表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
一日目・共通ルート
14/177

二日目4

本日二話目

 小高い丘の上に立つ洋館へと向かう。

 今日も結局どの人からもお金を返してはもらえなかった。しかし、秘策はある。

 前回は何も対策を立てないままに暗闇で逃げ回っただけだった。でも、今回は違う。

 すでにどのような状態になるかは分かっている。


 そう、ドアは勝手に閉まる新設設計。暗闇の中で何かが迫ってくる音があるだけだ。

 まだ何か変な生物がいるとかは見てない。

 というか、こんな普通の家にそんな危険生物がはびこっている訳も無い。

 ならば、簡単だ。付ければいいのだ。明りを。


 洋館前の野中さんに軽い挨拶をして洋館の中に入る。

 洋館の内部は異常な程暗い。背後で自動的に閉じるドアが完全に動かなくなると、右も左もわからないくらいに暗黒が部屋を支配した。


 さっそくですね。とばかりにふんすっ。とフロシュエルはやる気を見せる。

 神聖技は殆ど使えない。しかし、使えないという訳ではないのだ。攻撃系の神聖技はホーリーアローだけで、ひょろっちい能力ではあるものの、その光を応用した神聖技はフロシュエルでも充分唱えられる魔法である。

 フロシュエルは小さく呪文を唱え、


「ライト」


 右手にふわりと現れたのは小さな光の球だった。

 フロシュエルにとっては唯一まともに発動させられる魔法だ。

 これが出来た時にはこれで天使試験に勝つる。と勘違いしたものだ。今では恥ずかしい黒歴史だ。

 ちなみに使えるようになったのがつい先月というのはフロシュエルだけの秘密である。


「よくよく考えれば私は天使なんですよね。ただただ暗闇を怖がってるだけじゃダメなんです。うん。私、がんばりますよ小影さ……」


 が、目の前で動くそれを見たフロシュエルは、思わず固まってしまった。

 青銅の甲冑が、フロシュエルに向かい歩きだしていたのだ。

 昨日の金属音の正体がわかったものの、目に見える形になっただけの恐怖に、フロシュエルの決意は一気に吹き飛んだ。


 ただただ呆然とその光景に見入る。

 一体の青銅甲冑が重そうな身体を引きずって歩きだしている。

 手には重そうなハルバードを持っている。

 人が着込んで動かしている? いやいや、目の前に見える甲冑の中身はがらんどうだ。


「あ、あの、えと、ひ、人が入ってるんですよね?」


 しかし、青銅の甲冑は答えない。ただただ金属音を響かせ不気味に近づいてくる。

 小人だ。小さい人が動かしてるんだ。

 フロシュエルは怯える自分に言い聞かせる。


「そ、それ以上近づくとホーリーアローを撃ちますよっ」


 左手を向けて威嚇するフロシュエル。

 それでも相手は甲冑は止まらない。

 そればかりか、手にしていたハルバードを持ちあげさらにフロシュエルに近づいてくる。


「ホ、ホーリーアローッ!!」


 光が左手に収束し、それを右手で引き延ばす。矢を射る様に撃ちだす。

 フロシュエルの手から離れた光は一筋の矢となり青銅の甲冑からフルフェイスの兜を弾き飛ばす。

 それでも甲冑は止まらない。頭を失ったまま不気味に近づいてくる。


「ほ、ほ、ホーリーアローッ」


 フロシュエルはさらに光の矢を打ち込んだ。

 左手甲を弾き飛ばしても、右の具足を飛ばしても、空洞の甲冑は動きを止めない。

 むしろ、身体を失いながらも迫りくる姿に恐怖が倍増していた。

 知らず、フロシュエルは背後のドアに背中が当たる。


「こ、来ないでください……」


 身体が震えていた。

 すでに戦意は喪失し、逃げ出したいという思いだけが強くなる。

 ただ、身体はすでに硬直し、逃げ出すことすらできなかった。


「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」


 ガコンッ

 ハルバードが振り落とされる瞬間、タイミング良く床が抜けた。

 一瞬の浮遊感から落下が始まる。

 結果……昨日と同じく池に吐き出されたフロシュエルがいた。


「……私……お金返してもらえる気がしないです……」


 館へ入る時の決意はどこへやら。

 ずぶ濡れのまま岸に辿りつくフロシュエルはへたり込む。

 フロシュエルの気力は尽きてしまっていた。


「ただ今……戻りました」


 浮かない表情で小影の家に帰って来たフロシュエル。

 その顔向けて何かが飛んでくる。


「わぶっ」


 飛んできたのは真っ白なバスタオル。


「ほら、寒いでしょ、風呂沸いてるから入っといで」


「……はい」


 促されるまま風呂場へと向かう。

 別に入る必要はなかったが、せっかく薦められたので入ることにした。

 服を脱ぎ捨て風呂場に入る。


 すると、温かな熱気と湯気が頬をなぶった。

 室内はそれほど広い訳じゃない。

 人一人が入る分には申し分ないが、二人入るとちょっと狭苦しい。そんな風呂場だ。


 湯船に浸かると不思議なほどに辛い気分が拡散していった。

 なんとなく、幸せな気分がやってくる。

 また頑張ろうという気になってくる。


「お風呂って……好きかもしれないです」


 こんなに心地よい気分になれるなら、ずっと入っていたい。

 そんなことを思いながら、頭の中は次第真っ白になっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ