表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
31/177

五日目7

「へあっ!!」


「ひゃいっ!?」


 源蔵さんはおかしい。

 そう気付くのに、いくらも要しなかった。

 フロシュエルは一分もたたない内にこの老人の異常さに気付いていた。


 なにしろ、突然叫びだしたかと思えば、飯はまだかと聞いて来る。

 フロシュエルと会話していたかと思えば突如お前は誰だと聞いて来る。

 奇声を発したかと思えば次の瞬間にはお茶を飲んで落ちついた顔でほぉっと息をついていたり。


 ―ぶっ―


 謎の音と共に源蔵さんが数センチ浮き上がった。

 一瞬見間違いかと目を擦る。

 源蔵さんは普通にお茶を嗜んでいた。


「ところでフロシュエルや。ハニエルは元気にしとるかね」


「え? はい、今は小影さんの家で……ってなんでハニエル様のこと知って!?」


「そりゃあもちろんハニエルとはハニ……ハニエルとは誰じゃったかいの?」


 意思疎通不可能だ!?

 フロシュエルは初めて会話を諦めようと思った。

 そんな折、美味しそうな匂いが漂って来る。

 どうやら料理が出来たようだ。


「そろそろお食事ですよ」


「ほぅ、もうそんな時間か? さっき食べたような気がせんでもないがのぅ」


 さっきから飯はまだかと言っていたんじゃ?

 なんて疑問も浮かんだが、指摘はしないでおくフロシュエルだった。

 とにかく、この人は痴呆症か何かなんだと思っておく。


「ん? お客さんじゃな。ちょっと待っとれ」


 不意に、何かに気付いた源蔵さん。次の瞬間、一瞬にして姿が消えた。

 へ? と驚くフロシュエル。慌てて立ち上がり源蔵を探すが部屋の中にはどこにも居ない。

 先程まで座っていた場所にも欠片すら存在しなかった。


「え? え? ええ? ええええええっ!?」


「あら? どうしたのフローシュちゃん?」


「あ、ののかさん、あの、源蔵さんが! 源蔵さんが今消えちゃって!」


 慌てふためくフロシュエルが余程面白かったのだろう。くすくすと笑いながら彼女はすっと指を向ける。

 先程まで源蔵の居た場所に指先を向け、言った。


「何言ってるのフローシュちゃん、ほらお爺ちゃんならそこに座っているじゃない?」


「い、いえ、ですから……って、あれ?」


 振り向けば、そこにはお茶を飲んで一服している源蔵の姿。

 意味が分からず混乱するフロシュエルに忍び笑いしながらののかが食事をちゃぶ台へと置いて行く。


「お梅さんや、立ってないで座ったらどうじゃね?」


「え? いや、私梅さんじゃないですよ?」


 混乱したまま三人で食事をする。

 不思議な老人だが、この家庭で食べた食事は、小影の家で無言で食べる食事より、いささか居心地のいいものだった。


「ののかや、飯はまだかい!?」


「今食べてるのがご飯よおじいちゃん」


 源蔵さんのボケにも素で返すののかさん。もはや手慣れたものなのだろう。

 喋り散らすたびにぼろぼろ零す源蔵さんの食事マナーの悪さにも笑顔で対応するのが凄いと思えるフロシュエルだった。

 だが、そう思いながら、ふと、疑問が生まれる。


 少しの邂逅だけだが、フロシュエルにとってこの源蔵さんは疲れる相手だった。

 そんな相手と四六時中一緒に居るのは、疲れないのだろうか?

 そんな疑問をぶつけてみると、ののかはクスリと笑いながら告げた。


「だって、肉親だもの。大切な家族が目の前で笑ってくれる。それはかけがえのないものなのよ? お爺ちゃんもね、寂しいの。ずっと暗い穴の底で一人寂しくいるよりも、今がどれだけ幸せなことなのか。いつもより張っちゃけて見えるのもフローシュちゃんが気に入ったのね」


「そ、そうなんですかね?」


「ええ。よかったらまた遊びに来てね」


「源蔵十変化をお見せするぞい。ほあああああああっ」


「はいはい、それはまた今度ねおじいちゃん」


 不思議な二人との食事を終えて、フロシュエルは家を後にする。

 すっかりと暗くなった夜の帳を見上げながら、一人小影の家へと帰りついた。

 街灯に照らされた道以外は薄暗く、何か恐ろしいモノが出て来そうな気配すらする。


 人間界の夜道は危険が多いらしい。先輩天使からも小影からもののかからまでも気を付けるように言われてしまった。

 なので、早足で小影の家へと帰りつく。

 たった四軒だ。迷う事はさすがになかった。

 家に帰るとダイニングルームでお茶を啜っている小影が一人。

 母親は既に眠ってしまったらしい。


「お帰りフローシュ」


「はい。ただいま帰りました」


「どう、源蔵さん、面白かったでしょ」


「面白いというかなんというか……変わった方ですね」


「ええ。本当に、変わった奴なのあいつはね」


 さぁ。と立ち上がる小影。


「風呂は沸いてるわ。風呂に入ったら後は寝るだけ、私はこれからお仕事だから外出るね」


「あ、はい。それではお風呂頂きます」


 小影と別れお風呂に向う。

 人間っていろんな人がいるんだな。今まで出会った人々を思い返し、なぜか楽しくなるフロシュエルだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ