二十六日目1
朝、いつものように目覚める。
ただ、今日の青海な空はどこかいつもと違って見えた。
まるで絵具をぶちまけたように、どこか現実味のない青い色だ。
深窓の令嬢を思わせるような気分で窓から外を覗く。
心地よい風が吹いていた。
しばし、窓枠に腰かけ外を眺める。
その表情は、まるで二度と見られない風景を必死に残そうとする儚げな顔だった。
「……と、いう言葉が浮かんで来たんだけど、どう思うフローシュ」
「な、なんか恥ずかしいので言わないでほしいです小影さん」
ふわぁーふと大きく欠伸したフロシュエルは小影の言葉に顔を赤らめ慌てて窓から飛び退いた。
確かに必死に残そうというか、もうこの風景も見れないのかーっと思ったらちょっと感傷があったのは認めるが、それを客観的に言われてしまうと恥ずかしさしかない。
「ほれ、下に来なさい。皆待ってるわよ」
「皆?」
「ええ。これからフローシュがどうするか話し合いが始まるの。理由は分かってるでしょ?」
もう既に集まっているらしい。
皆早いなぁ。そう思いながら洗面所へと向かう。
まずは顔を洗って、歯を磨き、皆への顔合わせはその後だ。
もろもろの作業を終えてダイニングルームにやってくると、珍しい顔ぶれがそこにあった。
小影、ハニエル、ブエル、ニスロク、スライムはもちろんのこと。
龍華、完全、ピクシニー、ロスト、テナーピタ、ドクター城内、首領さん。
出会った人々の中でも凶悪なメンバーが揃っている。
初顔合わせやライバル関係のモノもいるらしく、特にロストを見たハニエルや龍華が警戒を露わにしている。
なぜこのメンバーが集まったのだろうか? 謎過ぎて怖い。
フロシュエルは一瞬入り口で立ち止まったものの、自分がはいらなければ話が始まらないと気付いて覚悟を決めた。
「おはようございます皆さん」
「ん~おはよう」
昆布茶を飲みながらぽやぽやと小影が告げる。
彼女だけが落ち付いているのがなんとも肝が据わってるなと思うフロシュエルだった。
机が増設され、椅子が人数分用意された中で、開いていたのはハニエルの対面。ロストと龍華の間である。
死刑宣告だろうか? 火花散っている二人の間に座れということらしい。
「えーっと、ロストさんと龍華師匠には何か因縁が?」
「まぁ、な。こいつにはいろいろ手を焼かされた」
「それはこっちの台詞だ放浪の不死者。僕の肝入りの計画が何度君に潰されたか。下手すりゃ天使よりもタチが悪い存在だよ」
「まぁ、そんな事はどうでもよい。それで、我々まで呼ばれたのだ、大天使。わざわざ呼んだ理由を聞こう」
と、レウコさんが強引に話を打ち切った。
その言葉でハニエルに視線が集まる。
「まずは、小影ちゃんの用事から始めましょ。私の話はその後で」
「ふむ。つまり我々が呼ばれた理由はお前の話が始まる時、でいいのだな。それまでは黙っていろと?」
「結果的にはそうだろう優メガネ」
「そこの金髪。優しいメガネという言葉はソイツには合わぬと思うが?」
「ではなよメガネだな。これでどうだ首領とやら」
「よかろう。それは相応しい」
「本人の前で貶すような言葉を応酬させないでくれないかな?」
若干ぴきりとドクター城内。レウコと完全に苦言を呈する。
「あー。はいはい。んじゃさっさとこっちの用件終わらせよう。昨日フローシュから返って来た野中さんと小出さんに貸してたお金でフローシュに課した私の試験は終わりました。無事合格です」
ほぅっと誰からともなく声が漏れる。
龍華だろうか? そういう相槌を打ちそうな気がする。
「よって、地上での活動はここで充分終了できたとみなし、フロシュエルの監視管理人としての役を終了したことを私は告げます。この後は大天使ハニエル様によるフロシュエル天使試験についての話が始まります、以上。よく頑張ったわねフローシュ。おめでと」
最後に、笑顔で告げられ、フロシュエルは慌ててその場でお礼をした。
言葉を引き継ぐようにハニエルが声を出す。
「では、これよりフロシュエルについて、第二次天使試験を受けるべきかどうか、決を取りたいと思います。今までのフロシュエルの行動を鑑み、適格であると思った方は挙手をお願いします」
「成る程、我々を呼んだはこの為か」
皆、フロシュエルの成長に関わったメンバーだ。
つまり、皆の目を見て、フロシュエルが天使試験を受けても問題なく受かるかという多数決を行おうというのである。
代表するように、小影がまずは1票。
続くようにブエルとスライム、そしてニスロクが手を上げる。
「まぁ、私の課した試練クリアした訳だし、私は推すわ」
「天使見習いの成長は見て来たつもりだ。並みの大天使よりも強いと魔王ブエルが太鼓判を押そう」
リフレクトキングスライムも同じ気持ちらしい。自分を撃破したのだから充分な戦力だと触手を掲げていた。