二十四日目6
「それでは、本日もお世話になりました」
「うむ、なかなか有意義であった」
すっきりした顔のドクターに見送られ、秘密基地を後にする。
ドクターの隣ではキキが軽くお辞儀をしてフロシュエル達を見送った。
「いやー、さすがに酷いわねー」
「酷いって。まぁ傍から見てれば酷かったかもですね」
「ええ、肝が冷える思いだったわ。むしろ周りで聞いとく方が胃が痛くなるかも」
毒舌で相手をこき下ろすドクターとそれをやり込めたり受け流したりしているフロシュエルを見るだけで気分が悪くなる気持の小影。ふーっと息を吐いて背伸びをすると、気持ちを入れ替えるように「あーっ」と声を出す。
「よっし、気合十分。次は何処?」
「えーっと。そうですねー。公園でピクシニーさんと魔術練習ですかね? そろそろ完全さんがこっちに来れなくなるらしいですし、居らっしゃれば暗殺拳修行も入りますね」
「なるほどー」
公園に付くと、相変わらず田辺さんがベンチに座ってハトに餌をやっていた。
「お、田辺さんまたサボり?」
「おや、今日は小影さんも一緒かい。ピクシニーちゃんが待ってるよ」
「ちょっと、わたしはべつにまってないわよ」
ドクターにしろピクシニーにしろなんで私が来るのを待ち望んでいるのだろう。なんて思いながら小首を傾げるフロシュエル。
「それじゃ、さっそくじゅぎょーはじめよフローシュ」
「そうですね。あの辺りでいいですかね」
フロシュエルとピクシニーが森と公園の堺へと向かって行く。
そんな後ろ姿を見送りながら、小影は田辺の隣に座る。
「なかなかいい子じゃないですか」
「そうね。いい子だわ」
しばし、静寂が流れる。
田辺により撒かれるパン屑を食べるハトの鳴き声だけがしばし聞こえる。
「……いい子過ぎるから、大変なんだけどね」
「なるほど。でも人を信じ過ぎることの危険さは教えたつもりなんですがねぇ」
「さっき、知らない三人組にホイホイ付いて行ったばかりよ。まぁ私の仕込みだったんだけどね。自力で突破はできたけど、罠には嵌ってたからそこが、ね」
「本人の性格を矯正するのは一筋縄ではいきませんねぇ」
「いい子なんだけどね。いい子過ぎるのも、考えものよね」
「あんな子ばかりなら、いいんですけどねぇ」
ピクシニー共々公園の隅で何かをしているフロシュエルを見る。
微笑ましい光景だし、怪人共が跳梁跋扈するこの世界では光の矢を打ち始めても全く気にはされないが、天使としてそこまで大っぴらに神聖技使っていいのだろうか?
「田辺さん」
「はいはい。嫌な予感しかしないねぇ」
「フローシュのこと、もうちょっとだけお願いします」
「はぁ、まだ終わらんか。けれど、引きうけましょう。私も彼女には絶望を味わってほしくないですからね。ドッキリ大成功を連発させていただきますか」
「あ、それいいわね。ビデオカメラ用意しなきゃ」
「折角ですし我が社総出でやって見るのも面白そうですねぇ」
「あはは。楽しそう」
二人は楽しげに笑い合う。
ぞくぞくっと背中を駆け抜けた悪寒にフロシュエルが二人を振り向くが、ただ会話がはずんでいるだけにしか見えなかったので小首を傾げながら新技の開発に着手するのだった。
「すっごいわねこれ」
「でしょう。このまえ小影さんの家で見たマンガで見つけたんですよ。王様の蔵でしたっけ。こう背後から武器を大量に相手に飛ばすっていいますか」
「それをパクるの?」
「いえ、流石にそのままではアレですのでホーミングと包囲と収縮で相手の逃げ場を塞いで一撃必殺するつもりです
「うっわ、きょうあくぅ~」
「なんか面白そうな話ししてるわね」
ピクシニーとフロシュエルがきゃいきゃいと話していると、ベンチから立ち上がった小影がやってくる。
「あ、小影さん」
「新技?」
「はい。ホーリーアローオルレンジをさらに進化させようと思いまして。今度は完全さんにも回避出来ない反射できない必殺技を作るのです」
「ホーリーアローオルレンジかえされちゃったしねー。あるてますごすぎっ」
「ふーん。じゃあ折角だしその必殺作るの手伝ってあげようか」
「え? 小影さんが、ですか」
「まー、最近運動してないからちょっと軽く殴りたいなーと」
「えええ!?」
フロシュエル相手に殴ってストレス解消しよう、なんて思っているらしい小影に呆れるフロシュエル。ただ、ピクシニーはむしろ面白いことが始まると気付いて頑張れフローシュ。と応援に回ってしまう。
「んじゃま、準備準備」
「は、はい。よーし、頑張りますよ!」
「おー、げこくじょーだ。やっちゃえフローシュ!」
ピクシニーが楽しげに声を張り上げ、騒ぎを聞き付けた田辺さんが興味を覚えて近づいてくる。
「あー、ちょっと目立つか、森の中に行きましょ」
公園で暴れるのは少々マズい、と小影に促され森へと向かうフロシュエルだった。