五日目2
見直しまでやった。
……投稿をし忘れていた。
一日遅れましたorz
「やぁフローシュさん」
「こんにちわ田辺さん……」
田辺さんのようににこやかにしたかったが、さすがに顔が引き攣ってしまった。
フロシュエルにポーカーフェイスは無理らしい。
「何か御用ですかな?」
「はい……残り470円の返却催促に来ました」
「はてはて? 既に借金は返し終わっておりますよ? それなのにまだ470円も出せとはこれいかに?」
ニヤニヤとした顔で告げる田辺さん。その顔を見てしまうと、なんだか本当に田辺さんが悪人にしか見えなくなってくる。
演技なのか素なのか。いや、そんなことはどうでもいいのだ。田辺さんの性格はこのさい問題ではない。
彼から470円を返して貰う。それが試練でありフロシュエルが行うべき行動だ。
ただし、今は多分無理だろう。
今の自分では田辺さんから返して貰う算段がない。
下手な言葉を言ってしまえばその揚げ足を取られてさらなる面倒な状況に陥ってしまうだろう。
だからここは……
「また、来ます。試練終了日までに、必ず返して貰いますから」
「おやおや。では、今日はこの辺りでお暇させていただきましょうかね?」
フロシュエルが舌戦を繰り広げる気がないと分かるや、よっこらしょっと腰を上げる田辺さん。ゆっくりと去っていく。
フロシュエルはしばらくその背を見ていたが、やがて決意を新たにもう一人の目的の人物を見る。
今の一部始終を木陰で座って見ていた龍華を見る。
その顔は相変わらず冷めた視線だが、別段フロシュエルを見下しているといった様子はない。
ただ、全てにおいてそういう視線を向けているだけなのだろう。
というか、本当にずっとあそこに座っていたのだろうか?
今更ながら不安に思ったフロシュエル。
お腹、空いてないのかな? と思うが、そんな事龍華にはどうでもいいことのようだ。
「来たか」
「すみません、長らくお待たせしました」
「構わん。とりあえず付いて来い。ここは人目があり過ぎる」
フロシュエルは、龍華に付いて歩きだす。
さぁ、始めよう。落ちこぼれ天使見習いの成り上がりを。
さぁ紡ごう。消滅しかなかった天使見習いの物語を。
フロシュエル=ラハヤーハにとって、この日こそがきっと、自分を取り巻く世界が変化した、転換期であった。
「にぎゃああああああああああああああああああああああ!?」
既に夕方近くになっていた。
フロシュエルの悲鳴が森に木霊する。
今、フロシュエルはかつてない危機に遭遇していた。
森を全速力で駆け抜ける金髪少女。血紅の大鎌を振り被りながら追い縋る龍華。
龍華が一振りする度に無数の木々が倒れて行く。
事前に小影が手を回したようで、どれ程轟音や悲鳴が響いても警察も誰も助けには来ない。
今回龍華が提案して来たのは、フロシュエルの基礎体力の限界を見ること。
そのため、龍華から逃げながら走るという方法を取っていた。
追っかけっこならバロックさんの練習になる。
そう思ったフロシュエルだったが、龍華が持っていた白い布に包まれたものを解いて行くごとに顔を青くしていった。
現れたのは血塗れのように真っ赤な二枚刃の鎌である。
さぁ、はじめようか?
龍華の目尻が細くなったその瞬間、フロシュエルは弾かれたように走り出していた。
全力で走ってようやく同じ速度、少しでも遅れれば大鎌が振られ、無数の木々がフロシュエルの代わりに薙ぎ散らされていく。
速度を緩めるわけにはいかない。
フロシュエルは死を覚悟して全力で走らざるをえなくなった。
けれど、限界はある。
少しづつ速度は落ち、足はもつれ、転び掛ける。
その度に龍華との速度は縮まり、フロシュエルの毛が数本風に流れて散った。
彼女は本気だ。本気で殺しに掛かってる。
それが分かるからこそ、フロシュエルは死に物狂いで駆けていた。
今まで出したことのない本気の本気だ。心臓は既に張り裂けそうなほどに高鳴り、全身が悲鳴を上げている。
けれど止まれない。止まればそこで命も止まる。
だが、それは唐突に、本当に突然、現れた。
ガクンと身体の感覚が消える。
まるで車のガソリンが切れたように、フロシュエルは足が動かずつんのめった。
終わった。
フロシュエルが考えられたのはそれだけだった。
死神の足音が聞こえる。
動けなくなった獲物に近付くように、そして振り被られた大鎌が落ちて来る。
フローシュの首、その三センチ程横に。
「ふむ。やればできるではないか」
龍華の言葉に、ようやく追いかけっこが終わったことを知ったフロシュエルは、安堵を覚えたまま気を失った。
「む? ふむ。まぁよいか。少し休憩だ。5分たったら起こすぞ」
気絶の際、何か聞こえた気がしたが、フロシュエルの意識は闇に飲まれて消え去っ……
「發ッ」
気絶したんだ。そう思った次の瞬間、フロシュエルは完全に覚醒させられていた。
きっかり五分経っていたのを、フロシュエル自身は気付かなかった。




