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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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六日目1

「ふぁあ~、本日からが本番かぁ」


 まだ眠い身体で外を歩く。

 昨日読んだ本は修行の仕方が良く書かれていた。

 亀の甲羅背負って畑耕したり、牛乳瓶の籠持ってたり。

 ああいうの、私もやった方が良いのかな? フロシュエルは思ったりもしたが、龍華という名の鬼教官がいるので、早朝にそんな練習を取り入れたら自分が死んでしまいかねない。

 なので、やるべきリストに入れつつも今は龍華の言葉を忠実に行うだけにすることにした。


「来たか」


「はい。えっと、今日は何を?」


「まずは軽く復習と行こう。矢をそこに打ち込め。まずは全力。次に威力を引き絞る事をやってみろ。全力で扱うより敵に合わせて効率的な魔力運用を行った方がいいからな」


 言われるままに、全力のホーリーアロー。

 本日も、木が一つ爆散した。

 これ、自然破壊にならないのかな? と思ったけれど、天使憲法に違反した。といった感覚はないので問題は無さそうだ。


 つづいて、隣の木に力を押さえる意識をして同じくホーリーアロー。

 木の幹が爆散したが、半分以上は残った。

 次に極力魔力を絞っての一撃。今までのホーリーアローだ。木の幹に小さな風穴が開いた。


「ふむ、魔力調節は問題無いな。もう少し絞り方を覚えれば敵に合わせた魔力運用も楽に出来るだろう」


 言われるままにやっただけなのでフロシュエルとしてはまだ不安があったが、後は自分次第だと言われれば、自主練習するしかないだろう。


「では、次は実践で行ってみようか」


「はい?」


 ちゃきり。

 いつの間にか大鎌を構えていらっしゃる龍華。

 気付いたフロシュエルの顔から血の気が引いた。


「さぁ、始めよう」


「い、いやああああああああああああああああああああああああっ!?」




 日暮れ前、フロシュエルは大地に突っ伏していた。

 既に満身創痍な彼女は立ち上がる余裕も無い。

 狂戦士兵法という名のイジメを受けた気分である。


「狂戦士兵法の動きは理解できたか?」


「な、なんとか……?」


 息も絶え絶えにそれだけ告げる。

 しかし、龍華は容赦なかった。


「よし、回復魔法を使い終えたら次に移ろう」


「い、いえいえいえ、もう充分なんじゃ……」


「残念だが、お前には知識が足らん。ここからは勉強会だ」


 身体を動かす前にしてほしかった。

 そんな思いを飲み込み、フロシュエルは魔法で自分を回復する。


「では本日の勉強は孫子兵法を行う。これは遥か昔に造られた兵法書だが私が生まれるより前に有りながら今まで世界各地で使用されている基本兵術書という奴だ。古き技術を基礎として新しき技術を編み出す。これぞ温故知新。さぁ、始めるぞフロシュエル」


 兵法書というのは難しい。

 フロシュエルの頭脳には収まり切らない知識があまりにも多過ぎた。

 頭からぷすぷすと煙を噴きながら、龍華の話を聞き続ける。

 もはや日本語なのに未知の言葉にしか聞こえない。

 なんとか覚え切れたのは三十六計逃げるにしかず。程度である。


 龍華に質問されて答えたら強烈な一撃を肩に喰らって泣きそうになった。

 痛みと共に覚えたせいか、兵法を口にしようとすると何故か肩に痛みを覚えるようになったが、フロシュエルの頭脳に兵法が詰め込まれたのは龍華の意地である。


「地形者、兵之助。地之道也、将之至任、不可不察也」


「ふむ。まぁ、今日はこのくらいでよいか」


 煙を吐き散らしたフロシュエルが真横に倒れる。

 その姿を見届けながら龍華が去っていく。

 今日の修練はこれで終了のようだ。


 気が付けば、既に夕方を越えようかという時間帯。

 お昼ご飯は食べてない。ぐきゅるるると鳴り響く腹の音でフロシュエルは消えそうになっていた思考を取り戻す。

 とりあえず、食事がしたい。

 でも、折角習ったことの練習もしたい気がする。


 そんなフロシュエルの元に、一人、誰かがやってきた。

 ぴとりと頬に当てられる。

 冷たい感触に目をやれば、缶ジュース。

 その持ち主は……


「た、田辺さん!?」


「お疲れのようですねフローシュさん」


「あ、う……」


「どうぞ、こちらは私からの差し入れです。お金を要求したりはしませんよ」


 柔和な笑みを浮かべて缶ジュースとアンパンを差し出して来る田辺さん。

 素直に受け取れないのは彼に裏切られたからだろう。

 なのに、なぜ、そんな優しくしてくれるのか?

 フロシュエルには訳が分からなくなってくる。


「いりませんか?」


「それはその……」


「では、ここに置いておきます。いらなければそのまま置いて行って下さい」


 そう告げると、さっさと去っていってしまう。

 何が目的なのかは分からなかった。もしかしたら本当にただの親切かと思ってしまう。でも、なぜか悔しいけれど、嬉し涙が溢れて止まらなかった。

 ジュースとアンパンを有難く頂いておく。

 もしもこれが何かの策略であったとしても、私は、そう、私は愚直に信じたい。田辺さんが良い人だと、信じたいのだ。

 フロシュエルはグビリとアンパンをジュースで流し込み、立ち上がる。


 選択肢C:

   → 森の中で復習しよう。

     とりあえず今日は帰って源蔵さんのところに行く。

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