二十一日目5
「おおー。これは凄いです」
天使之制裁を覚えたフロシュエルはその御蔭でコツを掴んだようで各種属性魔法を身体に纏う方法を覚えることに成功した。
今はブエルの指導の元、各種属性を別々の箇所に付与する術を練習中だった。
「はー。ふろーしゅすごい……」
「この才能は確かに、私も天才的とよく言われたが、フローシュは魔法のスペシャリストだな」
「や、やだなぁ完全さん。そんなに褒めないでください」
照れるフロシュエルの身体には、右腕に炎、左腕に氷、右足に地、左足に風の属性を纏わせていた。
これで完全との模擬戦。
左足で地を蹴ることで風の力で大ジャンプ。
からの右足に凶悪な硬度の岩石くっつけてフロシュエルキック。
半歩右に避けることで軽々避けた完全。
反撃に移ろうとした瞬間、フロシュエルは空気を左足で蹴りつけ軌道変更。
右手で掴みかかって来たので身体を捻ってやり過ごす。
しかし、残った髪がフロシュエルの左腕に触れて凍りつく。
「くぅっ。さっきより厄介なったじゃないか!?」
「ぬっふっふ。これは完全さんを撃破するのも近いかもしれませ……んべっ!?」
得意げに告げたフロシュエル。魔法を纏っていなかった二の腕を掴まれ地面に顔面から落される。
「あ、あうぅ……」
「ふむ。投げ技への対処を覚えるまでは勝てそうにないな」
「あはは。がんばれふろーしゅ」
「うぅ、また遠のいた気がします」
「いやいや、充分過ぎる成長だ。まだ私が対処可能というだけで、そろそろきつくなって来たのは確かだな。これより先はフローシュも死を覚悟してくれ。勢い余って殺しかねん」
まさかの殺害宣言にひぃっと呻くフロシュエル。
完全としても流石にそろそろ手加減をする余裕が無くなって来たのだ。
そうなると全力で迎え撃つことになり、うっかり暗殺拳を急所に叩き込んでしまいかねない。
暗殺拳は修行中に弟子が死にかねない危険を多分に含んでいるのだ。
「じょ、冗談に聞こえないんですが……」
「冗談ではないさ。こちらも手加減が出来なくなるということはそれだけ実力が拮抗し始めているということさ」
喜ばしいことではあるが素直に喜べないフロシュエルだった。
「ふむ。各所に各属性魔法を付与させる方法はできたが、もう一捻り欲しいな」
「んー。だったらいっかしょにかくぞくせいとか、どう?」
「ふむ。一か所に? できるか天使見習い?」
「一か所にですか……じゃあとりあえず相性の良さそうな炎と風でやってみましょうか」
ピクシニーの考えに同意したブエルに尋ねられ、フロシュエルが考える。
まずは火炎魔法を右腕に。そしてそこに風魔法を重ねる。
「うーん。これは途中で融合したな」
「別々にはできないの?」
「えーっと……」
正直難しいとしか言いようがない。
一所に纏めようとするとこうなってしまうのだ。
「ふむ。それならば別に一カ所に集める必要はないのではないか?」
「完全さん?」
「虹を見たことはあるかフローシュ?」
「いえ、見たことはありませんけど本でどういうものかは知ってます」
「まぁ、見た目とかは別としてだ、色分けされて見えるアレのように、各属性を線にして放射してみてはどうだ?」
「線、ですか?」
「うむ。いくつもの線を束ねる感じというかな、要するに合わさりきらないようにこんな感じに……」
と木の棒を使って地面に線を数本、殆ど隙間なく引いて行く。
その行為を見ていたフロシュエルは、ぴかーっと頭に豆電灯が灯る気がした。
「なんか、行けそうな気がします」
右手を真上に掲げ、フロシュエルは目を閉じる。
深い集中で魔力を練り上げる。
すると、炎が右手い生まれた。
それは細く、細く変化すると、拳の側面を舐めるように移動し、放射状に右手を取り巻く。
さらに氷、風、地、光、闇、雷と各属性が掌に出現しては線に圧縮され右手を取り巻く魔法の群れに仲間入りしていく。
七色の光に包まれた拳を握り、フロシュエルが目を開く。
回転を始める七色。拳を取り巻きまさに七属性を持つ拳が完成した。
「行きますよ完全さん!」
「え? ちょっとまっ」
油断していた完全が慌てるが、既に攻撃する気満々なフロシュエルは気付かなかった。
「せいやぁ!」
思い切り完全に飛び込み、拳を振り抜く。
当然のようにバックステップする完全。振り抜かれた拳が物凄いヤバい感じに螺旋を描く光を拡散させ始めたのに気付き、バックステップ中に上半身を倒して地面に手を付く。
拡散しながら放たれた各属性魔法をぎりぎり回避し、バク転の要領でフロシュエルの顎を膝で打ち抜く。
「ほぐっ!?」
ぎりぎり無傷で生還した完全がなんとかバク転を終えて足で着地した瞬間周囲に視線を走らすと、その周囲にはフロシュエルの魔法が拡散したために酷い状況になった光景が広がっていた。