二十一日目8
「ブエルクンや」
「な、何でございましょう?」
「どうなってんの? アレって本当に天使見習い? 大天使とか天使長じゃなくて?」
「え、ええ。次の二次試験に失敗すれば抹消される見習いのはず……です」
「……あの実力で受からなかったら天使共はクソ以下の集まりになるぞ……というかマジで部下になってくんないかな」
「正直、あの者は単独で魔王と闘える、いえ、並みの魔王であれば斃されるやもしれませんな」
一撃で百体近い魔物の群れを撃破したフロシュエルがぴょんこぴょんこ飛び跳ねてやりましたっ。と叫んでいる。
「いやー、初めにあった時もそれなりに強いとは思ったけど……成長著しいな」
「まったく、教えがいのある天使です」
「……ん? ふふ。ブエルよ。今の言葉本心からか。随分と毒されたな」
「毒される? どういうことです?」
ブエルが小首を傾げるのを見てロストはふふっと笑みを浮かべる。
「いや、分かっていないなら今はいいさ。だが、血迷うなよブエル。お前はどこまで行っても魔王であることをやめられん」
「理解しておりますとも。天使は敵。敵対したならば我は……」
「そういう意味じゃなくてね……いや、まぁ、いいか」
さて次はどうしよう?
ロストはうーんと考える。
「流石にこれ以上の強さとなると魔王クラスでないと闘えないよなぁ」
「嫌です」
呟くロストにブエルが先行して拒否を訴える。
「だろうねぇ。仕方無い。少し、揉んであげよう」
喜んでいるフロシュエルの元へと歩いて行くロスト。
ブエルは思わず目を見開く。
まさか自分から行くとは思っていなかったようだ。
「よくやったフロシュエル君」
「あ、はい。ありがとうございます」
「次は全力で来たまえ。下手に出し惜しみすると死ぬからね」
「……はい?」
「魔統王ロストが次の対戦相手だ。行くよ?」
「へ? え? えええええええええええええええええ!?」
驚くフロシュエルに飛びかかるロスト、驚きながらも突き出された腕を引っ掴み投げ飛ばしながら蹴りを叩き込むフロシュエルに、驚きつつもガードするロスト。
蹴りを受け止め投げつけられた地面に受け身を取って転がる。
「こっちはかなり力を調整してるんだ。この程度の僕に負けないでくれよ天使君」
「ら、ラスボスが次の相手とか、ちょっと心の準備が」
「いい機会だろう天使見習い。ロスト様が直々に闘って下さるのだ、ありがたく闘っておけ。どうせ全力を出しても勝てんしな」
「わ。分かりましたブエルさん、全力で、行きます」
もやぁっと立ち上る緑の闘気にロストはうわぁっと冷や汗を流す。
「うん。アビス系なんとかとかいうのはちょっと禁止で」
「えええっ!?」
「ソレ、多分異次元系能力入ってるから撃退するには君を殺すつもりでやらないと。今回は試合だからね、お互いに殺せる能力は封印でやろう、うん、それがいい」
「は、はぁ……」
一応、深淵装甲や深淵系の魔法ならばロストにも効果があるらしいことを理解したフロシュエルだが、確かに今回殺し合いではないので素直に頷く。
そんな聞き訳のいいフロシュエルに安堵して、ロストは立ち上がった。
危なかった。いろんな意味で。
深淵系魔法は確かにロストに有効だ。だがそれだけに手加減など考えずに潰さざるをえなくなる。もしもそれ系の魔法を使った闘いがあるとすれば、ロストとフロシュエル。どちらかが死ぬことを前提とした本当の意味での死合となるだろう。
「マリスフェザー」
「凄い、百機近い悪意の羽根が……」
「まずは小手調べ、行くよ天使君」
球体状の暗黒に翼が生えた闇の魔法が動き出す。
無数に迫るマリスフェザーにフロシュエルは弓を引き絞るように神聖技を使用した。
「ホーリーアロー・スプレッド」
マリスフェザー全てに等しく降り注ぐ光の矢。
魔法同士がぶつかり合い対消滅を始める。
「あはは。凄い凄い。ならば、一点突破。悪魔の咆光」
掌から噴きでた黒光の一撃。
フロシュエルは真正面からそいつに向かって手を突きだす。
「ホーリー・アローEX」
極太のホーリーアローが放たれる。
それはただのホーリーアローではない。
インフレーションホーリーアローの改造版であり、周囲の魔素を吸収しながらさらに強固になって敵を撃ち滅ぼすフロシュエル渾身の一撃だ。
そんな攻撃とは知りもしないロストはどう打ち破ってくれるかとワクワクしながら魔法が放たれるのを待っていた。
最初はただデカいだけのホーリーアローかと思ったのだ。
悪魔の咆光に当った瞬間捻じれるように回転して魔法をかき乱しながら中央へとめり込んでいく。
ただ一点突破するだけか? と思ったが違う。
ホーリーアローEXが周囲の魔素、悪魔の咆光を取り込みながら光の魔法に変換し、ロストへと向かって来る。
「え? ちょ、ま……」
まさか自分の放った魔法を属性変化させたうえに数倍にして跳ね返して来るとは思っておらず焦るロストへとまともに直撃した。