二十五日目3
階段を上がり、二階へ向う。
スライムに確認して貰ったが、ここから直線状に通路があるだけで危険なモノは無いらしい。
なので、少し警戒しながらも二階へと足を踏み入れる。
通路の左右にはドアがある。
とりあえず手短のドアに行くべきか? いや、まずは……
慎重に行動するため、一端通路の最後まで向かいつつドアを一つ一つ調べて行く。
ドアは左右に五つづつ。
右側は階段側から一、三、五だけドアが開いた。二と四番目のドアは鍵が掛かっていた。
左側は階段側から五のドアだけが開かれ、他は鍵が掛かっている。
つまり入れる四つのドアのどれかに鍵が設置されていて、他のドアを開けるようにしてあるのだろう。
そしてこの四つのどれかにハニエルがかかったトラップがあると思われる。
「さて、何処から行きましょう?」
一人ごちたつもりだったが、スライムが反応する。触手を伸ばして右の5番目のドアを指し示す。
「ここがいいですか? では行ってみましょうか」
五番目のドアを開く。
ここは……客間のようだ。
部屋に踏み入れた瞬間、後ろの扉がバタンと閉まった。
「なーんか嫌な予感がします」
即座に周囲を観察。ベッドが一つ、クローゼットが一つ。本棚と傷だらけの机。あと何が入ってるか分からない段ボール箱が無造作に置かれている。
何処から調べるか? そう思った次の瞬間だった。
ギシ……
通路から誰かが歩く音がした。
その瞬間、言い知れない悪寒が駆け廻る。
なぜって? ありえないからだ。
だって、ブエルとハニエルは駆け廻っていたはずだ。こんなゆっくりとギシ、ギシと丁寧に踏み締めるような歩きはしないはずである。
ドアの前で止まった。
マズい、何か嫌な予感が止まらない。
周囲を慌てて調べる。
どこかに隠れた方が良い気がする。どこが、何処が良い?
ガチャ
ドアノブが回される。
ガチャ
鍵はかかっていない筈なのに再度、鳴る。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガガガガガガガガガガガガガガッ
だんだんと音の速度が上がっていく。
室内の人間の恐怖を掻きたてるように、そして唐突に……止んだ。
バンッ
ドアが叩かれる。
バンッ
強く叩かれる。
バンッバンッバンッバンッバンバンバンバンババババババババババ、バガンッ
音は強烈に、絶え間なく、激烈に、そして、扉が吹き飛ぶように開かれる。
ギシ……
入ってくる。
何かがやってくる。
隠れたフロシュエルを探すように、ゆっくりと室内へとやってくる。
黒い影のような人型がゆっくりと現れた。
まずはベッドの近くに。
ぬぅっとベッドの下を覗き込む。
もしもそこに潜んで居れば、謎の生物と視線を合わせていただろう。
どうなっていたか、想像すらできない。
そいつは次にクローゼットに向かった。
クローゼットを覗き込むように、ギョロリと視線を走らせる。
もしもそこに潜んで居れば、開かれた瞬間悲鳴を上げていただろう。
その後どうなっていたか、想像すらできない。
そいつは段ボールを見る。
無造作に置かれたままの段ボールには誰も居ないことなど丸分かりだ。
直ぐに視線をそらして机から椅子を引く。
この下にも誰も居ない。
黒い人影はその椅子に座り、机を向いてしばし……誰も居ない部屋を確認し終えて立ち上がると、再びギシ、ギシ、と部屋から出て行った。
正直、生きた心地はしなかった。
「な、なんなんだったんでしょう?」
我に聞くな。と念話が返ってきた気がする。
フロシュエルはほぉっと息を吐く。まさかこんなトラップ部屋だとは思わなかった。
黒いフォルムは正直行って恐怖しかない。おそらく野中姉妹のどっちかだと思うのだが。
フロシュエルはスライムにもう大丈夫だと告げて降ろして貰う。
天井に張り付いていたスライムがフロシュエルの頭の上に着地して元の葛餅形態へと戻った。
何処に隠れても見付かりそうな気がしたのだ。ではどうするか、戸惑ったフロシュエルに、スライムが答えをくれた。
天井に張り付いてはどうか? と提案されたのだ。
ドアが回された瞬間フロシュエルはそれに頷き、後はもうスライムに引っ張り上げて貰って天井にくっついて隠れていた。
むしろスライムに四肢を拘束された天使状態になっていたが、身を隠すだけのつもりだったのでその姿については彼女は気にしていない。
傍から見れば少しエッチな気がしなくもない隠れ方だったが、なんとか誰にも見付かることは無かったようだ。
「この部屋はトラップ部屋みたいですね。机の棚にも何も入ってませんし」
残りの部屋をしらべるしかなさそうだ。
部屋を出る時ブエルとハニエルらしき悲鳴が聞こえたが、どうでもいいので放置することにしたフロシュエルだった。