二十六日目2
「んー。よくわかんないけどフローシュがしけんうかりそうならきょしゅすればいいんでしょ? じゃあがんばってたしいけるんじゃない?」
ピクシニーも賛成らしい。
というか、否定する理由がないと言ったところだろう。
「じゃあ私も賛成で。別に私としては同じ地天使になってもいいと思うんだけど、さすがにその実力で天使試験落ちたら試験官の方が節穴でしょ」
テナー・ピタからもお墨付きを貰ってしまった。
ちょっと恥ずかしくなってくる。
皆が褒めてくれるせいでなんとなく居心地が悪い気がしてくる。
「フン、こいつが天使になったところで死ぬだけだろう。多少毒を覚えたところで基本的に迂闊なのは変わっていない。私としては天使になる必要などないから試験など受ける必要はないと思うがな」
「クッ。ドクターよ。素直に別れるのは寂しいから天界に戻らないでぇ。と言えばよかろうに」
「どこを曲解すればそうなるのかねレウコ君?」
スチャリ、メガネの位置を直した城内がイラッとした目でレウコを見る。
しかし、レウコはこれを苦笑で受け止め、手を上げた。
「我も可としておこう。小影が言うに天使試験とやらよりも貴様の試験の方が難しかったのだろう? ならばむしろ受からぬ道理があるまい。余程フローシュがヘマせんかぎりな」
「そのヘマをやらかす可能性があるのがこの小娘だというに。まぁいい。行かず後悔よりは行って後悔するといい。許可は出しておく」
レウコと城内からも賛成の声が上がる。
「私としてはこのまま私の一子相伝拳を覚えて貰いたいのだが。試験を受けずに我が試練を受けないか?」
「試験を受けたいです」
完全の言葉にフロシュエルが即座に告げる。流石に一子相伝拳を極める気はない。いや、極めるのは良いが相伝されたくは無かった。
仕方無いな。と納得した完全も手を上げる。
「ならば仕方無い。後悔せんためにも行って来い」
「当然だ完全。フロシュエルの目的は試験を受けることなのだからな。やるべきことをやらずしてどうする。フロシュエル、お前自身はどうだ? 今試験を受けていけると思うか?」
自分がいけるか?
正直不安がある。
でも皆が太鼓判を押してくれている。小影の試練も乗り越えたのだ、不安はあるがやってみたいという自信はある。
「いけるかと言えばまだ不安はあります。一度は一次試験で落とされてますから。二次試験は未知の領域です。でも、皆さんは大丈夫だって言ってくれてます。小影さんの課した試練も乗り越えられました。私は、試験を受けてみたいです」
「そうか。いい目だ。その目ならば私も否ではない。ただし、やるからには確実に勝利ももぎ取って来い」
「はい、師匠」
「おいおい……」
龍華の言葉にやる気に燃えたフロシュエルを見て隣のロストが呆れた声を出す。
「まぁ、なんだ。満場一致というのも癪だし僕は否定しとこうかな」
「えー、ロストさまひどーい」
「なっ!? ま、待ってくれよピクシニー君。そ、そうだな、うん。僕も天使見習い君ならまず間違いなく合格できると思っているよ。というかこの娘を落とすようなら天使の底がしれるというものさ。不合格だったとしても僕の権限を持って堕天使として魔界に向かわせるから、ね、ね?」
ピクシニー相手に何故か腰の低いロスト。ブエルがその姿を見てまさか、ライバルか!? と謎の闘志を燃やしだす。
「ロストよ、随分その妖精に腰が低いな」
「ははは、そりゃ未来の魔統王候補だからね。老後の安泰を考えると彼女の機嫌は損ねたくないよ」
「はぁ? それは初耳だぞ!?」
龍華が驚きハニエルも無言ながら目を見開く。
「いやぁ、この前彼女のマスター君と取引してね。彼とピクシニーが魔統王を目指す代わりにとある魔物に手を出さないよう魔物達に告げたんだよ」
でもそれ、ピクシニーに気を使う理由にならなくない?
そう思ったフロシュエルだったのだが、きっと二人の間で何かしらのやりとりがあったのだろう。その結果、ピクシニーの方が有利に立ったのだ。
「まぁ、それはどうでもいいけれど。満場一致、という訳でいいわね」
全ての人物が挙手したことでフロシュエルの天使試験受験が可決された。
「ではフロシュエル。今日は自由行動とします。お世話になった方々にお礼を行って来なさい」
「え? 今日!?」
「ええ。明日試験を行うわ」
早過ぎる。
皆が思ったが、それも天使の都合なために誰も何も言わなかった。
フロシュエル以外は。
「あの、流石に早過ぎません?」
「あら、むしろ二次試験はいつでも出来るから早い天使は既に合否判定貰ってるわよ。むしろ今は遅いくらいかしらね」
「え? じゃあ二カ月って……」
「二次試験を行えるギリギリの期間ね。正直そこまで粘る位なら試験は受けない方が良いわ」
もう少し余裕を持ってこの世界を記憶に残そうと思っていただけに、慌ただしい日程に一瞬頭を真っ白にするフロシュエルだった。