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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
一日目・共通ルート
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二日目5

本日三話目

 ……で


「のぼせちゃった訳か」


 一時間程経った後、様子を見に来た小影によって、フロシュエルは救出されていた。

 まさかこんな所で命の危険があったなど、フロシュエルが気付けるはずもなかった。


「す、すいません」


 ベットに寝かされたフロシュエルは、無残なほどに全身真っ赤になっていた。

 全身余すところなく小影に見られた気もするが、フロシュエルも天使の端くれ、人間の持つ羞恥心など皆無である。


「まぁ、天使だったおかげか茹って死ぬわけじゃないからいいんだけどね」


 小影は困った顔でフロシュエルの額に濡れタオルを置く。

 その後、直ぐ横に座ってウチワで仰いでくれていた。

 天使であるフロシュエルは受肉した身体が茹ろうと致命的な傷を負って肉体的に死んだとしても、彼女自身の死を迎えるということはない。


 何しろ天使なのだ。彼女が死ぬとすれば天使としての身体を悪魔や霊的存在に撃破されるか、天使裁判による消滅が行われるかぐらいしかないのだ。

 といっても、受肉した肉が死亡してしまえば、次の受肉するまでの期間はその肉体を使えなくなってしまうのではあるが。


「大丈夫ですよ、回復魔法を使えばすぐに……」


「できるんならさっさとやってみなさいっての」


「今はちょっと、集中できませぇん」


「ダメじゃん」


 素直に謝るしかなかった。


「で、今日もやってみてどうだった?」


「それは……」


 小影に言われ、今日の行動を思い出してみる。

 小出さんが居留守を使っていることを知ったこと。

 バロックさんの家には裏口があり、また逃げられたこと。


 井手口さんの家は飛ばしたことも、正直に話した。

 怒られるかと思ったが、小影は続きを促すだけで何も言わなかった。

 田辺さんに十円返してもらい、健太に明日勝負をすると誓ったこと。


 そして、野中さんの洋館で青銅甲冑に襲われたこと。

 気力を無くし、なんとか帰って来たと話す。

 全て話し終えると、小影はふむ。とうなずいた。


「そんで、フロシュエルはどう攻略するの?」


「攻略……ですか?」


「当り前でしょ? コレは試験なんだから、ちゃんと現金返してもらわないとさ」


「ですが……何とかできるでしょうか?」


「出来るかどうかじゃなくて、やるのよ」


 確かにそうだと思う。

 しかし、フロシュエルはこの試験の試験を越えられる気がしなかった。

 小出さんを家から出す方法なんて分からない。

 バロックさんだってそうだ。次は裏口を張ったとして、横から出られたら結局逃がしてしまうのだ。


 井手口さんの奥さんには会うのも嫌だ。

 出会い頭の恐怖が未だに頭から離れない。

 田辺さんからは、きっと返してくれるだろうが、それでも結局20点。

 80点には程遠い。


「洋館も攻略しないといけないですよね」


「ま、そうなるでしょうね」


「でも、青銅甲冑、人が入ってないのに襲って来たんですよっ。あんなの怖いじゃないですか!! 攻略云々以前の問題ですよ!?」


「だから?」


 さすがに恐ろしい出来事だったので、泣きつきそうなフロシュエルだったが、小影は平然と言い放った。


「いえ、だからっ……て」


 同意して貰えずに不満げに告げるフロシュエルに、小影は呆れ果てたように溜息を吐く。

 若干ウチワの速度が弱まった気がする。


「あのさ、あんたは何目指してんだっけ?」


「それは、天使ですけど?」


「天使って何すんの?」


「ええとですね、神様や先輩天使の使命を受けてお仕事をする……」


「その仕事の中にはさ、魔物退治ってあるんじゃない?」


「はい。その通りですよ?」


「じゃあさ、リビング・アーマーに恐れを抱くあんたは天使の仕事出来る訳?」


 言われて、気付いた。

 小影の言うとおりだった。

 動く青銅甲冑は恐れるべきものではないのだ。


 確かに急に動いた甲冑は怖い。でも、悪魔はもっと恐ろしい上にあんな遅く単調な動きでは決して無い。

 アレにビクビク震えて負けているようでは、悪魔と闘うなど夢のまた夢なのだ。

 むしろ、悪魔と闘うために、これ程やりやすい練習相手はなかなかお目にかかれない。


 自分は天使であり、甲冑も悪魔も使命のために排除すべき障害でしかないのだ。

 同じ意味でいえば、井手口さんの奥さんも、健太も、今は倒すべき敵であり、恐れるモノではないのである。いや、恐れてはならないのだ。


「ああ……そうか」


 唐突に、頭の中が冴え渡った気がした。


「確かに、その通りです小影さん。青銅甲冑が動いた程度で驚いていて、魔物相手に戦うなどできません」


「お、理解が早い」


「明日、直接ぶつかってみようと思います。今の私じゃ勝てないかもですけど」


「ま、日にちはまだあるし、やれるだけやってみなさいな」


「はいっ」


 不安な気持ちも、辛い気持も吹き飛んだ。

 やるべきことを、成すべき道を見つけられたような、晴れた気分でベットから立ち上がる。


「じゃ、とりあえず食事して寝る?」


「はい。そうします」


「おっけ。下に降りよっか」


 なんとか集中して回復神聖技で自分を治癒しておく。

 回復神聖技と呼ばれているが、使えるのは自分だけであり、回復量もかなり少ない。

 それでもフロシュエルに取っては数少ない自分が使える神聖技である。


 小影に付いて部屋を後にするフロシュエル。

 明日こそはと、小影の背中に決意を向けるのだった。

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