二十一日目6
「これは酷い」
ブエルもピクシニーも地面や木々を消失させたフロシュエルの一撃を見て唖然としていた。
正直ここまで酷いスキルに昇華するとは想定していなかったのだ。
「危なかったわ。咄嗟に点穴からずらしたけど、危うくフローシュを殺すところだった」
「そっちのしんぱい!?」
「……っは!? 意識飛んでました!?」
気付いたフロシュエルが周囲を見回す。
ところどころぼろぼろになった景観を見て呆然とする。
「え? 何この穴の群れ?」
「お前の魔法だフローシュ」
「ふむ。七色の光が拡散して襲いかかる拳か。七色拡拳といったところかな」
「ちょっ!? なんですかその廚二病的な名前!?」
「あはは。まーそれでいいんじゃない」
「いやぁー、なんか凄く痛い人みたいじゃないですかぁっ」
「天使だし問題は無いだろう。基本戦闘中だ。真顔で告げれば誰も笑ったりはせんよ」
「それでも嫌ぁーっ」
新たな魔法はキラキラネームに決まった。
フロシュエル自身が認めなくとも、この場の全員が七色拡拳が七色拡拳であることを認識してしまった。
もはやフロシュエル一人がどれ程嫌だと言ってもスキル名は決まったようなものだった。
「しかし、ふろーしゅはすごいね」
「ああ。ちょっと提案しただけで新スキルを開発してしまうからな」
「魔王としては魔術の創作意欲が刺激されて楽しいがな。天使見習いよ。本当に、堕天したら、否、堕天していなくともいい。我が腹心にならんか? 下手な指令で他の天使に足を引っ張られ死ぬこともないし、天使試験とやらに落ちて消失させられることも無い。我が側で新たな魔法を創作する以外は好きにしていいという生活だ。もちろん望むものも与えてやるぞ?」
「おいおい、魔王が天使見習いを引き込もうとしないでくれ。一応聖にこいつを頼むと託された私の前でそう言うのはいただけんな」
やんわり窘める完全にむぅ、仕方無いな。というブエル。
魔王自らスカウトして来たので悪い気はしないのだが、フロシュエルとしては敵対者である魔族の手下になる気がして頷ける訳が無い話であった。
小物であるとはいえれっきとした天使の一員なのだ。ここは強く辞退して自分は天使側の存在であることをしっかりと告げておかなければならない。
「そういえばふろーしゅ」
「はい。なんでしょう?」
「ぼうぎょとこうげきはいいけど、ほじょけいまほうはやってる?」
「補助……?」
「ああ。そう言えばそちらは手つかずだな。攻撃強化に防御強化、速度強化、状態異常解除に耐性上昇か」
ブエルが感心したように告げる。報告したピクシニーはえっへんと胸を張り、それを見たブエルがおおっと謎の感嘆を漏らした。
「ふむ、それならば洞窟探査用の光やら夜間移動に適した視界の確保なども考えた方がいいぞ。気配遮断の魔法があればなお良しだ。暗殺者としてやっていける」
「私天使なんですが!? 暗殺してどうするんですか!?」
「うん? 大魔王相手に天使は一人で勝つことが難しいのではなかった? それなら暗殺は一つの手段よ。あなたなら立派な暗殺天使になれるわ」
「一子相伝暗殺拳天使か」
「だから廚二病じゃありませんっ!?」
しかしながら補助魔法に付いてはフロシュエルも覚えておきたいようで、ブエルとピクシニーから様々な魔法を習って行く。
完全もすぐ隣で魔力を感じる練習から始めており、持ち前の天才肌の才能を早々に開花させていた。
なぜだかすぐ背後から完全が迫ってくるような感覚を受け、謎の焦燥感にかられるフロシュエルはピクシニーに魔法を教わりながらもちらちらとブエルに概念を襲わっている完全に意識を向けていた。
「ほら、ふろーしゅ、よそみしない」
「で、ですがピクシニーさん」
「よそはよそ、うちはうち」
「はいっ」
意味は分からなかったが何故だか返事をしてしまうフロシュエル。思わず姿勢を正していた。
「じゃあほじょまほーいってみよー。まずはまりょくのじょうとから」
「トランスファーでしたっけ」
「ん。できたらそのまりょくをうばうまほうね」
「トランスファーとアブソーブ。ちょっと面倒ですけどできそうです」
まずはピクシニーに魔力を受け渡す。
「ごふっ。ふろーしゅおおい……」
「わわ、あ、アブソーブ!」
「げはっ!? ふろーしゅとりすぎ……」
へなへなと地面に落下するピクシニー。取り過ぎたと慌ててトランスファーを唱えると、譲渡し過ぎたようで、血反吐を吐くピクシニー。慌ててアブソーブすれば取り過ぎた魔力に魔力欠乏が起きたピクシニーがへたり込む。
「そろそろやめとけ。ピクシニー嬢が死んでしまう」
トランスファーをもう一度唱えようとしたフロシュエルをブエルが寸前で止めた。
もう、フロシュエルの実験台にはならない。ピクシニーは心に堅く誓うのだった。




