二十四日目8
「ぎゃふーん」
溜息吐きながら起き上がったフロシュエルはそんな言葉を吐きながらもう一度寝っ転がる。
もはや気力が尽きた。
新技作ったのに速攻破られるという事実、しかも絶体絶命の内部から強引に突破である。
勝てる気がしない。
「いっやーやばかったー」
「いやいや、だいぶよゆうだったよね?」
「小影さん凄過ぎです」
「そんなことないし、やばかったってば」
カラカラ笑いながら告げる小影は本当に危機に瀕していたようには思えない。
しかし、本当に危なかったと連続して言って来るので少しは焦ったのだろうとフロシュエルは納得する。
「でもさー、にんげんにやぶられるならこれはダメだね」
「ぐさっ!?」
ピクシニーの言葉に折角上半身を起こしたフロシュエルは胸に矢が刺さったジェスチャーをして三度寝っ転がる。
「いやいや、確かに私みたいに魔法を破壊出来るスキル持ち相手なら無理だけど、脳筋相手なら充分通用するわよ」
「でものうきんならたえきるんじゃない」
「あ、なるほど。それに魔王種だったら結構魔力を打ち消せるか……」
どの道このスキルは派手なだけで大物相手には致命にならないようだ。
寝転がったまま空を見上げたフロシュエルは、強くなるって大変だなぁ、と他人事のように考えながら流れゆく雲をしばし見つめ続けるのだった。
「うーん、なんかいい必殺ってありませんかねー」
「あら、私相手には随分手加減してくれてたみたいだけど。必殺はあるんじゃないの?」
「あるのは深淵魔法くらいです。文字通り必殺の魔法ですから奥の手ではありますけど……」
「試合などでは使えないってことね」
「はい、そういうのも試験でありそうですし、その……」
「いや、天界試験は今のでも相手死ぬんじゃない」
何しろ対戦する可能性があるのは同じ天使見習いなのだから。
「そういえばしけんってなにすんの?」
「二次試験は力、知恵、総合力ですね」
「私もハニエルに聞いてみたんだけど、力は天使見習い同士で対戦。知恵は世界常識のテストね。総合力は今フロシュエルが挑戦してる野中邸攻略の劣化版かしら」
「え? 劣化版、ですか? 野中邸が劣化版、ではなく?」
「そりゃねー。野中邸はハニエルでも攻略出来てないんだから天使試験の方が楽なんじゃない? 多分フィールド内の隠されたお宝発見しろ。とかきめられた部署に届けモノ届けろ。とかじゃないかしら」
「うっわ、なんかかんたんそう」
「そう、実は私も試験の試験フローシュにやらせてから知ったんだけど、簡単なんだよ。普通の天使試験は。今のフローシュなら多分普通にクリアできる」
「え? そうなんですか!?」
「知識がちょっとアレかもだからこれからしばらくは世界常識覚える方向にした方が良いかもしれないけどね」
「きょねんのしけんとかはどんなのでたの」
「えーっとね。たしかスクランブル交差点が出たかしら。あとハロウィン関係とか。時事問題としてはアメリカ大統領の名前とか?」
「なんでそれだけふつうなのよ……」
「私に聞かれても困るっての。でも知識なら今から夜に詰め込めば問題無いでしょうから、帰ったら勉強ね。私が勉強手伝うんだから100点取りなさいよ」
「ハードル過ぎません?」
「ニュースやクイズ番組見てればほぼ問題ないわよ。天使試験なんだしそこまで高度な知識は求められないわ。小学生テストみたいなもんよ」
「それもそれでどうだろう?」
「なんでしょう? もう、テスト受けた後に小影さんの試験に合格した方がいいような気がしてきました」
「本末転倒じゃん」
「こかげのよういしたしけんがわるいっ」
「難易度が高過ぎなんですっ」
二人して責めるが小影は苦笑するだけだ。
「でもほら、フローシュは試験に落ちる心配はなくなったでしょ? 初めに難しい試験をやっとけば対処がしやすくなるってものよ」
「そうですけど!? そうなんですけどぉ……」
「まーそういう訳で遠慮なく試験受けてくれぃ。大丈夫、フローシュならいけるって」
「うわーお適当」
「あ、ちなみにフローシュ。私は野中邸クリア済みだから」
「え!? あそこクリアしたんですか!?」
「ええ。ラスボスもしっかり粉砕したったわ」
「ラスボス?」
「おっと……」
慌てて口を塞ぐ小影。なにやら不穏な状況にフロシュエルは嫌な予感しかしなかった。
それでも可能性が示されている以上心の覚悟は済ませられる。
ラスボスとやらが出ても小影が倒せてフロシュエルになら勝てると判断されているのだ。ならばその通り、フロシュエルが油断しなければ倒せる存在なのだろう。
覚悟はできたのだ。後はクリアするだけだ。
「ピクシニーさん」
「ん?」
「次の挑戦時、本気でクリア目指してみようかと思います」
「おー。やったれフローシュ」
静かな闘志を燃やし、フロシュエルは野中邸クリアを目指すのだった。