二十四日目10
「月下暗殺拳秘義! 天帝爆散内発勁!」
地面の殆どに広がっていたリフレクトキングスライムの身体に掌を打ち込む。
ただの一撃ではない。必殺の一撃が叩きこまれ、しばしリフレクトキングスライムが停止する。
次の瞬間、内側から膨れ上がるようにして爆散した。
「うそーん」
「うわー、フローシュがどんどんおかしな進化してくわー」
ちょっと小影さん。その棒読みはどうなのですか。
空中に逃れたフロシュエルは小影に呆れた顔を一瞬向けて、直ぐに眼下のリフレクトキングスライムに意識を向ける。
爆散したリフレクトキングスライムはなんとか寄り集まろうと必死に這い始めているが、幾分小さくなった感があるのは仕方無いだろう。
爆散の際に細かくなり過ぎたスライム達は動くことすらできなくなったようなのだから。
さらに爆散により剥き出しになった核を必死に隠そうとしている姿が瀕死の重傷に見えなくもない。
「スライムさんまだやりますか?」
とりあえず最後通告とばかりに聞いてみる。
すると、リフレクトキングスライムは触手の一つを旗型に変化させ、フロシュエルに振って見せた。
白旗を振っているようだ。
「あ、戦意喪失だ」
「キングってくらいだからかなり知能は高いんだよあのスライム。次期魔王に片足突っ込んでるしさ。ついでに悪魔の癖に紳士だし」
「紳士的スライムってなんぞや」
自前のお茶を飲みながら、小影が呆れる。
リフレクトキングスライムの横に着地したフロシュエルが再生に遅れていたスライム片を持ち上げてリフレクトキングスライムの元に戻してあげているのをしばし見つめる。
「敵対していた魔物の再生手伝ってるんだけどあの子」
「本当にね、天使らしからぬ天使見習いだよ。魔物は見敵必殺が天使なのにね」
次はどうしようかなぁ。とロストは唸る。
まさかあのスライム相手にあんな方法で白旗上げさせるとは思っていなかったのでこれ以上の強さを持つ魔物を呼び出さなくてはならなくなった。
「参った。後はもう魔王召喚するくらいしかストックがないぞ」
「複数体召喚してもあまり変わらなそうだしねぇ」
「あと天使共に騒がれずに使えるのはチェクトくらいかぁ。でもあいつ模擬戦とか向かないんだよなぁ。真面目だから」
「後はもうフローシュに条件付けするっきゃないんじゃない? 魔法オンリーとか物理オンリーとか」
「成る程。魔法反射特性相手に魔法のみでとかか」
「悪趣味だねぇ。さすが魔王。でも、いいのかなぁ」
ニタニタと笑みを浮かべる小影に小首を傾げるロスト。
「だってさぁ、そういう意地悪な悪魔、今呼び出して倒された訳じゃん。もしも攻略法見つけちゃったら……さらに手がつけられなくなるよ」
小影の不敵な笑みにロストの頬を冷や汗が伝う。
もしも絶対攻略不可能な意地悪な敵相手に有利属性を封じられた状態で闘わせ、勝ってしまったら? 下手したらその内ロスト自身すら撃破する天使が育つかもしれない。
「う、うん、とりあえず適当に召喚して団体戦がいいかな」
「くくく。まぁそれが無難かねー」
楽しげに笑う小影。ロストが焦る姿を見られて楽しかったようだ。
おもしろくなさそうな様子で小影を一睨みした後、ロストは次の魔物の群れを召喚する。
一応意地悪を入れるために物理吸収特性や、魔法反射属性の魔物も混ぜておく。
「次はこいつらだ天使見習い!」
「はい。スライムさんは外で見学しておくと良いですよ」
フロシュエルの言葉を受けたリフレクトキングスライムがぬるぬるぷるんと結界を抜けてロストの横へとやってくる。
「むぅ、あの結界普通に通り抜けやがった」
「あはは。あ、スラちゃんお茶飲む?」
隣に座っていた小影が新しい湯呑を取り出し魔法瓶からお茶を注ぐと、これはありがたい。とリフレクトキングスライムは触手の一つを使って湯呑を絡め取り、もう一つの触手で小影を真似て湯呑の底に当て、くいっと飲む。
妙に手なれたその姿は、どう見てもお茶を飲む縁側のスライムであった。
なんだあれ?
呆れた顔でスライム達を見ていたフロシュエルは、並み居る敵向け、その魔法を発動させる。
「音速落下の光の矢束!!」
「おおお、何だアレ!?」
「あー、あの技私喰らったー」
くっくと笑う小影。撃破したけどねー。と得意げに告げる。
「アレ撃破したんだ。最近の人間も馬鹿にできないなぁ」
ロストの呟きにスライムも頷く。
なんだかんだで巨大スライムもまた、この光景になじみ始めていた。
そして戦場では……魔法反射や魔法吸収、耐性持ちのみが残っており、反射された光魔法もフロシュエルのプリズムリフレクションに阻まれ、フロシュエル無双が開始されていた。