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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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五日目5

 龍華と別れたフロシュエルは、暇を持て余していた。

 一応、ここから清水さん家に向い、洋館に向うのもいいのだが、折角龍華が自分を信じろと言ってくれたのだ。本日からは向うことなく帰った方が良いのだろう。


 できるなら今の魔法の威力を洋館で試してみたいところだが、それはなんだか龍華を裏切ったような気がしてしまうので、向うのを憚られた。

 とりあえず帰ろう。

 フロシュエルは言われるままに帰ることにした。


 来た道を引き返す。

 そのつもりだったのだが、どうにも道がよくわからない。

 来た道を戻るのは初めてだったせいだろう。どうにも見覚えの無い街並みに見えてしまい、曲がり角を間違えたようだ。


 はれ? と気付いた時には既に小影の家がどこにあるのかすらわからない状況になっていた。

 おかしい。同じ道を戻ってきただけのはずなのになぜ?

 網目状の街並みは、こうしてみるとやはり特徴がないように見える。

 どこに向っても同じ景色。出口の無い迷宮に迷い込んだ気さえする。


 それでも、前に進もう。

 今日、龍華の修行を受けたフロシュエルはやる気に満ちていた。

 たかが道に迷った程度で泣きそうになったりはしない。

 泣きべそなんて掻いていないのだ。


 ゆっくり歩いていた足は、だんだんと早足に、表情も少しづつ強張っているが泣いてはいない。

 迷子じゃない。迷子になんてなっていない。

 そう、フロシュエルは迷っているのではない。迷宮を探索しているのだ!


「こ、小影さぁん。どこですかぁ……」


 泣き声のようなモノが自分の口から洩れた気がするが気のせいだ。

 迷子じゃない。迷子じゃないのだ。むしろ小影に会うという任務の真っ最中なのだ。

 ただ、この任務がちょっと厄介だっただけなのだ。


 そんな思いで探索を始めて数時間。

 空はすでに茜色に染まっており、太陽はゆっくりと家の合間に消えようとしていた。

 夜になったら完全に詰む。

 それはマズい。

 小影さんが探しに来てくれればいいが、それで迷子がバレたら……


「いいえ、迷子ではありません。そう、迷子ではないのです」


 落ちつこう。落ち付け私。

 フロシュエルは必死に自分を落ちつける。

 まずはは深呼吸。

 鼻水垂らした少年が指咥えてフロシュエルを見ているが、今は無視だ。彼に構っている暇などない。


 よし、落ち付いた。

 落ち付いたら考えよう。自分が今どんな状況になっているのか。

 そして敵の有無を確認し、目標を設定。自分の状態を把握して、何が出来るか、何をやれるか。まずはそこからゆっくりと考える。

 時間が無い時程焦ってはいけない。龍華に言われたことがさっそく役に立ちそうだ。


「ムゥ、そこの少年が邪魔ですね。いなければ屋根に飛び乗って周囲を見れるのに」


 少年には気付かれない程の小声で思わず呟き、慌ててその思考を削除する。

 危ない危ない。邪魔だなんていけないわフローシュ。

 そういう事を言ってもいいのは悪魔相手だけよ。

 自分自身に言い聞かせ、フロシュエルは周囲を見回す。


 全部同じに見えるが所々は確かに違うのだ。

 特徴を見極めて前に進む、同じ場所に出てしまっても分かるように、覚えていかないと。

 少年の居た場所を基点に少しづつ歩を進めていく。

 迷路のようでわかりづらいが、回りをしっかりと見ているとなんとなく違いが分かってきた気がする。


 あくまでも気がするだけなのであまり正確ではないが、同じ場所に出たかどうかだけはなんとなくわかるようになってきた。

 しかし、自分がどこに居るのかは本当に全く分からない。

 まるで都会のジャングルだ。

 フロシュエルは泣きそうな気持ちを押さえ、必死に道を探して行く。


「あら? どうかしたの?」


 不意に、声が聞こえた。

 直ぐ横の路地に女性がいた。

 見たことのない人間だが、不思議そうに首を捻る彼女から敵意等は感じない。

 完全に善意で声を掛けたようで、フロシュエルからすれば渡りに船の存在だった。


「あ、あの小影さんの家、知りませんか?」


「小影? ああ、聖さんところの金貸しさんね」


 記憶内の住人と一致したらしい女性はふわりと笑みを浮かべる。

 笑顔が可愛らしい人だ。

 全体的にふわふわとした印象の女性は、黒髪ストレートのお姉さんだ。


「あ、あの、お姉さんは?」


「あら? そうね。初めまして可愛らしいお嬢さん。椎名ののかだよ」


 おそらく、初めてだろう。人間界に来て試験以外でこうして名前を知った存在は。


「あ、あの、私フロシュエル。皆にはフローシュと呼ばれていますので、そちらでお呼びください」


「はい、フローシュちゃんね。よろしくね?」


 にこやかに微笑むののかはこっちよ。と歩き出す。

 フロシュエルは彼女と逸れないよう慌てて後を追うのだった。


「聖さんとはどんなご関係か聞いてもいい?」


「えっと……」


 なんて答えればいいのかよくわからない。なおで、一緒に住んでますという事実だけを告げることにしたフローシュだった。

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