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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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???日目5

「何をやったんですか貴女はッ!!」


 試験が終わり、ガブリエルはハニエルに詰め寄った。

 心なしか全身がぼろぼろで羽もくすんでいるように見えるガブリエルは、ハニエルの襟首を両手で掴んでがくがくと揺らす。


「いやー、ただ小影ちゃんによろしくーって丸投げしただけなんだけど……」


「ふ・ざ・け・ん・なぁぁぁぁぁッ!! あんなスキルどうやって覚えるのよ!? 勝てるか!? あんな目一杯逃げ場無く光の矢創るとかどんな聖力してんのよっ!!」


「それはフロシュエルの隠れてた実力というかー、そもそも素質がなきゃここまでならない訳で……」


「その素質がなかったはずでしょうがァッ!!」


 涙目でハニエルを揺すり続けるガブリエル。

 魔王と闘った時以上に死の危険を感じたのだ、今まで生存していた中でベスト1の絶望体験だったと思う。

 本気で敵として現れていたらと思うとゾッとする存在だ。


「い、いやいや、素質はあったんだって。フロシュエル自身自分の聖力上限知らずにちょろちょろっとしか使ってなかった訳だし」


「うぅむ。まさかあそこまで強くなるとは、これはもう次期天使長候補でよいのでは?」


「天使長は知識や実力だけではなれませんよミカエル」


「ウリエルの言う通りです。ですが、この先が楽しみな天使ですね。彼女は合格として良いと思いますよ私は」


「ラファエルもそう思いますか? というかあそこまでの実力ある天使を不合格にする理由が無いでしょう。そんなことをすれば私も不合格と言われても仕方ないかと」


「まぁ、我に腕力で勝つくらいだしな。天使長候補として使うか。ああ、それとハニエル」


「はいなミカエル様や、なんでしょな」


「お前これから新人教育係な」


「なんすと!?」


「お前の原石を見付ける眼は確かだと証明された。新たなる天使長候補として天使見習い育成全般を管理しろ」


「理不尽!?」


 想定外の言葉を聞いてハニエルが驚く。

 普通ならば泣いて喜び誠心誠意頑張りますと天使たちが言うべき役割を与えられたというのに、ハニエルはいやいやと首を振って涙する。


「わたしに感謝してくれるなら休日を! 何もしなくていい日を数千年くらい……」


「判決。ハニエルはこれより天使見習い育成全般を担う任を五千年就いて貰う。休暇? 寝言は寝て言え」


 ラファエルが沙汰を申し渡す。「ぐはっ」とハニエルはその場に崩れ落ちた。

 判決を司るラファエルに判決を告げられた以上、それは正式な勅令となるのである。


「あ、ちなみに任期満了と共に次の天使長よろしく。休みはないから」


「ごふっ!? 馬鹿な……フロシュエルを救うだけの筈が真綿で自分の首を絞めていたなんて……」


「いや、むしろ天使としては凄く名誉なんだけど? 神の愛として新人育成よろしくねハニエル」


「いーやーぁーっ。フローシュ代わってぇ」


「え? いえ、その……」


「フロシュエルにはこの先覚えることが多いのだ。新人なのに新人候補育成などさせられるか。観念しろクズニート」


 普段放っておいたら適当な大地でごろ寝しているハニエルだ。どうせこれだけ仕事を与えたところで上手く部下に割り振るだろう。

 残念なのは今の所そんな部下が一人も居ないところか。

 フロシュエルは今回の事でガブリエル達天使長付きになる予定だし、もともと居た部下役の天使は……今はいない。


「新しく新人天使の中から部下を選んでいいわ。それからフロシュエル」


 ハニエルに適当に告げた後、ガブリエルは成り行きを見守っていたフロシュエルを見る。

 思わず姿勢を正すフロシュエルを見て、ふぅっと息を吐いた後、ガブリエルは仲間の天使長を見回した。


「では、合否を決めます。フロシュエル・ラハヤーハ。彼女を天使として迎え入れても良いと思う者。挙手を」


 ミカエル、ウリエル、ラファエルが手を上げる。

 ソレを見て、ガブリエルもまた、同じく手を上げた。


「文句などあろうはずもありませんね。おめでとうフロシュエル。天使試験、合格です」


「あ……」


「初めて会った時は直ぐに消える命だと嘆くほどにか弱く思いましたが、そこからよくぞここまで実力を高めました。頑張りましたねフロシュエル」


「うぅ……」


 ガブリエルに認められた。そのことこそが嬉しくて……

 合格したことよりも、皆が笑顔で迎えてくれることが嬉しくて……

 熱い何かが込み上げる。

 ガブリエルはそんなフロシュエルを見て、しょうがない娘ですね、と両手を開く。


「おいでなさい」


 開かれた胸に飛び込むフロシュエル。

 込み上げたものが涙となって溢れだす。

 長かった。凄く長い夢を見ていたみたいだ。ともすれば、これは試験に落ちた自分が夢見ていたシンデレラストーリーだったのでは錯覚するほどに、儚い願望が形になった。

 短かった。沢山の人と出会って、楽しんで、喜んで、悲しんで、絶望して、怒りを覚えて。

 二か月もない短い時間、生まれて死ぬまでの間のほんの一瞬。あまりにも濃厚な体験をした。


 その全てが、ついに報われた。

 フロシュエルは本日、天使試験を合格したのであった。

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