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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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二十二日目6

「ぱぐっ」


 ごろごろと転がったフロシュエルはレウコの足にぶつかって呻く。


「むぅ。痛いぞ小娘」


「うぅ、今のは酷い……私の方が痛いですよぉ」


「オブザーバーに被害を出すな馬鹿者め」


 立ち上がろうとした尻をげしっと蹴りつけられてフロシュエルが再び突っ伏す。きゃいんと突っ伏したフロシュエルが立ち上がった時には、既にけん太が首輪の鎖を引き抜き臨戦態勢になっていた。


「う、うわーお」


「これは凄い。先制攻撃を受けた相手が立て直すのを待ってくれていたらしい」


「まず先制攻撃をしないで貰えてればもっと嬉しかったですけどねっ」


「だが実際の戦闘であれば体勢を整える前にお前は頸動脈を噛みちぎられていてもおかしくなかったぞ」


「……そ、それは……」


 別に慢心していた訳じゃ無かった。警戒をしていなかった訳でもなかった。

 皆の会話に注意していたために、そしてまだ闘いは始まっていないだろうと勝手に思っていたために先制攻撃を許してしまったのだ。

 いつも周囲に気を配ってさえいれば防げたかもしれない一撃だったのは否定できない。


「うぅ、けん太さんもまた訓練の一つというわけですか。ええい、そういうことならっ」


「ああ、そうだ。折角だフロシュエルよ」


「ほえ? なんですレウコさん?」


 いざ戦闘開始。の直前レウコが寸止める。


「うむ。折角だ、相手は犬っころ、攻撃手段は肉弾戦のみと行こうではないか」


「へ? え? えええええっ!?」


「どうせ訓練なのだろう? ならば天使能力が一切使えなくなった想定で倒してみせろ」


「無茶振り!?」


 しかしフロシュエルのことなど気にはしないと、相手が戦闘態勢になった瞬間突っ込んでくるけん太。

 今度は話をしながらも警戒していたのでぎりぎりで避ける。


「おっと、私に攻撃があたるではないか」


 半歩避けるレウコ。

 そのすぐ横をけん太が通り過ぎる。

 地面に着地すると同時に再びフロシュエルへと走るけん太。

 ステップを踏んで集中する。


 龍華の攻撃を回避することに比べれば楽ではある。

 しかし気を抜けない攻撃なのは確かで、的確に狙われている急所を守りながら徒手空拳で対応する。

 ここで生きたのは昨日までに対応していた完全との闘いだ。

 自分の攻撃を悉く投げ技で返して来た完全の動きをコピーするように近づいて来たけん太を投げ飛ばす。

 しかしすぐに身体を捻って着地するけん太。どれ程投げようとも反応して身体を捻る。


「くはぁ、私が面白いぐらい投げられたのに、初見で破りますか!?」


 自分がやられた行為が簡単に避けられるのを見るとやるせない気持ちになる。

 しかし、これはこれで糧になる。

 自分が投げられた時に彼と同じような動きをすれば投げられた後も反撃が可能になるのだ。

 だから、フロシュエルは必死に相手の動きを見て覚える。


 対戦相手は先生だ。

 自分の攻撃に対する対応方法、自分の動きを封じるやり方、反撃、迎撃、受け流し、あらゆる行動が今後の自分の為になる。

 だからフロシュエルはけん太の闘い方を見る。

 相手が犬だと慢心はしない。

 相手の強さは気にしない。相手の経験に注視する。


「これならっ!」


「ギャウッ!」


 甘い、とばかりに投げ飛ばし途中で回転。

 フロシュエルの腕を無理矢理引きはがし、空中に投げだされたけん太が尻尾でフロシュエルの頭をはたく。


「あ痛」


 思わず声が出た。

 その言葉を吐いた時間でけん太は地を蹴りフロシュエルの喉元を狙う。

 大きく開かれた口からよだれが零れる。


「く、のぉっ」


 体勢が崩れていたフロシュエルは膝を自ら折って体勢をさらに崩す。

 地面に倒れる瞬間両手を付いて地を蹴る。


「おお、ブレイクダンス!?」


「この前駅前に行った時覚えました!」


 突撃して来たけん太は目標を失い空を噛む。

 落下した場所にフロシュエルの足が襲いかかり腹を直撃した。

 ぎゃんっと呻きを洩らし壁に激突。

 地面に落下すると同時によろめきながら立ち上がる。


「ど、どうですかけん太さん! 降参するなら今の……ええええええ!?」


 今のうち。そう告げようとしたフロシュエルの目の前で、けん太が真っ二つに割れる。

 ビキビキビキと被った皮を引き裂いて、三つ首の魔獣がその正体を露わした。


「ふむ。本気になったな」


「ちょ、地獄の番犬素手でとか無理なんですけど!?」


「ヘラクレスはやった筈だ。いけるって」


「いやいやいや、寝てましたよねケルベロス!?」


 けん太ことケルベロスが走りだす。

 先ほどとは違い、走るだけで周囲から空気が悲鳴を漏らす。

 庭先だったために窓ガラスがびりびりと振るえ、洗濯物が激しく揺れた。


「ガアァァァァッ」


「ギャーッス!?」


 慌てて魔法障壁を張るフロシュエル。


「あ、こらフロシュエル、魔法使うなと言っただろ」


「無理に決まってるでしょう!? どれだけSなんですかレウコさんっ」


 ガンっと障壁にぶつかったケルベロス。

 忌々しげに前足で障壁をがりがりと削りだす。


「ひえぇ!? 実際に見たケルベロス恐い。魔王並みに恐いっ」


「魔王並み……天使見習い、我も魔王……」


 ブエル並みに恐いケルベロスなど全く怖くない。そんな事を思うフロシュエルだったが、次の魔法を唱えるのが忙しくて言葉には出さない。


「フローズンバイン」


「ガァ!」


 氷で相手の動きを止めようとしたフロシュエル。

 打ち出した氷魔法は、ケルベロスのファイアブレスにより魔法としての形を成すより早く潰された。

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