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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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四日目2

 公園にやってきたフロシュエルは、ベンチに腰掛け溜息をつく。

 ふぅ。ここに来ると落ちつくなぁ。

 長閑な風景に心洗われるフロシュエル。

 彼女にとってはこの試験の試験で唯一の心のオアシスだと思われる。


 田辺さんはいつものようにベンチに座り、柔和な顔でハトに餌をやっていた。

 地面に散乱した餌を啄ばむハト達を避けて、フロシュエルは田辺さんへと近づいて行く。

 こんにちわ。と声を掛けると、笑顔を湛えて返事を返してくれた。


 こうやって普通に対応してくれるのも、田辺さんだけだった。

 相談にも乗ってくれるし、優しい人だ。

 フロシュエルも彼にだけは好感を覚えていた。

 あの人なら信頼できる。あの人なら私を裏切らない。


 だから、思わず自分の今までの行動を説明し、相手に判断を仰いでしまう。

 田辺さんならヒントくれちゃうんじゃないだろうか?

 そんな期待に、頷きつつ応えてくれる田辺さん。


「……というわけで、今は行き詰っている状態なんですよ」


「なるほどなるほど。では、そうですねぇ。小出さんに取れる行動は幾つもありますが、危険行為を無しとするならば、出て来るのをひたすら待つのはいい案でしょうね。後はどうせこちらを見ているのですから泣いたりせずに視覚効果に訴える方法が効果的かもしれません。あと行えるとすればメガホンか何かを作って大声で呼びかける。とかですかね?」


 いろいろと飛び出す意見を聞き、フロシュエルは感心する。

 ちょっと考えれば出て来るはずのことではあるが、田辺さんに言われるまでは決して思い付くことはなかっただろう方法に、そんな方法もあるんですね。と素直に納得するフロシュエルだった。


「バロックさんには先廻りというのもアリですね。逃げる彼がどこまで逃げるのか、ソレを知ってルートの先で待っておくとか、トラップを仕掛けておくとか」


 確かに、逃げるのを追うのでは追い付けないのだけれど、ルートが分かり、何処を通るか把握出来れば、先回りしておくのは可能だ。

 フロシュエルは真剣に考える。


 健太についても餌付けして信用を勝ち取るという犬ならではの対処法も教えられたが、彼は知能ある魔物、ケルベロス。餌付けで信用を勝ち取るのは難しいだろう。

 田辺さんからはいろんな本を読んで自分の知識を広げるのが一番だと言われてしまった。

 既に小影から告げられていただけに耳に痛い話だ。


「では、これを」


 話が一段落した頃、田辺さんが20円をフロシュエルに渡す。

 素直に受け取るフロシュエル。これで合計30円。残りは470円ですね。

 そう、思った時だった。田辺さんの瞳が妖しく光る。


「さて、借金も完済したことですし、私は御暇させていただきますね」


 言って立ち上がる田辺さん。ベンチから離れたところで、フロシュエルは彼の言葉の違和感に気付いた。


「え? か、完済? 待ってください、私まだ30円しか……」


「おやおや、何をおっしゃるのやら?」


 その瞬間、田辺さんを纏うオーラのようなモノが変わった。

 人懐っこい癒しオーラから、相手を陥れ、絶望させるような邪悪なオーラへと変化する。

 フロシュエルは理解できなかった。

 この人は、本当に先程まで柔和な笑みを湛えていた田辺さんと同一人物なのだろうか?


「ちゃんと返したでしょう? アンパン105円が二つ、ソーセージパン110円が一つと、ペットボトル飲料150円が一つ、しめて470円と残り30円。つまり、500円を」


 フロシュエルは愕然とするしかなかった。

 何が起こってるのかわからない。分かりたくもない。

 きっとちゃんと返してくれると思っていた。


「ま、待ってくださいって。あ、アンパンとかってそんな……」


「借金を返済しろとは言われましたが、現金で・・・とは言われてませんからねぇ」


「そんな……田辺さんならちゃんと返してくれるって……」


「人がタダで何かをするときは、裏に何かがあるということですよ。ただ無意味に信じているだけではこうやって裏切られるだけです。まずは人を疑うことを覚えるべきですね。では、さようなら愚かな娘さん。あなたのような方がいるから、悪人には生きやすい世の中なのですよ」


 呆然とするフロシュエルに踵を返し、歩きだす。

 フロシュエルはただただ何も出来ず見送ってしまった。

 まさかの信じた相手の裏切り。

 何も考えられなくなるほどの衝撃で、今まであった決意など一気に吹き飛んだ。


 力なくその場にへたり込み、手にした20円に視線を向ける。

 始めから、こうするつもりだったのだ。

 あんパンも、ジュースも、全部が500円をモノで返すための布石であり、その事を気付かせないために柔和な笑顔でフロシュエルの信頼を勝ち取った。


「ああ……」


 目の前が、急に滲みだした。

 初めてだった。親しく、信頼した人から裏切られたのは。


「ああああああっ……ああっ、うぐっ。ああああああああああああああああっ!」


 涙が溢れる。

 止められる訳がなかった、20円を握り込み、拳ごと地面に叩き付ける。

 何故、私はあの人を信頼してしまったんだ。そんな後悔とも怒りともつかない思いがフロシュエルを支配する。


 田辺さんが憎い。あまりにも憎い。信じてたのにっ。ずっと、良い人だと思っていたのに、田辺さんは自分を騙す事しか考えてなかったのだ。

 悔しい。騙された自分が、気付けなかった自分が、信頼し、頼り、甘えてしまった自分が、憎い。


 泣いた。人目を憚らず、盛大に。

 地面に何度も何度も拳を叩き付け、誰にも向えない怒りを持て余し、何処にも向えない憎悪を地面に叩きつけて、泣いた。


 選択肢B:

   → もう、諦めよう。私に天使は向いてない。

     田辺さんが許せない。絶対に、絶対に!


 そうだ……私にはもう、無理だ。こんな思いしてまで、天使になんて……絶対に……


「それで、お前は満足か?」


 凛とした女性の声が聞こえたのは、そんな時だった。

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