表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
一日目・共通ルート
18/177

三日目3

 よぉし、やるぞ!

 気合いを入れたフロシュエルは一路清水さん宅へとやってくる。

 今日は健太との戦いが待っている。

 きっと宣言通り闘う気で来るだろう。


 勝てるかどうかは別として、相手の攻撃を掻い潜って靴を奪い返すつもりである。

 ふんす。と気合いを入れ直したフロシュエルは清水さんちの庭へとやってくる。

 そして、見た。


 そこには、やはり健太が待っていた。ハッハと舌を垂らしてフロシュエルを見つめている。

 ご丁寧に、首輪の鎖を引き抜いて。

 フロシュエルの到着を待ちわび、右の前足で土を掻く。

 せっかくのフロシュエルの決意も、一瞬にして吹き飛んだ。


「な、なんで鎖付いてないんですか――――!?」


「ウワゥッ!!」


 フロシュエルの姿を見た瞬間、彼女の身体並みにあるドーベルマンが走りだす。

 決意はあれど戦闘態勢にも入っていないフロシュエルは、逃げ出すしかなかった。

 泣き叫びながら走る少女を追う獰猛な犬。見つかったら確実殺処分な状況だが、地獄の番犬健太君には関係ない。


「ま、待って、待って、まってぇぇぇっ」


 しかし、受肉した天使の脚力は人間と変わらず、本気すら出していない犬の脚力にすら敵うはずもない。

 背後から飛びかかられ、完全に制圧される。

 さらに……


「ええっ、ちょ、何して……」


 健太はフロシュエルの靴を無理矢理引っぺがすと、涙目のフロシュエルを放置して踵を返す。

 用は済んだと悠々帰って行った。

 どうやら彼との戦いで負けると靴を失うようだ。


「な、なるほど……負けると靴を失うのですか……うぅ」


 噛まれたり傷を受けたりしたわけではないので、ダメージこそないものの、フロシュエルの精神は極限まで引き裂かれた気分だった。

 力ない足取りで清水さん宅に引き返す。

 先にドッグハウスに戻っていた健太は、先程手に入れたフロシュエルの靴をハウスに入れ、その手前に陣取るように座っていた。

 舌を垂らしてハッハッと笑っているように見えた。

 犬に負けた天使め、悔しければ奪い返してみろ。そうバカにされているようだ。


「み、見ていなさいッ、すぐに私の靴を取り返しますからっ」


 健太を指さし、捨てゼリフを吐く。

 健太はそれに耳を引くつかせ、さらに深く座りこむ。

 まるでやれるものならやってみろとでも言っているようだった。


 行動を起こさない健太の横を通り、フロシュエルは最後の洋館へと向かう。

 今はまだ、健太には敵わない。

 だから、乗り越えた壁の真ん中で、一度だけ振りかえる。


「必ず、あなたに勝って見せます」


 今は敵わなくとも、絶対に。

 でも、いつになるんだろう?

 激しく不安になるフロシュエルだった。


 くじけそうになる精神を気力で持たせ、フロシュエルは最後の館へと向う。

 野中さんに挨拶をして洋館の入り口に立つ。

 青銅甲冑が動くのは理解した。今日の目標は、これを倒す!

 館に入ると、ドアが閉じ、青銅甲冑が動く音がする。


「せめて、この甲冑だけでも……倒しますッ」


 ライトの魔法で青銅甲冑を照らし出す。

 何も入っていない甲冑が動くのは、やっぱり怖かった。

 それでも、やらないきゃいけないのだ。

 自分が天使になるために。


「ホーリーアローッ!!」


 光の矢が鎧を打ち抜く。でも、鎧は倒れない。


「ホーリーアローッ」


 兜を打ち抜く。頭部なく動く甲冑に体が震える。


「ホーリーアローッ」


 左の手甲を打ち抜く。足がすくむ。恐怖で逃げたい。でも……

 恐れを打ち払うように大きく叫ぶ。


「ホーリー……アローッ」


 右の具足、右の手甲、左の具足。


「あああああああッ」


 何度も、何度も光の矢を放つ。

 光の矢が原型を留めないほどに薄まった頃、ようやく鎧が動かなくなった。

 荒い息を吐きながら、フロシュエルはその場に崩折れる。


「か、勝った?」


 目の前の甲冑はもう、一ミリも動く気配は無い。


「私でも……私でもやれば……」


 喜びに打ち震える。その一瞬前、音が聞こえた。

 嫌な汗が流れた。さぁっと血の気が引いて行く。

 光に映る暗闇の中で、怪しい金属音が無数に響く。


「まさか……」


 嫌な予感、いや、それは予感ではなかった。

 青銅甲冑が動く。

 目の前にある残骸ではない。

 いつの間にか無数の甲冑が、館のエントランスに溢れていた。


「う……そ……?」


 ムリだ。

 率直に思った。

 この軍勢に敵う訳がない。

 すでに自分の力は底を尽き、目の前に立ち塞がるのは無数の甲冑。闘う以前の問題だ。


 どうする? どうすればいい?

 このまま死ぬわけにはいかない。ならば……

 逃げるしか、ない。

 どこかに落とし穴があるはず。ここから少し動けば。


 けれど、竦んだ脚は動かない。

 先程の連撃の間に恐怖に呑まれた足が思うように動かない。横に逃げようとして無様にこけた。

 マズいと見上げた先には二体の甲冑。斧を振り上げフロシュエルに迫る。

 軽く夢に見そうな光景だった。

 それでもくじけず、掌を向ける。


「ホーリーアロー」


 最後の一撃と聖技を放つも形を成さず掻き消える。

 まだ神聖技を使う聖力は大量にあるはずなのだ。なのにその貯水池のような聖力溜まりからフロシュエルが聖力を引きだす事が出来ない。やり方が良く分からないのだ。

 引き出そうとしてもまるで弁が閉じたように、一日に使える少量しか取り出せない。

 今日使える聖力は今ので使いきってしまったらしかった。


 終わった。そう思った瞬間だった。

 床の感覚が消失する。

 不意に現れた浮遊感に、思わず安堵するフロシュエル。


「はぶっ」


 そのまま水中へとダイブしていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ