二十日目6
フロシュエルはピクシニーとニスロク、そしてウコバク達四体を引き連れ自宅へと向かった。
途中地面に埋まって泣いていたウコバクを発見したので、これを回収。
なぜこんな所に埋まっていた? とニスロクに問われたウコバクは、妖精という素材を手に入れたから食事に一味加えようとして反撃にあったと報告。
そうか、ピクシニーは食べられる寸前だったのか。なぜ拉致されたのか理解したフロシュエルとピクシニーは思わず肝を冷やしたのだった。
「外に出たのは初めてだが、コレが人間界か」
ニスロクが物珍しげに周囲を見回しながら歩く。
折角だから挨拶が終わった後は彼の道案内をしてみようか? 休日なので時間の有り余っているフロシュエルはそんなことを考える。
「ただいまー」
「むぁ? おはえりフローシュ」
丁度煎餅咥えてお腹を掻きながら部屋から出て来たハニエルがトイレ向けて歩いているところで、フロシュエル達を見て立ちつくす。
「ほぉ、これはまた……大天使か?」
「だめにーとじゃない?」
ハニエルの姿を見て腕組みして唸るニスロク。そしてあまりの自堕落ぶりに思わず噴き出し嗤い始めるピクシニー。
ハニエルはまさかフロシュエルが他人を連れ帰ってくるとは思いもよらず、痴態を見られて呆然としていた。
「は、ハニエル一生の不覚ッ!?」
慌ててトイレに逃げ込むハニエル。
「な、なんなの、なんなのっ!?」
「あ、ははは。ハニエル様、ブエルさんどこです?」
「魔王なんて知らない、知らないわよっ、コンビニからは帰って来てるから庭じゃないの!?」
これ以上ここに居るとハニエルが可哀想に思えたフロシュエルは言われた庭へと向かってみる。
丁度ブエルが夜の魔法訓練用の巻き藁を作成しているところだった。どうやら本日は手作りというか足作りのようだ。
「ブエルさん何してるんです?」
「コンビニに行き飽きたのでな、暇潰しに消耗品の量産だ。本来はゴーレムで作れば事足りるのだが、無為な暇潰しの為作ってみた。それで……後ろのは? ニスロクか?」
「お、おおおっ。これは魔王陛下。サタン様直属専属料理人の一人、ニスロクにございます」
まさか本当に魔王がいるとは思っていなかったようで、慌てて平伏するニスロクと五匹のウコバク。
ピクシニーは無遠慮にブエルに寄って行きおおーコレが魔王!? とか失礼なことを呟いていた。
「すごいね、べりあるもかわってたけどぶえるのようしすごいっ」
「娘子よあまり構ってくれるな。照れるではないか」
妖精相手に照れる顔と足しかない魔王の図。
なんだこのシュール。フロシュエルは一人魂が吐き出そうな気がしたが、魔王もピクシニーも気にしてなかったので指摘はしないでおくことにした。
「それで娘子よ。そなたは何者だ?」
「きゅうま、ぴくしにーでっすまおうさま」
「吸魔か。確か後天的種族だったな。おそらくだが妖精から変化したクチだな。ディグ吸収で実力を付けて行く種族と聞いたことがある」
「ろすとさまにもらったのですよ」
「ほぅ、魔統王自らか。面白い話だな。どうだ? 良ければそなたの現状、聞かせてはくれぬか?」
あれ? これブエルさん口説いてる?
フロシュエルは漠然とそんなことを思う。
「あ。後は若い方々にお任せ致しましょうか?」
「は? あの天使殿?」
「ニスロクさんたちどうします? 良ければここで過ごしてみては? 小影さん次第ですが?」
小影さん?
意味が分からず小首を傾げるニスロクたちをとりあえずダイニングルームに案内する。
ピクシニーとブエルはお話に夢中だったので放置することにした。
「うーん、これってキューピッド様たちのお株を奪っちゃいましたかねー。就職先そっちにしちゃうかなぁ」
「フローシュちゃんは、キューピッドって柄じゃないでしょ」
フロシュエルがダイニングルームにやって来て独り言を呟くと、ハニエルがやって来てその呟きを一掃する。
「ハニエルさ……おおぅ、なんか大天使感がでてます!?」
凛とした張り詰めた顔をしたハニエル。先程見た駄目ニート化ハニエルと同一人物だとは到底思えない姿である。
ハニエルはニスロクを座席に促し、その背後にウコバク五匹を立たせると自分は対面に座り、フロシュエルを自分の隣に座らせる。
「あのー、ハニエル様?」
「初めましてねニスロク。大天使ハニエルよ」
戸惑うフロシュエルを無視して話し始めるハニエル。その姿にニスロクも居住まいを正す。
「大天使か。これはご丁寧に。なんですかな? やはり我らを抹消するおつもりで?」
「魔王がここに居座っているのにその部下を殺す、なんてことをすれば全面戦争間違いないわね。現状は非戦地帯といったところかしら? それで、この地にやって来た理由をお聞かせ願えるかしらぁ?」
そんなハニエルの横顔を見て、フロシュエルは初めてハニエルが大天使なのだと今更ながら納得していた。