二十二日目10
「初めましてぇ~野中の娘でっす」
きゃぴっとばかりにピースサインを裏返して額に当てて見せる人形。もとい野中さんの娘さん。
どうやらこの部屋に普通に住んでいる正真正銘野中さんの娘さんらしい。
今回人形みたいにしていたのはフロシュエルを脅かすために参加したからだそうだ。
「可愛いでしょこの服。お気に入りなの」
「は、はぁ……」
「そういえばお姉ちゃんがフロシュエルさんの驚いた顔可愛かったって言ってたよ」
「お姉……まさか前回の背後に居た女の人って……」
「うん、お姉ちゃんだと思う。凄いノリノリで参加してたしぃ」
「ククク、天使見習いよ、貴様は人間に驚いて気絶したのだな」
事実に気付かされると恥ずかしさで赤面してしまうフロシュエル。
穴があれば入りたい気分だった。
ただし、この近辺の穴などに入ったら恐怖のオンパレードなので止めておく。
「えーっと、つまり野中さんの御家族が普通に参加していらっしゃる?」
「うん。楽しそうだから。もともとこの家、お父さんが洋館と言えば超常現象だろっていう訳わかんないコンセプトで作られたんだけどね。家族には受け入れられなくって。これはこれで面白いのにねー。お母さんは気持ち悪いっ、こんなところ居たくないって出てっちゃって」
「うわーお」
野中さんは洋館好きでようやく土地を買い取ったというか、この洋館を建てた際に、自分好みのギミック満載洋館にしてしまったそうだ。
その為エントランス部分には動く鎧があり、娘たちの部屋は幽霊屋敷みたいになっている。
他にもいろいろギミック満載らしく、フロシュエルの強化に丁度良いやってことで今回小影にお願いされたそうだ。
野中さんはそれはもう嬉々とした様子でこれに了承し、娘にも参加強要させたそうだ。
姉は当初こそ乗り気じゃなかったそうだが、動く鎧相手に気絶するフロシュエルを見てだんだんやる気になったらしい。
そして妹の彼女はずうっと部屋でフロシュエルを待っていたそうだ。
やること無いからスマホ片手に待ってたんだと。
「やる気ないな小娘」
「だって私の役割ここに来たら脅かすだけだもん。暇っしょ?」
「それは確かに」
「んじゃ。とりあえずもうイベント終了ってことで次の用意しよっかな」
「え? まだ何かイベントが?」
「また脅かしに出るからよろしくー」
ケタケタ笑いながらお人形さんが部屋を出て行く。
どうやら鍵を持っていると言う訳ではないらしい。
「ふむ。この部屋にはなさそうだな」
「うそーん」
なんだったんだ。フロシュエルは落胆する。が、よくよく考えれば彼女の御蔭でこの家には幽霊は存在せず、幽霊に扮した野中さんの娘さんが二人は居る事が分かった。
「まぁ、なんとかなりそうですね」
「はてさて、上手くいけばいいがな」
「フラグ立てないでください」
ブエルと共にフロシュエルは部屋を出る。
まだ探索していない部屋は二つだ。
まずは手身近な部屋へと入る。
「また、なんとも言えない場所ですね」
「あからさまな宝箱が一つ。それ以外は何もなし、か」
「絶対アウトな箱だと思われます」
「びっくり箱が妥当だろうな」
「ミミックという可能性もありますね」
そーっと宝箱の背後に回る。
ブエルを手招きして宝箱の前に。
やれやれだ。と呆れたブエルを放置して、背後から宝箱を開ける。
刹那、勢いよく宝箱が開かれ、フロシュエルの鼻面を上蓋が直撃した。
「うきゃきゃきゃきゃ、ぎゃあ――――っ!!?」
勢いよく飛び出したミミック、もといおそらく野中の娘さん、姉さんの方だと思われる長い髪の女性は、目の前に居たブエルを見て絶叫。そのままバタリと倒れてしまった。
フロシュエルを脅かす予定だった彼女はブエルの容姿をみて自分が驚いてしまったようだ。
後にはどうしたらいいのか戸惑うブエルと、鼻面押さえて転がりまわるフロシュエルだけが残された。
自業自得とはこのことか、上手く回避したつもりのフロシュエルは思わぬ反撃を喰らい己が思いつきを後悔するのであった。
「あははははは。何コレ、ワロス」
そこにお人形がやって来て腹抱えて笑いだす。
「お前の姉だろう」
「調子に乗り過ぎたのよ。あーおかしい。お姉ちゃんには良い薬だったわ。そして、ぶふっ。フロシュエル、あんた楽しいわね。それサイコーッ」
ケタケタと指差して笑う野中妹。鼻面押さえて涙目のフロシュエルは何の反論も出来ずにのたうちまわるだけだった。
「いやー、笑った笑った。お姉ちゃん回収しまーす」
どうやら気絶した姉を回収しに来ただけらしい。フロシュエル達を放置して姉を背負った妹は、そのまま部屋を出て行った。
「お、宝箱の中に鍵があるぞ天使見習い」
「い、一応宝箱としての役割は果たしていたのですね……」
涙目で立ち上がるフロシュエル。まだ鼻が赤かったのはブエルが指摘する事は無かった。