。なーんてごたいそうによんでらっしゃいますが、しんせいぎってのはようするにひかりぞくせいのまほうでしかないのだよ」
今まで一度たりとて聞いたことのない新事実だった。
フロシュエルが受けた衝撃は計り知れない。
何しろ自分たちが扱う神聖技が、悪魔の使う多種多様な魔法の一つでしかないと言われたのだから。
自分たちは特別だ。天使なのだと、叫びたい気持ちをなんとか堪える。
指摘したところでバカにされるだけだ。
そして、おそらくだが、ピクシニーの方が正しい。
なにせ龍華ですら聖力ではなく魔力と言っていたのだ。つまり、悪魔たちは天使が扱うものも魔法の一種と認識しているという事でもある。
フロシュエルは自分の手を見る。
その手が扱う神聖技は、魔法でしかなかったのだ。認めたくないが、認めてしまえば何かを突破出来るような気がした。
「ではでは、まずはじぶんのまりょくとくせいをはあくしましょう!」
「魔力特性。ですか?」
「てんしであろうともむきふむきがあるのだよ。ほら、いかづちのてんしとか、しものてんしとか。ぞくせいがあるでしょ」
ピクシニーが告げるには、魔法を使う使用者により得意な属性が別れるらしい。一応は全ての属性を誰もが使えるらしいのだけど、詠唱やら使用魔力などの使い勝手からして扱う属性は偏らせた専門属性にした方がいいこともあるが、全て均等に使えるのならば全属性使いとなることも可能である。
大抵は二属性から三属性の魔法を扱うのが魔界では主流らしい。
今のところメジャーどころとして知られているのは火、水、風、地、光、闇、氷、雷、爆、身体強化、アシスト。といったところで、他にも幾つもあるが、大きく分けた属性はこの十属性だそうだ。
また、神々による特性、神属性として消失魔法、溶解魔法なども存在する。
「とりあえず、まずはきほんぞくせいいってみよっか」
ピクシニーが使える魔法から、どういう風に魔力を流しどんな現象を起こすのかをふわっとした言葉で伝えられる、アレをぬーっとだして、これをぶわーっと流して、こう、うんぬーっと力を入れたらぼあってなるのよ! と得意げに言われても、フロシュエルには何をどうしたらそうなるのか全く理解できなかった。
龍華も隣で聞いていて首を捻っていたのでフロシュエルが理解できないバカだという訳でもないらしい。要するに、教えを請う相手を間違えた。そういうことだ。




