二十三日目9
「な、なんとか勝ちました」
「深淵魔法解禁してたの気付いてたかい?」
「……思わず使っちゃいました」
深淵魔法は禁止、危険だからって理由なのだが、さすがに出し惜しみなどしていられなかった。アレは完全破壊する以外に道は無かった。下手に手加減するとフロシュエル自身が殺される。アレはそういう手合いである。
「まぁ、いいんじゃない。本当の意味での闘いを体験で来たってことで。私はごめんだわあんなのと闘うのは」
「僕もタキシムとは闘いたくないかなぁ。しつこいし」
二人揃って闘いたくないというタキシム。フロシュエルとしても同感ではあるが、なら闘わせるなよ。という思いが湧き起こるが、二人はもう終わったものとしてタキシムには触れず、次誰召喚しよう? と相談し始めている。
「あの~流石に今日は疲れましたというか……」
「ああ、まぁそりゃそうか。うん、じゃあ今日はこの辺で終わろうか。また次の修行に適任そうなの考えとくよ」
「うわー、何でそんなに楽しそうなんですか」
「え? だって闘い見るのって興奮しない? ほら、アリーナとかで闘うの見ると拳突き上げて叫びたくなるじゃん。そんな感じ」
「面白いから時々私も見学させてねフローシュ」
「うっわー、このお二人私の苦労なんとも思ってなーい……」
明日以降ロストと会うことがあれば酷いことになりそうだ。
今回はロストと別れ、小影と共に帰ることにした。
帰り道、小影と二人帰るのは久しぶりだ。
「小影さん、今日は何も無いんですか?」
「ん? 借金取りの業務ってこと? ええ。無いわよ。やろうと思えばいくらでもあるけど、直近返してもらわないといけない人はいないかなぁ」
「それは良かったです」
「にしても、強くなったわねフローシュ」
「え? そ、そうですかね」
突然の褒め言葉に顔が赤くなるフロシュエル。
「正直焦りすら覚えたわ。多分、今フローシュが堕天したりしたら、私じゃ勝てないでしょうね」
「いやいや堕天って。さすがにしませんよ?」
「未来は分かんないわよ。だからこそフローシュ、いろいろな体験を経験しておきなさい。今の貴女なら試験の試験はクリアしなくても充分天使として大成できてるわ」
「あ、ありがとうございます。でも、折角小影さんが用意してくれた試験です。できるならば、全部、クリアしたいんです」
顔が熱くなるのを感じながらも必死に告げる。
小影を眼を見開いて驚き、しかしすぐに嬉しそうに顔を緩めた。
「ふふ、それなら頑張ってクリアしてねフローシュ」
「はいっ」
「それで、クリアの目処は?」
「あとは小出さんと野中さんですからね。野中さんについてはゆっくりとでも洋館を探索してみます。ただ、小出さんについては……」
「まー小出さんはねぇ」
引き籠りの彼をどうするか、フロシュエルにはまだ手がない。
一応幾つか手を打ってはいるが、それが何かしらの効果を出してくれるかどうかが分からないのだ。
「引き籠りの人はなかなか出て来ないからねぇ。庭に火着けても出て来なかったし、もう首に縄つけるくらいしないとダメなんじゃない?」
「それ、憲法に抵触しまくってますよね?」
「当然」
てへぺろっとばかりに親指を立てる小影。
ダメじゃないですか。とフロシュエルは息を吐く。
「一応、入口から呼びかけとかしてるんです。周辺の人が何してんのって聞いてきたらちゃんと理由を告げてですね。うるさいって出て来てくれればいいんですが……」
「うわー。悪意無き地獄への片道切符渡してるよこの子」
「へ? ど、どういうことですか!?」
「うん、あんたはね周囲の人を巻き込んでる訳だよ。つまり、あんたが居ない今現状も、周辺ではあそこの人借金作ってんだって。可愛らしい女の子にお金借りて、返してないんですってー。とか話題がでて波及してるのよ。結果、小出さんの周囲は敵だらけになる訳ね。これが兵糧攻めという奴よ」
「あ、あわわわわ。な、なんか大変なことに……」
今更ながらやってしまったと気付いたフロシュエルだが、もはや賽は投げられている。
あとはどうなろうとも、小出さん次第という訳だ。
「フローシュ、自分が何かしら行う時はその先も考えるようにしなさい」
「は、はい」
「下手に手を下したことが大火となって周囲を焼きつくす可能性だってあるのだから、自身の行動で起こりうる可能性はできるだけ考えておくこと。そうすれば万一最悪の事が起こっても喰い止めたり被害を最小限に抑えることが出来るようになるわ」
「な、なるほど……」
自分が起こした何気ない行動で恐ろしい事が起こりそうな気がする。
今更ながらだが、フロシュエルはもっと未来のことを考えながら行動を起こすようにしようと決意するのだった。