二十三日目6
「グアァッ」
地を蹴るタキシム。
しっかりと見つめていればその姿がぎりぎりだが見ることが出来た。
一気に距離を詰める一撃が怖い。しかし、フロシュエルは目を瞑ることもなくしっかりと見定める。
「ホーリーアローは避けられる。光の剣じゃ対応しきれない。もっと素早く切り返せるもの……」
相手の拳を受け止め相手の攻撃をいなし、相手にダメージを与えるにはどうすべきか?
タキシムの蹴りがフロシュエルの障壁を五枚抜き。
慌てて障壁を張り直すが、空中に浮かんだタキシムは蹴り足を軸に回転しながら逆の足で蹴りつけて来る。
本能的に腕を使ってガード、そこへ障壁を全て貫通したタキシムの蹴りが襲いかかる。
強烈な衝撃にフロシュエルの身体が吹き飛んだ。
吹っ飛ばされた時の対処は既に完全に習っている。
受け身を取って転がりながら立ち上がる。
だが、そこへ迫るタキシム。
休む隙を与える気はないと、タキシムの抜き手が迫る。
フロシュエルの喉へ向って放たれた致死の一撃を、フロシュエルは手の甲で払い前へと向かう。
足を踏みしめ身体をかがめ、抜き手の一撃を紙一重で回避、そのまま飛び込むように肘を叩き込む。
「グァ!?」
気付いたタキシムは前に向かおうとしていた足に力を入れ後方へとバックステップ。
距離が開いた二人は互いを視合いながら体勢を整える。
今度は二人揃って動かなくなった。
互いに相手が強者だと認めたのだ。
ただ攻め寄せるだけでは相手を制せない。
フロシュエルは考える。この相手を倒し切るにはどうするか。
一番自分が信頼できる、今回の攻撃は、おそらく完全に習っていた拳法だろう。剣やら別の付け焼刃では潰される。
ならば拳を魔力で強化し、肉体強化し、一撃必殺に賭けるべきだ。
否、一撃では回避されれば終わる。
魔力を溜める。気力を溜める。精神を統一し視界を広げ圏境に至る。
魔力を拳に溜める。
属性は光。聖属性ではなく純粋な天使としての光属性。
「おお、アレは私の武器じゃない?」
「拳を光魔法で纏ったか。よくある魔法での拳強化だな」
「でも破壊的な魔法は使わないのねー」
「アレはヤバいから対戦では禁止にしたんだ」
小影さんとロストは集中の邪魔なので喋らないでください。
そんな事を思いながらタキシムの動きを見る。
相手からも探る気配がしている。
おそらく隙を見せた瞬間襲いかかってくるだろう。
「光拳塗装、行きます!」
「グアァッ」
叫んだ瞬間、タキシムが走る。
フロシュエルもまた走りだす。
踏み込みに力を入れて、渾身の右ストレート。
ひらりとかわされ隙が出来る。
「フローシュ!?」
側面に回ったタキシムの抜き手、致命傷を狙う一撃をフロシュエルは翼を羽ばたかせることで体勢を変え、ぎりぎりで回避。
眼を見開き驚く小影とロストの目の前で、タキシムの顔面に肘打ちが入る。
仰け反ったタキシム。
フロシュエルは好機とばかりに足を踏みしめ拳を振り切る。
「誘われた!?」
直前で気付いた。
マズイと思ったが力を加え過ぎたために途中キャンセルが出来ない。
タキシムの顔面向けて放たれた拳は、タキシムの頬を滑るように殺され、無防備なフロシュエルの顎に衝撃が走る。
上方へと打ち上げられた次の瞬間腹に衝撃。
蹴り足が突き刺さり、肺から空気が押し出される。
さらに回転するタキシムの蹴りが斜め上から延髄に叩き込まれ嫌な音が響く。
地面に激突したフロシュエルに、流石にマズいと気付いたロストが焦る。
「ちゅ、中止、中止だタキシ……」
「ヒールライア……今のは、ヤバかったです」
だが、ロストが声をかけるより早く、フロシュエルは立ち上がる。
折れた首の骨を回復魔法で戻し、自分の失策を確認する。
相手の誘いに気付かず乗ってしまった。
タキシムとしては今の一撃で倒したと思っていたようで、起き上がったフロシュエルに動揺を見せていた。
しかし、相手の疲れが酷いとみるや、拳を構えトドメに入る。
フロシュエルとしても負ける訳にはいかない。ここで負けて等居られない。
「行きます!」
「グルァ!」
双方地を蹴る。
拳と拳が交錯する。
光を纏ったフロシュエルの拳は触れた瞬間魔法の威力が上乗せされる強化拳。
タキシムの抜き手は当れば致命は免れない連撃。一度でも決まれば次々にコンボが決まり、フロシュエルは即座に敗北するだろう。
当然、そこで命も終わる。
気が抜けない闘い、本気の悪魔との命のやりとりに、フロシュエルは今までにない程に集中を始めていた。
完全や龍華も殺気は出すが、フロシュエルが本当に死にそうになると手を抜いてしまう。だから、今まで本当の命のやりとりはしていなかった。
だからきっと、フロシュエルにとって本当の戦闘は、今、この時だったのである。