五日目6
投稿日、一日遅れました<(_ _)>
「ここだよね?」
椎名ののかに連れられて来たのは、小影の家だった。
まさか普通に辿りつけるとは思っていなかっただけに、フロシュエルの感動も一入だ。
どうやって辿りついたのだろうか?
「椎名さんは魔術師か何かですか!? オートマッピングとかできるんですか!?」
「え? いやいや、オートマッピングって、源蔵じいちゃんと同じようなこと言うわねフローシュちゃん。実を言うとね、私の家、あそこなの」
四つ程隣に向った家を指差すののか。
意外と近いんだ。と感心しつつふと気付く。
「あれ? そうなるともしかして……」
「あはは。気付いちゃった? さっき私と出会った場所を左に曲がれば私の家の前にでるのだよ」
えっへんと胸を張るののか。お姉さんぶりたい様子なのだが、その動きがなぜか子供っぽくて親しみが持てるなぁ。とフロシュエルは同世代の知り合いに出会ったような気分になっていた。
「そうだ。フローシュちゃん暇?」
「え? はい、まぁ、後は家に帰るだけですね。もう夕方過ぎちゃってますけど……」
「そうだよねぇ。じゃあ小影ちゃんに告げるということで、彼女ぉ、ちょっと寄ってかない?」
それ、古いナンパの手法ですよね? 天界で習ったこんな事言う人には付いて行ってはいけない。という台詞集から抜粋されたような言葉を聞いてフロシュエルは思わず苦笑する。
「おーい、小影ちゃーん。フローシュちゃんちょっち借りるよ~」
ふと気付けば、丁度学校から帰宅して来たらしい小影の姿。隣には冷めた表情のお下げの少女も一緒に居たが、フロシュエルたちに気付くと、じゃ。と短く応えて小影から離れていく。
「あ、物未、今日の討伐11時集合ね」
小影の言葉に反応すらせずに消える物未と呼ばれた少女。その背中を見送った小影がこちらにやってくる。
「おやおやフローシュがののかさんと知り合ってるじゃん。源蔵のじぃちゃんに会わせるの? ん、じゃあ今日の夜食はそっちでよろ」
「おっけい。私の腕が光って唸るわ! フローシュちゃんを死出の旅路にご招待するんだから」
いろいろ間違ってないですか? 急に不安になるフロシュエルを放置して、ののかがフロシュエルを引っ張っていく。
それを見送りながら小影もまた、自宅へと引っ込むのだった。
椎名家。
昭和から抜け出てきたような中流家庭といった外観を持つ庭付きの一戸建て。
スライド式のドアをがらりと開き、ののかがフロシュエルを中へと招く。
ぎしぎしと鳴り響く廊下を歩き、居間へと向かう。
促されるまま入ると、目の前に居たお爺さんがちゃぶ台を叩き身を乗り出した。
「しいぃなぁぁぁぁっ、げん、ぞう、じゃあああああああああああああああああああああっ!!」
物凄い大音量で叫んだのは頭頂部だけが生き残った白髪の老人。
太い眉毛に目が隠れ、顎髭が立派に伸びている。全体的に色白の老人は、着物を着ていた。
乗り出した瞬間ちゃぶ台に乗った湯呑が倒れるそうになったので、慌てて防いだ。
指先を湯呑の中に突っ込みあっちゃあぁぁぁぁぁぁっ!? とついでに叫んでいたが、それを見て呆然とするフロシュエルにののかが苦笑する。
「うちのおじいちゃん、いつもこうなの」
「は、はぁ……」
「おじいちゃん、いっつも暇してるから、もし暇があるようだったら話し相手になってあげてね。それじゃあ、夕飯作ってくるね」
そう言って、ののかが去っていく。
後に残されたのは指をふーふーとしている源蔵と、どうしていいのか分からず居間の前で呆然と佇んでいるフロシュエルだった。
居間は畳張りの六畳間。腰の高さに満たない小物入れが幾つかあり、その一つの上には黒電話が乗っている。
壁掛けハト時計がカチコチと音を鳴らす中、源蔵はようやく熱さを克服した。
「よぅ来たのフロシュエル。まぁ、そこにしゅわりんしゃい」
「あ、はい」
促されるまま室内に足を踏み入れ縮こまるようにちゃぶ台の一角に座る。
思わず座った座り方は習っても居ないのに正座だった。
そんな動きをしながら、ふと気付く。私、名前言ったっけ? と。
「儂が椎名源蔵じゃ!」
「あ、はい」
さっき聞きました。そう思いながらもこわごわ声を返すフロシュエル。
怒鳴るような源蔵の声はフロシュエルには苦手なものだった。
「ののかや! 飯はまだかいっ」
「え? あの、私ののかさんじゃ……」
「おお? そうかの? ののかじゃないとはどういうことじゃ? お前さんは誰じゃったかいのぅ? おおっ!! お梅さんか!! 久しぶりじゃなぁ!!」
お梅さんって誰ですか!? っていうかさっき私の名前いいましたよね!?
意味不明の言動を繰り返す源蔵に、早くも家に帰りたくなったフロシュエルだった。




