十九日目7
「休日?」
夕食の折、フロシュエルは小影に尋ねた。
ちなみに先に小影の母にも尋ねてみたのだが、ネットサーフィンという謎の言葉が返ってきただけだった。
後で小影に確認するとパソコンを使っていろんなサイトを巡る事を言うらしい。
小影の母親の唯一の趣味だそうだ。
「そうだねぇ、基本はまだ返って来てない借金の回収に行ってるかなぁ。本当に何も無い時は家で寝てるけど」
「あ、惰眠を貪る、ですね? ハニエル様と一緒ですね」
「「がはっ!? フローシュが毒吐いた!?」」
小影とハニエルが同時に呻く。
フロシュエル自身はそこまで意識してなかったのだが今まで強かさ授業を受けていたため思考すらせずに毒を吐いてしまったらしい。
フロシュエル自身は何が毒だったのかは理解していなかったが。
龍華は学校に戻るということでさっさと帰ってしまい、ブエルと二人家に帰ったフロシュエルは、ダイニングルームで小影の母と小影の休暇を尋ねたのだ。
そしてブエルがクックと笑う。
一人理解していないフロシュエルが今私何か変なこと言いました? みたいな顔をしていた。
「小影ちゃんと一緒だなんて……」
「ハニエルと一緒だなんて……」
「「!!?」」
互いに相手と一緒は嫌だと告げて、はっと気付く。
悔しげに相手を睨む二人。まるで積年の恨みを持つ宿敵に合ったかのようだった。
小影としては朝からずっとテレビを前に惰眠を貪るハニエルと同列に扱われたことが心外だったし、ハニエルに取ってみれば腹黒な小影と同じと言われたことが耐えられない苦痛であった。
互いに睨み合い、そしてそれを告げたフロシュエルに二人して鋭い視線を向ける。
「取り消しなさいフローシュ。小影ちゃんと一緒なのは心外だわ」
「取り消せフローシュ。ハニエルなんかと一緒にしないでくれるっ」
二人の剣幕に怯えるフロシュエル。
しかし、その背中をブエルが叩く。
まるで何かを告げるようなその一撃で、フロシュエルははっとした。
「ですが、惰眠を貪っているのは一緒ですよね?」
二人にクリティカルヒットだった。
うぐっと唸った二人は互いに考える。確かにと小影は思ってしまった。
ハニエルと同じように惰眠を貪っているのは確かに、だ。
しかし、ハニエルにとってみれば小影と同列に扱われるのは我慢できず、納得もできなかったようで、押し黙った小影に代わり身を乗り出す。
「もーっ、私は惰眠なんて貪ってませんっ、フローシュちゃんのいけずーっ」
「ええっ。じゃあ休日何してるんですか?」
「それは……」
反論しようとしたハニエルは詰まった。
テレビを見てる? 煎餅齧ってる? どれも言い訳にすらなりそうにない。
「うぐぐ……」
悔しげに呻くハニエルの肩を、小影がぽんっと叩く。
「諦めなさいハニエル。今回あんたが喰っちゃ寝してるのは事実だから覆しようが無いわ」
自分は喰っちゃ寝してないけどあんたのは事実だから諦めなさい。そんな顔の小影にハニエルは唸りながらも席に座りなおした。
悔しげに呻くが反論はできないようだ。
「ふむ。なかなかいい強かさだったぞ天使見習い」
「え? 今の強かでしたか?」
ただ事実を言ったまでだったフロシュエル。毒舌な連中と関わったせいで朱に染まり始めたようである。
そのことを自覚できていないのは少々問題ではあるが、口調に多少なりとも毒が入り始めたフロシュエルは老練な口述を少しずつ覚え始めている証拠でもあった。
「これならその内田辺という老人ともやりあえるかもしれんな」
「そうですかね?」
食事を食べ終えたフロシュエルはお風呂が湧くまで中庭で魔術訓練。
ブエルに教わる形で新たな魔法に挑戦することになる。
「ふむ。魔力の変更、防壁強化とくれば次は……威力の変化かな」
「威力の変化……ですか?」
「うむ。まずは魔力を圧縮して打ちだす方法を覚えようか。ホーリーアローにありったけの魔力を溜めて打ってみろ。最初は普通のモノ、次に魔力を詰め込んだホーリーアロー。防壁は張っておく。ほれ、ここのゴーレムに当てるのだ。外したら大爆発するからな」
「えええっ!?」
「ちょっとー、外して家壊したら弁償しなさいよフローシュ」
「えええっ!?」
小影が縁側に腰かけくっくと笑う。先程ヤリ込められた恨みを込めているように意地の悪い笑みを浮かべていた。
フロシュエルは溜息一つ、まずは普通のホーリーアローを作る。
「えっと、これでいいんですかね?」
「うむ。まずは一射、して見ようか」
ホーリーアローを射出。狙い通りゴーレムに当る。防御魔法が掛かっているためかダメージにはなってない。
「では、行きます!」
魔力を盛大に盛り込みホーリーアロー。
急激に高まった魔力に驚いたハニエルが慌てて縁側にやってきた。
「ちょ、何こ……」
ハニエルを放置して放つ。強力な一撃がゴーレムを粉砕した。