???日目2
神殿で受付を済ませたフロシュエルは、ハニエルに連れられて試験会場へとやって来ていた。
時間は掛けずにさっさと行われるのは、それだけ早めに終わらせ、天使になった見習いは即戦力として働かせた方が結果的に効率よく仕事が回るからである。
よって、試験受付が始まりここに辿りつくまでに試験官が決まり、その者が来た時点で試験が開始される。
雲でできた平地で、しばしフロシュエルは暇を潰していた。
すると、遠方から四人の天使がやってくる。
「あれ? 四人も来てる?」
「あんたが落ちこぼれだったのと私の育成に興味があるんでしょ。まさか天使長全員来るとはねぇ」
「へ?」
遠くの空を見上げていたフロシュエルは、ギギギギと視線を後ろのハニエルに向ける。
「あ、あの、今、なんて?」
「え? だから、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四人がこぞって見に来たの。多分ガブリエルが試験やるんでしょ」
「よ、よよよ、四大天使……長?」
「そういえばフロシュエル、最初の試験ってガブリエル担当だったんだっけ? じゃあそこからどれだけ成長したかも見られると思うわよ」
そんな軽口が気にならないほどに、フロシュエルは震えていた。
緊張? するに決まっている。
ガブリエルは一番最初の試験官だ。容赦なくフロシュエルは不合格通知を渡された苦い思い出しかない。
「だ、大丈夫でしょうか?」
「むしろ愕然とするぐらい驚かしてやんなさい。あいつらが目を引ん剥く実力を見せつけてやるのよ」
それが出来る実力がある。
皆からお墨付きを貰ったのだ。ならばここは怯えるのではなく緊張しながらも堂々と、相手に見せつけるしかない。
ガブリエル達が降り立つ。
四大天使長全員集合の威圧感にごくりと生唾飲み込んで、フロシュエルは息を吐く。
「ハニエル。もう、いいのか? 二か月であればまだ待つぞ?」
「はっはっは。私を甘く見て貰っては困りますな。ガブリーちゃんが見捨てた子をサルベージしただけではなくここまで成長する個体だったということを見せつけてやりまっさー」
「そうか」
ガブリエルはハニエルに短く答え、嘆き悲しむような視線をフロシュエルに向ける。
「お前も災難だな。折角天使として生を受けたというのに、低スペックにより再転生させられることになろうとは。ハニエルが引き上げはしたが、試験を受かれるかどうかはお前次第だ。分かっていると思うが、試験官は私が務める。情状酌量はしない。厳格に使えるかどうかを見極める。最悪でも荷運びくらいであれば生存することは認めるが、私が譲歩出来るのはそこまでだ。覚悟は、いいのだな」
「……はい」
ガブリエルは昔のフロシュエルを見知っているだけに、どれほど努力しようが無駄であると知っていた。
いや、必ず無理だろうと決めつけていた。
何しろ自分で状態を見て、判断したのだ。この個体に将来性は無いに等しいと。
どれほどハニエルが彼女を矯正しようとも無駄であるのだと。確信していた。
「そうか。試験内容は三つ。知力は筆記、腕力はミカエルと力勝負。技は私と対戦です」
「うわーお。ミカエルと力勝負って。しかもガブリエルと技大戦?」
「そのくらい問題無い。だから貴女は自身を持って彼女の二次試験を開始したのでしょう?」
「なるほど、私のスカウト力も見られる訳かー。フローシュ。こりゃ本気で行かなきゃだよー」
「は、はい」
がっちがちに緊張しているフロシュエルを見て天使長たちはこれはダメじゃないか? と呆れた顔になっている。
そんな顔を見て、ハニエルはふふっと笑みを漏らした。
「まずは筆記だって。頑張りなさいフロシュエル」
「で、でも、私筆記試験受けられるような知識は……」
勉強してない。そういいたかったが、天使長たちはそんな事関係ない。と机と椅子を雲から作りだして机の上に用紙を乗せる。
「時間は1時間。始め!」
ぺらりと用紙をめくって解答を始める。
ペンを取って問題を見てしばし。あれ? とフロシュエルは小首を傾げた。
答案に書かれていたのは人間界に降りた時に関する注意事項の穴埋め問題だった。
あまりにも簡単過ぎる上に自分が注意されたことばかりだったので楽に穴を埋めていく。
次の計算問題は足し算引き算の類。お金で買い物をしていたフロシュエルにとっては朝飯前である。さらに時事問題。これはニュースで見ていたので分かる。物理問題、龍華との勉強会で習ったモノだ。生物問題。これはドクター城内たちに教わった知識が生きた。
嘘付きを見付ける問題。これも田辺さんとの話し合いで楽に分かる。
最後の長文問題は悪魔に付いてどう思うかを自由に書けというもの。ハニエルに視線で訴えてみれば、貴女の思うように正直に書きなさい。と言われたので、多少天使としてどうかと思いながらも魔物にも良い魔物がいること。ブエルと仲良くなったこと。魔統王と天使長の間で停戦協定が出来ていると教えられたことなどを書いて、これが天使間に周知されていないのは何故かと疑問もぶつけてみたのだった。