十八日目6
「茉莉だとは思ってくれるな。容赦なく行くぞ?」
「了解しました!」
茉莉、否、おそらくレウに身体の操縦を交代したのだろう。
急に動きが良くなった茉莉にフロシュエルもまた警戒を強める。
索敵を二重、三重に展開し、相手の能力を見極めていく。
「ホーリーアロースプレッド」
先程フロシュエルが使った技を使って来た。
さらにリフレクトシールドを周囲に展開し始める。
自分が行った技を使い返されるとちょっとむっとくるのだが、フロシュエルは落ち着いて相手の動きを見極める。
自分にはプリズムリフレクションが展開されているのでアレが一撃でも当る心配はない。
なので、反撃を用意する。
無数のリフレクトシールドが展開を終え、これに跳ね返ったホーリーアロースプレッドがフロシュエルを襲う。
「スペクターアロー」
「ホーリーアローではないのか?」
放たれた一撃に対し、リフレクトシールドを展開した茉莉。
互いの魔法が交錯し、フロシュエルに殺到する光の矢束。
リフレクトシールドに当りそうになったスペクターアローは直前に属性を変化させリフレクトシールドをすり抜ける。
「なん……!?」
さらにリフレクトシールドを通り抜けた先で氷の矢へと変化するスペクターアロー。さすがにレウもこれは予想外だったらしく、避ける間もなく鳩尾に突き刺さった。
「流石に完コピされるとちょっと哀しいですね。私結構頑張って編みだしたんですよこれ」
と言ってもテレビを見て数日でのことではあるのだが。
フロシュエルはホーリーアロースプレッドを全て弾き返し、空中へと飛び上がる。
「これは驚いた。見習い天使と聞いたがこれは見習いの域を超えていないか?」
突き刺さった氷の矢を引き抜き、黒い靄で自己再生を行う茉莉が立ち上がる。
「風圧装甲」
「ほぉ、こうか? 風圧装甲」
魔法を使ったら速攻で真似された。
ショックを覚えながらもフロシュエルは光の剣を作りだす。
「ふむ。こうするのか。随分無駄遣いではないか」
光の剣も真似された。
ロッドと剣を携えた茉莉が接敵するより早く、フロシュエルは次の魔法を放つ。
「昇天王国」
「ん? それは意味があるのか?」
「いえ、私の出来る魔法全部見せろと言ったじゃないですか」
「ああ、わざわざ見せてくれているのか。なかなか殊勝な心がけだ」
軽口を叩きながらホーリーアロースプレッド。
迫る光の矢束をフロシュエルはブラックホール生成で全て受け入れ、ホワイトホール生成で茉莉の背後から捻じれた光の矢束を返す。
「末恐ろしいな天使見習い。正直ここまで危険な攻撃を持っていると大天使と闘っているとしか思えなくなるぞ!?」
リフレクトシールドで跳ね返そうとした茉莉は、しかし、ホワイトホールから出現した光の矢が通常の光の矢ではないと気付いて即座に飛び退く。
リフレクトシールドを粉砕した矢束が床を穿って破壊した。
「クク。どうだ茉莉。これがお前の力になるのだぞ「うん、何をどうやってるか全く分かりません」だろうな……」
茉莉には無理か。と溜息を吐いて、レウはフロシュエルを見る。
まだ何か来るのだろうか?
何をしてくれるのだろうか。
わくわくとしているのがフロシュエルにも理解できた。
なので、接近戦闘を伝えることにする。
翼を打って突撃するフロシュエルに、茉莉もまた、剣を構えて迎撃態勢。
交錯の瞬間剣閃が無数に走る。
床に着地と同時にぎきゅっと足を止めてUターン。
まだ体勢を整えていなかった茉莉に最突撃。
「なんっ!?」
「あたぁっ!」
フロシュエルの点穴突きが茉莉の額に叩き込まれた。
「「あいたぁ!?」」
茉莉とレウが同時に同じ言葉を叫ぶ。
脳が揺れたせいかレウにも直撃したようだ。
ふらふらとふらついた茉莉が尻持ちを付いてそこで終了。立ち上がれなくなったらしい。
「うー。クラクラする」
「ここまで、ですね。大丈夫でしたか?」
フロシュエルは茉莉に近づき手を差し伸べる。
無防備に掴んだ茉莉は、なんとか手を引かれて立ち上がるも、未だにふらついている。
「レウちゃんが気絶しちゃってるよぅ」
「あ、あらら。ちょっとやり過ぎましたかね?」
「んーん。結構楽しかった。フローシュちゃんみたいに自由に闘えるように頑張るよ」
「え、いえいえ。私なんてまだまだ。天使にも成れない天使見習いなんですから」
「そんな謙遜しなくていいよ。うーし、伝説の島で頑張るぞー」
「伝説の……? なんですそこ?」
「えっとね、レウちゃんが教えてくれたの。すぐに強くなれる場所なんだって」
強くなれる。今より強くなれると言うのは魅力的な言葉である。
「どう? フローシュちゃんも来る?」
選択肢I:
伝説の島に行ってみる
→ いかない
「いえ、いろいろやることもありますし、落ち着いた後ならともかく今は……」
「そっか、残念」
本当に残念そうにする茉莉にちょっとだけ罪悪感を覚えながらも、フロシュエルは練習場を後にするのだった。