二十一日目7
「さて、そろそろ帰るか」
「明日は試験の試験やっちゃいますよ」
「つまり、集まる必要は無いってことね。了解」
本日の修行も終わり、フロシュエルは完全と別れる。
ピクシニーも用事があるそうでそのまま別れ、フロシュエルとブエルはいつものコンビニへと向かった。
既に来ていたロストが18禁コーナーで立ち読みしていた。
「うわーお」
「ん? ああ、もうそんな時間か。やぁ天使君。ブエルも。今日も実践演習でいいのかな?」
「はい! お願いします!!」
読んでいた本は見なかったことにして告げたフロシュエルに、ロストは本を閉じて情報誌コーナーへと戻す。
なぜわざわざそっちのコーナーで立ち読みしていたのか、気にはなったが指摘するほどでもなかったので放置。ロストを先頭にしてフロシュエルたちは学校の校庭へと向かうのだった。
「さて、今日はどうしようかなぁ」
ロストはうーんと唸り、ぽんっと手を叩く。
「よーしいでよ魔王ヘイムダル」
「ちょ!?」
「ロスト様、魔王を呼ぶのはっ!?」
ロストの言葉に焦るブエルとフロシュエル。
「なーんちゃってっ」
しかし本当に呼ぶつもりは無かったらしいロストはクスッと笑い、その背後から魔物が出現する。
「こ、これは……」
「キリングローパー。いやー、ついさっき触手プレイモノ見てて、ちょっとやってみようかと」
「いやいやいやっ、私で試さないでくださいっ!?」
「天使見習いッ!」
思わず叫んだフロシュエルにブエルが叫ぶ。
はっと気付いた時にはローパーの触手がフロシュエルの胴体に巻き付いたところだった。
「き、きゃああああああああああ!?」
ぐんっと引っ張られたフロシュエルがローパーへと引き寄せられる。
「天使見習い全力で応戦しろッ! パニックになってる暇は無いぞ!」
「そ、そんなこと言われてもっ!?」
「安心してよ。殺さないように加減するように言っといたし」
「何を言っている魔統王! 見習い天使の貞操は無事に済むのだろうな!?」
「え?」
ロストの声が止まる。
冷や汗がだらだらと出始めたことでブエルは事態を察した。
「天使見習いっ、全力だッ、持てる力の全てを使って防衛しろ! すぐに助けるっ」
ブエルは走る。ホイール走行に入ったブエルが高速で走った瞬間だった。
「このっ、そういうのはお断りですっ!!」
フロシュエルの全身から緑の闘気が立ち上る。
深淵装甲だ。発動と同時にローパーの触手がボロリと崩壊して消え去った。
悲鳴をあげたローパーが逃げようとするが、今度はフロシュエル自ら拳を握り飛翔する。
「天使之制裁――――ッ」
逃しはしないと接敵と同時に緑の闘気を纏わせた拳で一撃必殺。
深淵の一撃を受けたローパーが一瞬で消し飛び消失した。
「うそーん……」
「助けるまでもなかった……か」
予定していた状況にはならず大口開けて唖然としているロスト。
ブエルは胸をなでおろし、フロシュエルに大事が無かったことに安堵する。
ふと、自分は何故天使相手に安堵しているのかと思ったが、すぐに被りを振るって思考のゴミ箱に投げ捨てた。
「こ、恐かった。なんか初めて感じた類の恐怖感がありました……」
「くっ、馬鹿な、一瞬で撃破されただと!? かなり強力な魔物だったんだぞ!?」
忌々しげに叫ぶロスト。ちょっとだけでもエロ展開を期待した大魔王様の野望は見習い天使により見事打ち砕かれたのであった。
「ロストさんっ、こういうのは今後止めてください! ハニエル様に報告しますよ!」
「むぅ、別に構わないっちゃ構わないんだけどそれを期に天界が動くとマズいしなぁ。了解、止めておくよ」
残念。とばかりに両手をあげたロスト。
まったくと言っていいほどに反省してる顔ではないが、今後は一切エロ系魔物は呼び出さないという確約は手に入れた。
ブエルも一緒に説得に加わったので案外早くロストが根をあげたのだ。
「残念だよ。非常に残念だ、と言う訳で魔界の猟犬アローシザーズを群れでお相手してみよう」
「おお、団体戦ですか!?」
「天使見習いよ、装甲無しのアビス系統無しで対応して見ろ」
「ええ!?」
「アレは必殺として取っておけ」
必殺と聞いてマンガを思いだす。必殺技は追い詰められた時、あるいはトドメに使うものという謎の様式美に辿りついたフロシュエルは仕方ありませんねぇと頷く。
「了解しました。それではホーリーアローでやってみます」
しかし、ブエルは甘く見過ぎていたことに気付いていなかった。
ロストはそもそも考えにも及ばなかった。
「ホーリーアロースプレッド!」
まさか最初の一撃が広範囲殲滅魔法であり、召喚されたアローシザーズという良く分からない四足動物が次々と光に打ち抜かれて殲滅されるという現象が繰り広げられることなど、彼らの想像を軽く超えてしまっていたのだ。