二十五日目2
野中邸にやってきた。
そこには、丁度二体の生物が裏側から回り込んで来て入口に向かおうとしているのが見えた。
ハニエルとブエルである。
スライムを頭の上に乗せたフロシュエルは、その鬼気迫る二人の顔を見て思わず引いた。
正直、子供のおもちゃに夢中になってる大人ってこんな顔なんだな。そんなどうでもいい事を思ってしまうほどに酷い顔である。
我先にと入り口のドアを潜っていく様はまるでバーゲンセールに群がる奥様方のよう。
「うわーお」
それをスライムと共に見送る。
スライムからちょいちょいっと触手で触れて来る。
「なんです? ああ、もしかしてアレがハニエル様とブエル様かって? お恥ずかしながらその通りです」
スライムが見事に凹んだ。
落胆のジェスチャーらしい。
あははと苦笑し、フロシュエルもまた野中邸へと向かう。
「では、参りましょうか」
既に監視カメラからフロシュエルが来た事は気付かれているだろう。
一度だけ真上を向いて、フロシュエルは扉を開く。
「ライト」
光球を飛ばし、周囲を明るく照らす。
既に懐かしささえ覚える動く鎧たち。
羽を広げて飛び上がり、眼下を歩く鎧たちを楽々飛び越えて行く。
「え? こんなの見習いで行う試験の範疇越えてるって? まぁ、いいじゃないですか、クリア出来れば問題無しです」
なんとなくだがスライムの言いたいことが分かる。
リフレクトキングスライムという高位魔族だからだろうか? 決してフロシュエルが無生物の言葉を理解出来るようになった訳はありえないのでスライムのスキルに何かあるのだろう。
階段を飛び越え真ん中の扉の前に降り立つ。
既にここは開かれている。ここから先は未知ではあるが、既にここから先に行かねばならない状態になっているのだ。息を整え扉を開く、その刹那。
ドパンっと入口の扉が開かれた。
えっと驚くフロシュエルが振り向くと、ブエルとハニエルが空へと飛び上がり向って来る所だった。
慌てて飛び退くと、フロシュエルを放置して二人が扉の奥へと消えて行く。
そして誰も居なくなった頃、開かれた入口の扉が空しそうに扉をしめ切るのだった。
「あーっと、周回してますしねぇ」
随分と速かったなと思いながらフロシュエルは扉を改めて潜る。
階段をゆっくりと降りていると、何処からともなく悲鳴が聞こえた。「ぎゃあああああああああまたかぁ!?」とか、「馬鹿な、この我がぁぁぁぁぁぁっ」とかである。
また二人は失敗したようだ。タイムアタックしてるからいろいろ失敗してるんだろう。
階段を降りるとT字路だった
右と左に通路が伸びていて、目の前に扉が一つ。
ブエルと入った時はこの扉にブエルが突っ込み、後を追って天井に押しつぶされたのである。
そんなことをスライムに告げながら通路前で一旦停止、スライムに頼んでトラップの有無を確認して貰う。
すると、右側に誰か人影が見えるらしい。
ハニエルたちは散ってしまっているので人影があるのはありえない。でも居るらしい。
気を引き締め、リフレクトシールドを張り巡らせる。
左は行き止まりらしいので右に向かう。
「は?」
そいつは人ではなかった。
否、人を構成する一部ではあるが絶対にそれ単体では動く筈がない。
真っ白い身体のそいつは、フロシュエルを見付けて楽しげにカタカタ揺れ始めた。
「うはぁ、スケルトンですね。魔物では死霊としてよく話題に出ます」
いざ闘いか、そう思って拳を固めた瞬間だった。
「どいたどいたどいたーっ」
「邪魔だ天使見習いッ」
二体の暴走機関車が階段を転がるように降りて来た。
勢い余ったブエルがそのまま階段前の扉に激突して室内に入っていく。
「しまっ、ぐわあああああああああああああああっ」
「はっ、馬鹿ね、先に行かせて貰うわよ魔王!」
ぷふっと掌を口元に押し当て笑う大天使。動き出そうとしたスケルトンに激突。骨をバラバラにして骨が守っていた階段を駆け上がる。
そして後に残されたのは。無残に砕かれたスケルトンの残骸だけだった。
フロシュエルの頭の上で、スライムは触手を合わせて合掌する。
「さ、さーてこの後はこちらの階段登るのが正規ルートっぽいですね。行きましょう」
とりあえず見なかったことにして階段を上っていく。
「いやぁぁぁぁ、またかぁぁぁぁっ!?」
「あーあ。ハニエル様またやり直しですねぇ」
呆れながらも気を引き締める。
先程駆け上がっていたハニエルは悲鳴が聞こえるまで時間はあまりなかった。つまり、二階に上がった瞬間何かのトラップがある可能性が高い。
「ここからが本番ですね。頑張りましょうスライムさん」
任せろと力強い思いが返ってくる。
即席パーティーは、今ここに、ダンジョン攻略向けて力を結集させるのだった。