二十四日目9
ピクシニーに別れを告げてフロシュエルと小影はコンビニへと向かう。
ここから先は小影も知っている彼との闘いだ。
コンビニには相変わらず立ち読みをしている魔統王ロスト。無防備過ぎる邪悪の化身に、フロシュエルはいいのかなぁと頬を掻く。
「オイッスロスト」
「なんだいその挨拶は。やぁ小影君。天使見習い君も一緒か。ということは、召喚だね」
「私の姿見ただけでその言葉が出るのが凄いですよね。まぁその通りなんですけど」
「そうだねぇ。今回は誰を召喚するべきか。正直な話、今の君と闘いになる存在って魔王くらいしか居ない気がするんだよねー。あ、そーだ」
思い至ったようでニヤリと笑みを浮かべるロスト。
コンビニから出ると学校向かって歩きだす。
「良い奴いたよ。魔王じゃないけど魔王並みに強い奴」
「そんな奴いるの?」
「ああ。いるいる。しかも今の天使見習い君には少々きついかもしれない存在だねー」
マジですか。フロシュエルは驚きを露わにする。
今の自分に魔王でも無くただの魔物に強力な存在が居るというのが信じられなかった。
確かにタキシムのような生物が居る可能性があるにはあるが、ロストは最弱は最強~。と訳の分からないことを呟いていた。
校庭までやってくるといつもの定位置に付く。
ロストが結界を張り、フロシュエルの前に魔法陣が描かれる。
光を放った魔法陣から現れたのは、一匹のスライムだった。
「うわーお貧弱ぅ~」
「スライムが対戦相手?」
「ふっ。ただのスライムと思うなかれ。そして敗北はスライム凌辱と知れ天使見習い君」
「ちょ……」
「頑張れフローシュ。負ければ口じゃ言えない酷いことになるわよー」
「もちろん、深淵魔法は禁止だからねー」
気の無い小影の声援とロストの念押しにうぐっと呻くフロシュエル。
ただのスライムならホーリーアロー一撃だ。
だが、この状況で呼び出されたスライムということが油断できないことをフロシュエルに伝えていた。
だが、まずは相手の出方を伺うためにホーリーアロー。
軽い魔力でスライムに撃ち込んでみる。
次の瞬間だった。耳障りな音と共にホーリーアローが跳ね返ってくる。
「反射っ!?」
咄嗟にホーリーアローを避けるフロシュエル。
はっと気付いた時には、先程までいた筈のスライムが消えていた。
即座に索敵スキルを全開する。
「下!?」
咄嗟に飛び退いた次の瞬間地面を割り砕き出現するスライムの触手。
あっぶな。と心臓をバクバクと鳴らしながらバックステップ。
立て続けに地面から触手が飛びだす。
スライムと侮っていなかったはずだが、既に防戦一方に追い込まれていた。
「ひゃぁぁ、これは確かに面倒そうっ」
「リフレクトキングスライムっていうらしいよ」
へー、リフレクト……キング!?
フロシュエルは内心で驚く。
ただのリフレクトスライムであれば魔法を反射すると分かるのだが、キング、つまり王を名乗られればそれはただのリフレクトスライムですらない。
翼を打って空中に逃れる。
間一髪迫る触手を回避したフロシュエルは、キングと呼ばれる所以を知った気分だった。
いつの間にか、スライムは結界内全体に身体を広げ、どこからでも追撃出来る状態になっていたのだ。
フロシュエルが空に逃れた瞬間、地面全てが隆起して拡散したスライムが剣山のように触手を無数に突き出して来る。
地面を征圧され、後は触手を上に伸ばすだけでフロシュエルの逃げ場は無くなってしまう。
一瞬でフロシュエルは移動を殺されてしまったのだ。
リフレクトシールドの御蔭で触手は弾けたが、このままではマズいことに変わりはない。
おそらく深淵魔法であるならば即座に撃破出来る部類の存在だろう。
しかし、深淵魔法を封印している現状ではフロシュエルには最も相性が悪い相手と言わざるを得ない。
「成る程、魔法を弾く物理は軟体が受け止める。これは正直何ともなりませんね……以前の私なら」
これを破る術を、何通りも思い浮かべられる。
ピクシニーやブエルに教わった魔法がある。
スライムなど意思が薄弱な者ほど効果が出る魔法。それは精神魔法だ。
精神系の即死魔法、あるいはHP強奪魔法など。
スライム系の敵にとって一番の弱点になるのだ。
とはいえ、フロシュエルはそれを行う気はなかった。
何よりロストが召喚したスライムだ。精神攻撃系についても対策があるかもしれない。
ならば、方法は一つ。完全に教わった月下暗殺拳である。
「ふふ。師匠見ていてください。ロストさんの度肝抜いてやります!」
翼を打って急降下。
触手の群れをプリズムリフレクションを回転させてドリル状にすることで押し広げ、地面と一体化していたスライムへと突っ込んだ。
「月下暗殺拳秘義! 天帝爆散内発勁!」
その攻撃はただ、掌をスライムの母体に押しつける。それだけの一撃だった。