二十四日目2
「小影さん、次は何処へ?」
バーガー店でバーガーを食べ終えた後は小影に連れられどこかへと向かう。
小影相手なので信頼もあり、フロシュエルは尋ねるだけで答えが無くても付いて行くつもりである。
それくらいに小影を信頼しているのだ。
「フローシュ。一応言っとくけど、信頼出来る人に連れていかれるからって警戒は忘れちゃダメよ。もしかしたら洗脳されていてあんたを罠に嵌めようとしてるのかもしれないんだから」
なので一応釘を刺しておく小影。
成る程と今気付いた顔で納得するフロシュエル。
純粋なのはいいが無条件で信じるのは自滅へのカウントダウンであるとも言える。
「例え裏切られても対応できる術を持たない時は気軽に付いて行かない。例え私やハニエルからのさそいでもね。おっけぇ?」
「は、はいっ」
本当に分かっているのか不安になる返事に小影はダメかもしれない。と呆れた顔をする。
フロシュエルとしてはしっかりと肝に銘じたつもりなのだが、出会いが出会いなだけに小影には不安にしか思えなかったようだ。
何しろまだ二十日くらいしか経ってないのだ。実力が爆増したとしても精神まで追い付けるかと言えば別である。
たった二十日では赤ちゃんから大学生になるなど不可能もいいところだ。せいぜい一歳になれるかどうかだろう。
フロシュエルは自分は大丈夫と思っているようだがまだまだ精神は未熟な筈である。
「ちょっと、やるしかないかなぁ。荒療治」
「え゛ぅ?」
「本当に、堕天しちゃだめよフローシュ」
「あのー、なんか不穏な気配がするのですが、もしかして堕天するようなことしようとしてません?」
「あはは、なんのことやら。まぁ、覚悟はしとくがいい」
「やばい、小影さんの眼が$マークになってる……」
恐ろしい事が起こる気がする。
全身を駆け廻る悪寒にフロシュエルが身奮いする。
「ほいよ到着」
「ここは?」
「動物園よ」
「なんでまたそんなとこに?」
「人間の罪深さを見せるため」
黒い笑みを浮かべる小影に、ひぅっと息を漏らすフロシュエル。
「なんてね。まぁなんだ、人間がどういう存在かいろいろ教えておこうと思ってね。これは天使や悪魔にも言えることだけど多面性の性質があるのよ。だから堕天するのはマズいけど、天使であってもあくどい奴や怠け者な奴はいるでしょ。人間にもそういう多面性があるってことを知ってほしいから、ほら、行くよ」
「お、おお、なんか動物園って凄いですね」
無数のオリに住む動物たちを眺めてフロシュエルは感嘆を漏らす。
「結構珍しい動物が飼われてるからね。ほら、あそこのはホワイトタイガー。あっちはサーベルタイガー。ゾウにキリンにサイ、それから……」
説明を受けるフロシュエル。ゾウのオリを見て思わず目をこする。
見間違いではない気がする。
「あの、小影さん……」
「ん? なによ」
「ゾウが、ゾウが二足歩行してます」
「え? ああ、芸でもしてんのね」
どうでもいいと視線すら向けない小影。
フロシュエルの目の前ではゾウの身体を洗っている二足歩行のゾウの顔を持つ生物が普通にゾウい混じっている。
そいつはブラシでゾウの身体を洗うと、尻をペシンと叩いて去っていった。
スタッフ? それとも二足歩行のゾウ?
え? 何今の?
呆然とするフロシュエルを放置して、小影は次のオリの説明い向う。
フロシュエルが付いて来ていないことに気付いて引き返して来ると、首根っこ掴んで次の場所へと連れて行くのだった。
「えーっとこの辺りはサルが多いわね。えーっと、テナガザルにテングザルに聖天大聖。ああ、孫悟空ね」
「ちょ、待ってください、孫悟空って動物園ですよねココ!?」
「まぁその辺りもいるんじゃないの」
そのプレートが掛かった折の中には、一匹の人型大のサルがいた。
どう見ても怪人か何かだ。フロシュエルと眼が合うと「見てんじゃねーよ」と告げて来る。
「ちょ、小影さん、今、今孫悟空しゃべ……」
「はいはい、次行くわよ次。えーっとこの辺りは鳥か」
珍しい鳥が入れられているオリに向かう。
見たことのない鳥の群れに、おおっと感動を覚えるフロシュエル。その視界の片隅に、蜘蛛男と書かれたプレートが映る。
思わず二度見したフロシュエル。オリの中には蜘蛛の巣が張り巡らされ、カップなヌードルを食べている四十代位のおっさんがオリの中にいらっしゃった。
しばし呆然としていると、おっさんも気付く。
「ここは昼休憩中だよ嬢ちゃん。また後で見に来な」と言って食事を再開する。
「え? ちょ、この動物園何かおかしいっ」
「珍しい動物でもいた? あ、ほら見てフローシュ、ペンギンが散歩してるよ」
放し飼いにされているらしいペンギンが目の前をぺったぺった歩いて行く。
数匹連なってくる姿は滑稽ながら思わず視線を離せなくなる可愛さがあった。