ノーマルエンド
「フロシュエル、ゼキエルの元までこの書類を頼みます」
「フロシュエル。ついでにネクタルを三つほど貰ってきてください」
「フロシュエル。さっき頼んだ霊草はまだですか?」
「ひぃぃ、ブラック企業ですーっ」
フロシュエルは今、天使長候補として四大天使長の付き人をさせられていた。
御蔭で上司四人から同時に別々の仕事を割り振られるという予想外の忙しさ。御蔭で休む暇がない。
しかも無駄に優秀になってしまったせいで直ぐに仕事をこなしてしまい、次の仕事を割り振られるという悪循環に陥っていた。
「おかしいです、私天使長になるつもりなかったんですけどーっ」
普通の天使でよかった。
そう思いながらも周囲の天使たちから憧れの視線を受けるのは少し嬉しく思ってしまう。
何しろ、落ちこぼれだった筈の自分が一気に天使長候補に浮上したのだ。
その実力の上昇に憧れない天使など居はしない。
そもそもが妬むことを知らない天使達。憧れ称賛こそすれ蔭口が叩かれることなどなかった。
もしもフロシュエルが天使長に取り言ったなどという陰口を叩けるのならば、その天使はもう堕天一直線だろう。だから天使たちが悪口を告げることはない。
成り上がったフロシュエルを見て私もああなりたい。頑張らないと。後輩に負けている訳にはいきませんね。お互い頑張りましょう。
そんな前向きな意見がそこかしこで交わされるのだ。
移動の途中で新人教育を行うハニエルを見付ける。
折角なので一旦近くに着地してハニエルの元へと向った。
「ハニエル様ー」
「おお、フローシュ、たっけてぇーっ、休みがないのぉっ」
「私を助けてくださるなら手伝いますよ。なんか上司四人から同時に別の指令を受けまくるんですけど、どうしたらいいですか?」
「よし、私は私の仕事頑張る。だからフローシュも頑張れ!」
フロシュエルの仕事を手伝う気はないらしい。
「どうです? 新人さんたちは?」
「そうねぇ、フローシュみたいなのはいないかな。でもそれなりに強くなりそうなのは何人かいるから育成方針と一緒にガブリーちゃんに伝えてるわよ」
「おお、ハニエル様が真面目に仕事してる」
「あーそういうこと言っちゃう? 私はいっつも真面目よフローシュ」
「え? 初耳ですけど?」
「毒だ、あの無知で可愛らしかったアホの子フロシュエルは何処に行ってしまったのかしら」
「無知過ぎたんです。ハニエル様がヒキオタニートだとすらわかっていなかったですし」
「ぐほぅっ!?」
今までの自分に自覚があったのか胸を押さえて倒れ込むハニエル。
その倒れ込んだ先が冷たくて気持ち良かったのかはにゃーっと地面に寝転んでしまう。
「あーできるならずっとこうして寝ていたい」
「怠惰は罪ですハニエル様」
「働いたら負けかなって思ってる」
「それならハニエル様はもう負けてますから諦めて仕事しましょう。はい、起きた起きた」
ハニエルを起こして再び仕事に戻る。
とても大変な毎日だ。小影達の元に顔を出す暇すらもない。
それでも、フロシュエルは充実した日々を実感していた。
天使として働きたい。神の為に何かをしたい。その何かを成している。そんな気がするのだ。
「さぁて、見ていてください皆さん。フロシュエル・ラハヤーハ、本日も頑張りますよっ」
未来の天使長として、フロシュエルは今日も天使として働くのだった。