二十日目10
「では、本日の魔力訓練は常時魔力消費の方法を伝えよう」
「は、はぁ……」
食事時の話から派生し、今回の魔力訓練はハニエル、ブエルによる常時消費訓練である。
普通常時から魔力を消費していたら急襲されたりなどした時魔力不足で危険なのではないかと思うのだが、そういうのとは違うらしい。
「魔王種になると魔力飽和が危険でな。常時魔力回復量がケタ違いなため、むしろ消費していかねば直ぐに魔力飽和で闘えなくなるのだ」
「天使も一緒よ~。聖力飽和になると何もしたくなくなっちゃうのよね」
というわけで。とハニエルとブエルが同時に魔力を放出して見せる。
「これが魔王の魔力放出」
「こっちは天使の聖力放出」
違いを見ながらフロシュエルにやってみせろということらしい。
フロシュエルは二人の扱う魔力、聖力の流れを見ながらふむと首を傾げる。
「あの、魔力と聖力の放出の仕方、一緒な気がします」
「みたいだねー」
ついでに居残っていたピクシニーがむむむと唸る。
「んー。そうでもないわよ? ちゃーんと違いがあるじゃない」
「ほぅ、人間の方が優秀ですな」
「ぬぅ、おのれこかげぇぇぇ」
ニスロクの指摘にピクシニーが悔しげに呻く。
小影は緑茶をずずっと飲みながらぷはぁと幸福の吐息を漏らす。
「小影さん分かったんですか?」
「放出の所よーく見ときなさい。多分フローシュでもわかるわよ」
「でも、とかいわれてるよフローシュ」
むかっとしたピクシニーが見極めてやるとばかりに目を見開く。
「じゃあもう一度行くわよ~」
「ふむ。ではハニエルが最初、次に我でやってみるか。時間差の方が見易かろう」
「あ、ではお願いします」
ハニエルが聖力を放出、次にブエルが魔力を放出する。
「あっ。そうか!」
「おお、わたしもわかった!」
フロシュエルもピクシニーも直ぐに理解した。
「魔力は全身から一気にでますよね」
「せーりょくはぜんしんからゆったりだね」
「多分ですけど、聖力と魔力の違いがなんとなくわかった気がします。ゆっくりした魔力放出といった感じですか? 優しい気がします」
「んー、まぁそんな感じかな?」
「もともと聖力と魔力は一緒みたいなもんでしょ。私も聖力使ったつもりが魔力だったりするし。難しいのよね神聖技って」
「小影ちゃんの場合愛とか正義とかより金でしょう。あの即死属性付きの魔力だかなんだか分からない能力私たちじゃ使えないしぃ」
「ちょ、アレはただ愛の代わりに金を思って魔力放出しただけだし」
「折角だ聖戦士、その能力も見せてやったらどうだ。フローシュの能力アップに使えるのではないか?」
「えー。めんどいんだけどなぁ」
しゃーない。と立ち上がる小影。
庭にやってくるとルミナスナイトへと変身し、金、金、金と念じ出す。
途端彼女の体から放出される聖力魔力とは程遠いどす黒い謎の力。
「な、何ですかコレ?」
「どうも即死属性の魔力みたいなんだけど……」
「魔族にも有効な魔力とか我は知らんぞ? これは本当に魔力か?」
「メルトの話じゃ自分の眷族が魔力と混ざり合って放出してるんじゃないかと」
なんだそれは? 初耳だぞ? とブエルが戸惑う。
「まぁ、要するに、これは小影ちゃん専用能力って訳だからフローシュちゃんにはちょっと無理かなぁ?」
「いえ。ですがなんかヒントになりました。ちょっと独自にやってみますね」
即死属性を付ける。それだけならばフロシュエルにも方法はある。
「ブラックホールアーマー」
「へ?」
「そして魔力放出」
「うわぁ……」
「ホワイトホールアーマーを外側に薄く展開して……どうですか!?」
「なんか、見えない筈の魔力放出が緑色に見えてるんだけど……」
「これは……中級魔族ですら触れれば死にかねませんな。なんですかこれは?」
小影の呆れた声にニスロクも同意する。
「えーっとですね。ホーリーアローをブラックホールに放り込むと捻じれた矢になるので、魔力を放り込んでから取り出したら即死属性っぽいの付かないかなって」
「もはや聖力でも魔力でもないわね。何かしらこれ?」
「我も初めて見るぞ。貴様本当に天使か?」
ブエルに失礼なことを言われた気がするが、気にせず魔力放出を続けて行く。
「んー。何かもったいないですね」
「そればっかりはね。でも常時魔力回復力の方が上回るから仕方ないわ」
「この放出した魔力が瘴気に、天使の放出した聖力が聖気になる訳だ」
「なるほど……じゃあ私のコレや小影さんのアレは何の気になるのでしょう?」
「どくきでいいんじゃない?」
「毒っ!? 酷い」
しかし、ピクシニーの言葉もあながち間違いではないらしい。フロシュエルや小影の足元にあった草達が次第枯れ始めていたからだ。