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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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二十二日目12

「納得いかん!」


 ずぶぬれのままブエルが告げる。


「いえ、あの、ブエルさん?」


「この魔王である我があそこまで虚仮にされるとは! 許せん、許せんぞッ」


 どうやらこの洋館、ブエルのプライドに火を付けたようだ。

 絶対に攻略してくれん。と部外者なのに息まいていた。


「あのー、ブエルさん? これ、私の試験……」


「ふん、勝負だ天使見習い。貴様よりも速くクリアしてくれる」


「あれー。趣旨が変わっていませんか?」


「ふん。あの洋館など一捻りにしてくれる」


「いやいやー。一捻りにしちゃだめでしょう」


 小影の家へと向かい歩きだす。

 余程腹に据えかねたらしい自分がクリアするとか言いだしている。

 これは小影に伝えておくべきだろう。下手したらフロシュエルの試験にも影響が出るかもしれない。

 徐々にお金を返して貰っているのだ。あと二つ。その試験がブエルに滅茶苦茶にされてはたまらない。


 家に帰ってくると、丁度帰って来ていた小影とハニエルが縁側でお茶をたしなんでいた。

 丁度良いのでブエルと共に二人の元へ。

 おかえり~と軽々告げる二人にただいまと返事して、フロシュエルは小影の隣に座った。

 ブエルは中庭を転がっているので放置である。


「今日はどうだった?」


「はい、井手口さん、田辺さんからお金を返して貰いました。コレがその金額です。それとけん太さんから靴を返して貰ったんです!」


「その靴なら野中さん経由で来てたわね。入口に置いて行ったでしょ」


「館内だと落としてまた見つからないかと思いまして、そう言えば回収し忘れてましたね」


「ふふ、さすがフローシュ。おっちょこちょいねー」


 くすりと笑うハニエル。

 茶菓子を食べたその瞬間、ニスロクが現れ茶菓子を追加して去って行く。


「そ、それでですね、その野中さん邸なのですが」


「ん?」


 何かあった? と視線を向けて来る小影とハニエルに、困った顔で一度ブエルを見る。


「実はですね、野中さん邸に一緒に入ったブエルさんが、その……本気で攻略を目指したいそうで……」


「は?」


 意味が分からなかったらしい二人が顔を見合わせる。


「我を虚仮にするような館など軽々攻略できることを見せつけてやらねばならん。これは魔王としての沽券の問題だ」


「えー!?」


「ブエルがやる気になるって……何があったのよ」


「いやー、天井が落下して来るトラップで部屋に閉じ込められまして」


「ああ、あの部屋ね」


 小影は知っていたようで納得したように頷く。

 その話が聞こえていたのだろう、ブエルが怒りに震え出す。


「絶対に攻略してくれるわ!」


「あらら」


「ふふ、ハニエルも折角だし行ってきたらどう? ブエルと二人でどっちが速く攻略できるか勝負でもしてきたら」


「は? なんで私?」


 いきなりの御指名にハニエルが驚く。しかしブエルはそれを良い提案だと思ったようでハニエルを拘束する。


「行くぞ大天使。貴様より早く攻略してくれる!!」


「ええ!? 今から!? ちょ、待って、まだお菓子食べきってな……いやーん」


 そしてハニエルはブエルに拉致されどこかへと走り去って行った。


「うわーお、行っちゃった……」


 天を仰ぐフロシュエルの横で小影がスマホを取り出しどこかに連絡を始める。


「あ、野中さん? 急で悪いんだけど施設起動よろしく。うん、ブエルの奴が再戦するってさー。ハニエル連れてったから対悪魔と天使でよろしく。あいよー」


「あ、一応連絡入れるんですね」


「そりゃそうよ。根回しは大事なのよ。周囲を巻き込み相手を追い詰めながら一つだけの逃げ道を用意してお金を返して貰うの。これは技術の一つよ」


「それ、本当に技術ですか? いえ、まぁ、別にいいですが」


 きっと犯罪すれすれの根回しでお金を回収しまくっているんだろうなぁ。


「さてフロシュエル。折角だし今日は真面目な話をしましょうか?」


「ほえ? 真面目な話、ですか?」


「ええ。丁度ハニエルの監視も無くなったし、貴女の本音を聞いとこうと思ってね。まぁ、と言ってもこれから考えも変わるかもだし、未来は一つじゃないのだから」


「小影さん……?」


 何か、今までのゆったりとした空気で有りながら真剣みを帯びた小影の顔に、フロシュエルは居住まいを正す。


「ん。まぁ簡単に言うとね、試験が終わった後の事を聞きたいの」


「試験の後……ですか?」


「ええ。本来なら貴女は天使試験を受けて天使になる。それがこの先の目標でしょ?」


「はい、まぁそうですけど……」


 それが何か問題あるのだろうか? 小首を傾げるフロシュエルにクスリと笑みを零し小影は告げる。


「別にそれが悪いって訳じゃないわ。あなたも、この現世に来ていろいろ体験して分かったでしょう。天使になるだけが貴女の未来じゃない。堕天使になることもあるし、天使として一生を終えることもある。でも、貴女の実力はすでに大天使級。知識もそのくらいはある筈よ」


「それは……」


「だから、今のうちに先を考えておくことも大事よ。テナー・ピタのように地天使としてこの世界に留まるもよし、ブエルに着いて行って魔界で堕天使として暮らすも良し、あるいは天使として一生ハニエルの下働きするもよし。けれどもし……貴女が何か目標を見付けたのなら……」


 フロシュエルにとって、それは今まで考えてもみなかったことだった。試験を受けて、その先を考えたことなどなかったのだ。

 この日、フロシュエルにとっての新たな分岐点を迎えたことを、彼女はきっと、一生忘れることはないだろう。

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