二十三日目4
「さぁて、どうしましょうねぇ」
修行を終え、いつものコンビニへ向う帰り道。フロシュエルはうーんと考える。
今のところ、残っている試練は二つ。
最初の小出さんと最後の野中邸である。
野中邸はいいのだ。徐々にだが攻略できる。
まだ一カ月は猶予があるのでゆっくり攻略すればいい。でも小出さんとなるとそうはいかない。
引き籠ってしまっている彼を外に呼び出し返して貰うか。部屋に押し入り返して貰うか。
全く返してもらえる気がしない。
他の誰かであればもっと楽に返してもらえるのかもしれにないし。小影ならば上手くやるだろう。
けれどフロシュエルには天使憲法という制約がある。
無理矢理家宅に押し入る訳にはいかないし、魔法や何やらを使って強制的に外に出す方法も使えない。
「これはやはり、助っ人がいりますか……」
井手口さんの件で理解した。自分だけではどうにもならない時、周囲の誰かの力を借りるという方法。
と、いうわけで、折角コンビニに来たので内部で立ち読み中だった魔統王に助力を願い出ることにした。
「うん、警察に頼んでよそういうの」
にべもなかった。
再び立ち読みを再開しようとした魔統王の裾を引っ張る。
相談乗ってください。厚かましい程に告げるフロシュエルに根をあげたのか、溜息を吐いてロストは読んでいた雑誌を仕舞った。
「いやね、ホントに、そういう奴には国家権力ぶつけりゃいいんだよ。あるいは、ああ、そう言えばそういう家から出ない奴ように専門機関があったな。仕事するように促しに来るおせっかいな仕事が」
「なんと、そんなモノがあるのですか」
「そうらしいよ。僕は魔王だからどうでもいいんだけど」
「小影さんに聞いてみるべきでしょうかね」
「それがいいよ。僕より専門家だ」
「おー。あ、そうです魔統王さん」
「なにかな?」
「実は完全さんから技を習ったのですが、練習付き合って貰えません?」
「それは僕に技の実験台をやれと?」
魔統王相手に良くも言えたな。
そういう意味を込めた言葉だったのだが、フロシュエルはにこやかな笑みで言葉の刺を回避する。
「お願いします」
「ふむ。で、その技の名は?」
「……」
サッと、フロシュエルは視線を逸らした。
「……」
「……」
「で、その技の、名は?」
フロシュエルは明後日の方向を向いて口笛を吹いた。
「いい度胸だ天使見習いくん。でぇ? そ・の・技・の・名・は?」
「だ、断末魔作成拳ですぅ」
襟首掴まれガクガク揺すられたフロシュエルは観念して技名を告げた。
絶対に食らいたくない必殺技であった。
名前を聞いただけで喰らってはならないとロストの本能が警鐘を鳴らした。
「却下だ。自分の上司にでも使っておけ」
「ハニエル様になんて使ったら私が消されます」
「僕に使っても消されるとは思わないのかい君はっ」
「いやー、あはは」
上手くいけば魔統王の恥ずかしい断末魔が聞けたかもしれない。しかもフロシュエルは動画に収める気満々だった。
ちょっと、魔が差しただけなのである。
おちゃめな天使見習いのしたこととして許して欲しい。
「ええい、なんかイラッと来たから今日は徹底的に虐めてやる」
「ええっ!? 理不尽!?」
「魔王相手に変な技試し打ちしようとしたお前に言われたくないよっ」
「ちぇーっ」
罵り合いながらコンビニを出る。
小影の学校へと向かい中庭に向かうと人払いの結界を掛ける。
「あれ? フロシュエル?」
「おわ。小影さん?」
しかし人払いの結界に気付いて様子を見に来た小影と遭遇。
どうやら学校から帰る直前だったらしく、鉢合わせしてしまったようだ。
「あんたなんでここに? というか隣のは?」
「まぁまぁ気にしないでください。ちょっと練習に付き合って貰っているだけです」
「ふーん。まぁいいけど。あ、そうだロストさんや」
「何かね小影君」
「って、二人知り合いだった!?」
「貸した金そろそろ返してくんない?」
「おっと、今は持ち合せがないんだ。今度持って来るよ」
しかも金を貸し借りしている間柄だった。
急ぎではなかったらしく小影はまぁいいか。と付いてくる。
どうやら何をするのか気になったようだ。
魔統王がちょっと困った顔をしていたが問題は無いようで小影の同行を無言で許可したようだ。
フロシュエルの隣に並んでゆっくり歩く。
何が起こるのかは分かってないが面白そうなので見学するつもりらしい。
相手がロストだと分かっているのだから隠す必要もないかと納得し、フロシュエルも小影の同行に異論は挟まなかった。
「さて、始めようか天使見習い君」
今日は本気で潰しに行くよ。
背筋も凍る笑みを浮かべ、魔統王ロストが召喚を開始した。