二十三日目10
「さって、今日はどうしましょう?」
本来であれば夕食後はブエル達と魔術訓練が待っているのだが、残念なことにブエルとハニエルは洋館アタックの最中だ。
ハニエルが初っ端から水攻めにあったそうで二人して躍起になってクリアを目指しているらしい。
御蔭で野中姉妹が寝不足で助けてと先程メールをいただいた。
ガンバっとだけ返したフロシュエルは今小影と二人縁側でお茶をすすっていた。
本日は何もすることが無いので暇である。
フロシュエルとしてはこうしてゆったりする時間があるのは嬉しい半面、ちょっと不安になったりもするが、小影曰く問題なく休める時は休むことも覚えろということなので、遠慮なく緑茶で一杯。
ぽへぇ~っと小影ともどもゆったりまったり。
「平和ですねぇ~」
「こういう日が続けばいいんだけどねぇ」
二人してぽやぽやとした微笑みで月を見上げる。
三日月の夜はそれなりに星が見えており、雲は見当たらない。
丁度見晴らしもいい夜空なので月見には良い夜だった。
「でも、なんにもしてないと、なんかこう身体動かしたくなりますね」
「最近忙しく運動してたからでしょ。フロシュエルは恐ろしい勢いで人生駆け上がってたのよ、一日くらいゆっくりして疲れを取らないとこれ以降は厳しくなるかもよ」
「あはは。まぁ正式に天使になると休みはほぼなくなりますしね。でも、ハニエル様の下で働く天使はしっかり土日が休みですし有給も取れるんですよ」
「え? 給料出るの!?」
「喰いつくのそこですか!?」
「だって儲け話じゃない。天使の作業手伝ったらお金……」
「いえ、天使が貰うのはお金ではなくてですね……経験値です」
「なんとぉ!?」
「ビー玉くらいの小さい玉を貰ってですね、それを食べると強くなります。御魂、天魂、照魂と三種類ありまして、ミタマは大天使から天使に払われる経験値で百円とかそれくらいの価値ですね」
「ほぅほぅ」
「テンタマは天使長から渡される大天使への経験値玉です。これを割り砕いて自分の経験値と部下に払うミタマに変えるんです」
「ほっほー」
「それでテリタマなのですが、これは神様から大天使長に渡される経験値玉でここから大天使たちに渡す経験値を割り砕いて、残りを自分たちが吸収しているそうです」
「ふーん。じゃあ長年天使長やってれば超強力になれんじゃん」
「それがですね、神様がくださるのが数百年に一度とかなのでそれだけの期間経験値を分割させていくとなると実質天使長たちが得られる経験値って微々たるものでして」
「よく出来たシステムだこと、全員儲からないように出来てる訳か」
「着服なんてすれば堕天案件ですし、今の所そんなことして堕天したのはルシファーさんとサタンさんくらいですね」
「ああ、だからあの二体は超強力な力を手に入れてる訳ね。神様が下剋上されないための策でもある訳か。あっれー、なんか神様が身近に感じられて来たぞ?」
「んん? どういうことです?」
「あー、うん。フローシュは気にしなくていいってことよ」
「はぁ……?」
よくわからず首を捻るフロシュエル。
小影は言葉を飲み込むように緑茶を一口。
ぷふぅーっと息を吐きほんわかした顔で月夜を見上げる。
眼が太めの横棒になってホッペに赤丸が出来ている程の幸せ顔に、フロシュエルもなんだか幸せな気分にさせられた。
「経験値かぁ、テリタマだっけ、それ手に入れたらフローシュもっと強くなるんじゃない?」
「天使見習いの私なんかが手に入れたら神様にぶっ殺されると思うのですが」
「だよねー。残念。あ、でもアレね」
「あれ?」
「テリタマ、私も知ってるわよ。明日食べにいこっか」
「て、テリタマを食べるんですか!? で、でも……」
「あー、大丈夫、食べて問題ないテリタマだから。神罰起こったら人間殆ど死滅してるっつの」
「あ、ああ。テリタマという名前の別の物ですか。人間界にそんなのありましたっけ?」
「あるわよ。ふふん、楽しみにしておくがいい」
ドヤ顔見せる小影にうわぁと引いたフロシュエル。
お茶を一杯頂き、空を見上げる。
星空の綺麗な空は天の川が見えていた。
「いいですねぇ……」
風も穏やかで夏の夜空に煙る線香の煙。
小影は団扇を持ちだして来ており、ゆったりと仰ぐ。
「着物着といた方がよかったかなー」
「そう言えば小影さん」
「んー?」
「今、夏休みですよね? 学校普通にやってるのは何故ですか?」
「あー、それね。いろいろ学校でイベント起こったせいで六月位からしばらく休校なってたのよ。だからその補習が夏休みを消化して授業させられてる訳。まぁ酷いとはいえ当事者だから何も言えなくってさー」
学校が運営出来ない状態を小影が作りだしたらしい。強く不満が言えないので甘んじて学校には向かっているんだそうだ。
小影とどうでもいい会話を続け、フロシュエルの一日が更けていく。