六日目3
フロシュエルは後悔していた。
必殺を作ろうとしていたこと?
森で秘密特訓をしようとしたこと?
ソレを妖精に見つかってヤジられたこと?
どれも後悔ではあるがソレ以上の後悔がある。
そう、フロシュエルは油断した。
相手が悪魔と気付いて攻撃を行おうとしたまではまだよかった。
だが、相手の魔法を避ける事もレジストすることもしなかった。
だから、こんな状況になっている。
「あれあれ~どうしたの~うごけないの~? あーかわいそう。ラ・グのまほうでまひっちゃったんだねー。きゃはははは。あーあ。ますたーがいないからいじりがいがないなぁ」
現在、フロシュエルは絶賛麻痺の状態異常に掛かっていた。
動けないフロシュエルの周囲を妖精が飛びまわりフロシュエルを扱き下ろして行く。
攻撃されている訳ではないが、これはこれで精神的ダメージが計り知れない。
「ま、待っていなさい、麻痺が解けたらアナタなんて……」
「ほっほーう。そういうこと言っちゃう? ならば……こうだっ」
妖精はすっとフロシュエルの脇に飛行で向うと、つんっと突っついた。
「~~~~っ!!?」
想像以上の刺激でフロシュエルは悶えそうになる。しかし身体は麻痺して動かない。
「ふっふっふ。ぜんしんがちょうじかんせいざしたあとのあしみたいになっているのだよ。ほーれほーれ」
フロシュエルは動けない。
様々な体の部位を妖精が突っつくたびに痺れる感覚に身体を仰け反らせたくなる。
しかし、それを麻痺が許さない。
結果、フロシュエルはいっそ殺せと思える程のダメージを受けていた。
「おっとそろそろきれそうだね。それじゃ、ばいばーい」
妖精は楽しそうに告げながら宙を舞ってフロシュエルを挑発し、そのまま森の中へと消えて行った。
麻痺が解ける。
力が抜けたようにその場に崩れ落ちたフロシュエルは、初めての敗北に全身を震わせたのだった。
「つ、次会ったら……絶対……うぅ……」
回復聖技で動けるようになったので、なんとか自力で立ち上がる。
今から探したとしてもあの忌々しい妖精は見つからないだろう。
ピンクのストレートヘアの妖精。姿は覚えた。あの嫌らしい笑みを浮かべる顔も絶対に見忘れない。
「龍華さんの扱きで力を付けて、必ず私が抹消してあげるんだから!」
覚えてなさい妖精!
そんな負け犬の遠吠えを叫び、フロシュエルは肩を落としてその場を後にするのだった。
悔しいことだが、今はあの妖精にすら勝つことは出来ないだろう。
でも、結局力の足りない今は泣き寝入りである。
悔し涙を流しながらもフロシュエルは明日へ向けて家に帰ることにしたのだった。
まだ、この程度で止めるわけにはいかないのだ。
「小影さーんっ」
「あ、お帰りフロ……おわっ」
家に帰り着くなり小影さんに泣き付く。
気分は青ダヌキに抱き付くメガネ君だ。
「はいはい、どうしたどうした?」
「悔しいです。妖精にバカにされましたぁ」
「あー、そりゃなんというか……御愁傷様?」
「鼻を明かしてやりたいです。なんかすごく悔しいです。どうしたらいいですか」
「いやいや。妖精の悪戯にあっただけならもう、泣き寝入りでいいんじゃない? お金にもならないんだから放置でいいわよ」
「そ、そんなぁ」
「そうねぇ。何なら神聖技で捕まえてやったら?」
「神聖技で?」
「ええ。例えば綱のように網目状にして投網して捕獲とか。トラップ状に配置して、手動で捕獲とか、色々あるでしょ?」
言われてフロシュエルは考える。しかし、今はまだ自分の中にある知識では少なすぎた。
「まずは捕まえないと意味がないからねぇ。どうしよっか」
小影がんーっと考えて、ぽんっと手を打つ。
「よし、なら明日アイツに頼んでみよう。この前知り合ったんだけどさ、黙人君っていう気の弱い子が魔物飼ってんのよ。倒そうかどうしようか考えたんだけどあの魔物と結構話が合ってさぁ、結局借りって形で放置してるから借りを返して貰っとくわ。龍華のところに向うよう告げとくから教えてもらいなさい」
「龍華さんの修行だけでも充分過ぎる気がするのですが?」
「強くなるならいいんじゃん。もっとやるがよい」
「そうなんですけど……そうなんですけどぉ」
納得いかない気はするのだけれど、小影に言いきられる形でしぶしぶ了承するフロシュエルだった。
師匠が一人増えることになったなぁ。
はぁっと溜息吐きながら、電話を始めた小影を見つめる。
どうやら件の黙人君とやらに連絡を取っているようだ。
「んし、オッケーだって。明日龍華んとこに吸魔の子がいるから、魔法の使い方教えてもらいなさい」
「はいっ」
だが、フロシュエルは気付かなかった。
吸魔という言葉を、つい数時間前に聞いていたということを。
出会った魔物が探していたマスターが誰なのかということを。




